・屋敷を差し押さえよう - 経営→閑古鳥 -
アポリオン族の倉庫の出入り口には、白く大仰な大門がある。
その門には蝶と天使のレリーフがいくつも彫られていて、一見は天国にでも続いていそうな姿をしているけれど、残念。
その門は現実世界に繋がっている。
管理者である僕はその巨大な大門を軽々と片手で押し開いて、お客様を外の世界へと送り出した。
「立ち回りの賢さ、忘れないでね。あなたが言ったことよ」
ところがフロリーさんの後を追おうとすると、リアナ様が鞘を杖にして見送りにやってきた。
「はい、肝に銘じます」
「本当に、気を付けてちょうだいね……?」
リアナ様は不安そうに胸に手を置いて、心細い気持ちをたたえた目で僕を見ている。
僕の主は、心から僕のことを心配してくれていた。
「大丈夫ですよ。僕も一応、勇者パーティの一員だったんですから」
「そうね……。ああ、ごめんなさい……。私、ここにきてからすっかり、口うるさい嫌な人になってしまっているわ……」
「そんなことはありません。リアナ様に心配していただけて、とても嬉しいです」
「よかった……」
僕のリアナ様への評価は変わらない。
そう伝えると、リアナ様は嬉しそうに口元をほころばせる。
「あなたの生活をのぞき見ていると、とても楽しいのだけれど……。なんの力にもなれないのが、とても歯がゆいの……。お願いだから、あまり心配させないでちょうだいね……」
「ごめんなさい、リアナ様」
僕としても執着していただけて光栄だった。
それでつい、心配してもらえるのが嬉しくて笑ってしまった。
「……あっ、もう行くね、フロリーさんまで心配させちゃうから」
「あなたがさっき追われていた時、私は心配で心配で気が気ではなかった。そのことを、どうか忘れないで」
僕は男として、カッコイイところを憧れのリアナ様に見せたかった。
さっきはカッコイイところを見せられたと、僕は得意になっていた。
だけどリアナ様は、僕の無茶がお気に召さないようだ……。
噛み合わないものだなと思いながら、僕は目の前の大門をくぐって、共同経営だけど共同経営者のいないお店に戻った。
・
外の世界に戻ると、僕の寝室にフロリーさんの姿はなかった。
店の方で物音が聞こえたので行ってみると、ランプの灯った薄暗い店内で、フロリーさんが店のあちこちを見物していた。
この物件は大通りから曲がって2軒目というアクセスはとてもいいのだけど、日照の方がかなりよろしくない。
加えて店も狭いため、本当に預かり屋なのかと疑われてしまうこともあった。
「あんまりカッコイイお店じゃなくてガッカリした?」
「あ、天使様……」
「いや、せめて外ではその呼び方は止めてもらいたいかな……。ナユタと、呼び捨ててくれると嬉しいよ」
「ナユタ様、素敵なお店ですね……」
「え、そう? 暗いし、一見じゃなんのお店かわからないし、店の方向性に、ずっと悩んでいるんだけどな……」
預かり所だけでは経営が成り立たないので、農家で仕入れた野菜を売ってみたり、少し遠くの湖の飲みやすい軟水を売ってみたり、薪とか紙とか日用品を売ってみたり……。
そんな迷走に迷走を重ねているお店をフロリーさんが褒めてくれた。
「お店を閉じるとき、全てしまっているのですか?」
「よくわかったね。うん、そうだよ。あっちの世界では時間が止まっているから、それを使って上手くやれないかなって、リアナ様と試行錯誤しているところ」
あんまり、儲かっていないんだけどね……。
「あ、ごめんなさい……。実家が商家なので、こういう物が気になって……」
「事が終わったら、僕たちに商売のアドバイスをくれると嬉しいな。僕たち、どうも商売が苦手で……」
お客様は1日に20人足らず。
その大半に雑貨屋だと思われている……。
「もちろん協力させていただきます! わたし、天使様に感謝していますからっ!!」
「気が早いよ。とにかくお屋敷の前に行って、実際に取り返せるかやってみないと」
「そう、ですか……。屋敷の前に、行く、必要があるのですね……」
「うん、そこが問題。どうやって気付かれずに敵の喉元まで迫ったものかな……」
「あ……わたし、いいことを思い付きました!」
すると僕はフロリーさんの意外な側面を見た。
フロリーさんは手のひらを重ねて、明るくその身を弾ませた。
失礼を承知で言うと、彼女は怯えていたり、メソメソとしてばかりしている印象があった。
でも今は、身を弾ませてこの事態を楽しんでいるかのようにも見えた。
「夜まで待つとか?」
「わたし、変装させていただきます!」
「えーっと、着替える、ってことなの……?」
「はい! こんなこともあろうかと……ドレスを1着、持参しております……!」
「そう。じゃあやってみて。その間に僕はここの片付けをしちゃうよ」
正しくは僕が片付けるのではなく、リアナ様があちらの世界から僕に預かるように命じる、になる。
逆に品物を並べたいときは、リアナ様が僕に放棄を命じることで、店の棚に捨てている。
この力は商店の経営に便利だけど、相変わらず回りくどくて融通が利かなかった。
もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。




