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お兄ちゃんが女の子だった…

 それは過去の記憶。

 子供の頃、近所に住んでいた一つ年上のお兄ちゃんとの約束。


「お兄ちゃん。大きくなったら私と結婚して」


 それは別れ際の告白だった。


 両親の仕事の都合で住んでいた街を離れなければならない。

 お兄ちゃんと遊べるのも最後の日、帰り際に意を決して私は言った。


 子供の頃の私にとっては今世の別れの気持ちだった。

 だから大事にとっておいた気持ちを、こうして打ち明けたのだ。


 別れても寂しくないように。

 次に会う時までの希望となるように。


 だけどそんな希望と期待は打ち砕かれた。


「アサヒ。同性同士では結婚出来ないんだ」

「!?」


 お兄ちゃんは困った様子で自分の頬を掻きながら私の告白を断った。


 私は唖然とした。効果音があれば『ガーン!!』となっていたぐらいには。

告白を断わられたこともそうだが、それ以上にお兄ちゃんが私のことをずっと男だと勘違いしていたことがショックだった。


 両親はショックで固まった私を荷物のように抱えると、そのまま車に乗せ出発。

 目的地の隣町に着いてから私は意識を取り戻したのだった。


 お兄ちゃんとの最悪な別れ。

 その時の記憶は子供ながらに私の心に深く刻み込まれた。

 

『次に会った時には絶対に女の子として見て貰うんだから!!』


 私はある種復讐心にも似た気持ちでその後の7年間を過ごした。

 次にお兄ちゃんに会うことを楽しみにしながら。




 それから7年後。

 私は高校1年生、お兄ちゃんは高校2年生となった。

 

 既に桜が散り、もうすぐ夏休みが始まるそんな時期。

 私は季節外れの転校をすることになった。お兄ちゃんの居る高校へ。


 より詳しく言えばお兄ちゃんの住むアパートで一緒に暮らすことになっていた。

 もちろん各両親には了承済みだ。


「もうすぐ…お兄ちゃんに会える…から…」


 私は小さく、自分に言い聞かせるように呟いた。


 場所はお兄ちゃんが一人暮らしをするアパートの最寄り駅。

 住宅街ではあるものの、時刻は夕方前で人通りはそれなりで済んだ。

 それでも邪魔にならない隅の方に隠れるように私は立った。


 けれど時間が経つにつれ人通りが増えていく。

 視線は私に向けられていないものの、自分がこの空間の異物のように思え、集合場所を駅にしたことを強く後悔した。


 早く来ないかな。そう思いながら電車から降りる人々を、遠目から眺めていると一人の人物が目に入った。


 朧気ながら記憶にある幼馴染の姿。

 そして相手もこちらに気づき、近づいた。


「アサヒ…だよな?」

「おっ、お兄ちゃん!!」


 短めに切られた黒色の髪の毛に、細身だけど筋肉の引き締まった体。

 どこか気だるげな眼は、夜更かしでもしていたのだろうか。


 そして何より―――。


「何でスカート!!」


 何故かスカートを履いていた。


「えっ、ん?制服だから…でいいのかな?」

「制服スカートなの!?」


 男子生徒にもスカートを履かせるなんて、何て校則だ。


 お兄ちゃんが偶々中性的な見た目だからスカートでも似合ったけど、柔道部のゴリ山くんみたいな人だと、絶対におかしかったよ。

 ていうか何でそんな高校を選んだの、お兄ちゃん!!


 っと内心でツッコミを入れつつ周囲を見渡すと、お兄ちゃんと同じ制服を着た男子生徒がズボンを履いて駅から出て行くのが目に入った。


「やっぱり女装じゃん!?」

「女装じゃないよ!!ていうか声が大きい!!」


 私はここが駅の構内であることも忘れて声を張り上げてしまった。


 幸いお兄ちゃんが出てくるのが比較的遅めだったことと、現在位置が構内端の方だったので怒られることはなかった。

 それでも数人の乗客には奇異な目では見られたけど。


「やっぱり勘違いしてたか…」


 お兄ちゃんは頭を掻いた。

 勘違いとは何のことだろう?


「アサヒ。昔から僕のこと、ずっと男だと思ってたでしょ…」

「男じゃないの!?」

「生まれてこの方、ずっと女性だよ。

 性転換もTSもしてない。もちろんアサヒと遊んでいた時もね」


 TS…についてはよくわからなかったけど、どうやら昔から女性だったらしい。

 えっ、嘘。騙されてた?


「告白された時にちゃんと言ったつもりだったんだけど…」

「…あぁ、そういうこと」


 私は記憶の中で腑に落ちた。


『同姓同士では結婚出来ない』


 てっきり私のことを男性だと思ったから結婚出来ないと言ったと思ってた。

 だけど実際は、お兄ちゃん含めて女性同士だから結婚出来ないと言っていたのだろう。


 つまり、私の初恋は―――。


「じゃあさ、高校に転校するにあたって、お兄ちゃんと同棲出来るっていうのは!!」

「女の子同士だからだろうね。

 流石に幼馴染とは言え、異性を一緒に住まわせる親はいないでしょ」


 言われてみればやけにあっさり許可してくれたと思っていた。

 てっきりお母さんもお兄ちゃんとの結婚を応援しているのだとばかり…。


「そんなぁ…。

 せっかく同棲しつつ、やることやろうと思ってたのに!!」

「そんなことしようとしたの!?」


 私の完璧な計画が、別れてからの7年と、今後の60年の計画が。

 全て破綻してしまった。


 私の気持ちを他所にお兄ちゃんは「女の子でよかった…」と、酷いことを呟いてた。

 悔しくて胸を叩くと確かにそこには薄っすらと膨らみが…、ギリ誤魔化せるか?


「なんか今、失礼なこと考えてない?」

「全く(考えて)無いよ」

「(胸は)あるもん!!」

「違うよ、そっちのことじゃなくて!!」

 

 お兄ちゃんは恨めしそうに頬を膨らませた。

どうやら意外と気にしているようだった。


 お兄ちゃんもこれ以上このことに触れられたくないのか話を逸らした。


「とりあえず家でいい?」

「うん。とりあえず荷物も置きたいし」


 あまり駅の構内で長々と話をするのも良くないだろう。

 私たちはお兄ちゃんの部屋へ向かった―――いつまでお兄ちゃん呼びなんだろう?

 …心の中ぐらいお兄ちゃん呼びを許してくれるかな?

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