・安楽イスの倉庫番 - 燭台→お客様 -
投稿が遅くなり申し訳ありません。
また別の話に別の作品を投稿していました。
本日は定時通り、19時と00時に更新予定です。
さていきなりだけれど。
僕たちアポリオン族の能力には、1つ大きな欠陥がある。
僕たちは倉庫番として貸し出した倉庫に入ることができるのだけれど、その間、現世の僕は雷が落っこちても気付かない、酷い無防備をさらすことになる。
つまり施錠されたような安全な環境がないと、僕はリアナ様にお会いすることも叶わなかった。
僕は鍵をかけた寝室のベッドに横たわり、やっとのことでリアナ様が暮らす倉庫世界を訪れた。
「あらナユタ、遅かったじゃない」
倉庫の一角には、リアナ様のために工面したテーブルとイスと、ベッドが置いてある。
それと殺風景な石の床と壁を隠すために、没落貴族の男から衝立と、タペストリーと、クリーム色の敷物を買い取って配置した。
リアナ様は照明器具がとてもお好きだ。
十を越える燭台とランプが並ぶその一角は、遠くからでも一目瞭然に煌々と輝いている。
この世界はいくら使っても油もろうそくも切れないと、リアナ様は前向きにここでの生活を楽しんでくれていた。
……と。
話が横にそれたけどその一角に、リアナ様がさっきの女の子とイスを並べて座っていた。
おやさしいリアナ様は、刺された傷がいまだに癒えていないというのに、うつむくお客様の肩を撫でてやさしく慰めているようだ。
女の子の鼻先から涙の滴がこぼれ落ちて、彼女のすすり泣く声が倉庫にこだましていた。
彼女の身に何があったのかわからないけれど、その泣き声と姿に、僕まで胸が傷んだ。
「ぁ…………天使、様……」
僕に気付くと女の子は席から立ち上がり、僕の前に詰め寄って、それから祈るように腕を組みかけて、何を思ったのか彼女はそれを止めた。
「どうしたの、お姉さん? 僕、余計なことをしたかな?」
「とんでもありませんっ! わたしっ、あのままでは、連れ、戻されていました……」
華奢ではかない雰囲気の人だった。
手首なんて骨と皮だけに見えるくらい痩せていて、青紫色の長い髪は綺麗だけど少し痛んでいた。
「そう、よかった。……だけど、連れ戻されるって、家に?」
「はい……。わ、わたし……っ、わたしっ、どうしても……っ、行か……っ、ッ、ッッ……。わ、わた、し……っ」
彼女は感情が高ぶり過ぎて言葉が出てこないようだ。
僕も同じ経験がある。
リアナ様をギルバードたちに刺され、服従を強いられたあの時、悔しさと怒りに言葉が出なくなった。
「そう、お姉さんの力になれてよかったよ」
「天使、様……」
僕は天使様だそうだから、本物の天使のふりをした微笑みを彼女に送って、リアナ様に視線を送った。
「少し、そこのベッドで休むといいわ。あなたの事情は、私がナユタに伝えておくから、今は休みなさい」
「で、ですが……わ、わた……、自分で、がんば、るって……決め……っ。ッ、ッッ……ご、ごめん、なさい……」
リアナ様は本当におやさしい。
安静にしていれば平気だそうけど、歩くと傷が痛むように顔を歪めるのに、弱ったお客様を立たせて、背中をそっと押して自分のベッドまで寄りそっていった。
すぐには離れずに、枕元ですすり泣く彼女の言葉をやさしく聞くそのお姿は、僕の目にはまるで女神そのもののように見えた。
詳しい事情をリアナ様から聞けたのは、お姉さんが泣き疲れて、やっとのことで寝息を立て始めたその後のことだった。




