第九世界・「トンネル内のファイトクラブ」
初めましての方は初めまして。
第9話です。
────時刻は8時40分頃、東京湾の下を通る長い海底トンネル内にて。
獄、時国、ヴェントットの三人は目の前に立ちはだかる、カマキリを無理やり人型にしたような怪人『鎌・異門獣』と対峙している所である。
三人と異門獣一体は、車の停められていない、車五台分くらいの空間にいる。それはこの怪人の出現による騒動で、人々がそこを避けたことにより出来たトンネル内の少しばかりの空間。それはまるで『そこで戦え』と言わんばかりにボクシングの戦闘場のようである。
ここに三人と一体はいる。
───トンネルなので少し薄暗いこの場所には異様な雰囲気が漂っている。
人が載っていない車が無数にあるからか、それともこの異門獣のせいなのか。獄一行には理解できない、空間が歪むほどの雰囲気。
この雰囲気を前にして、獄が思わず冷や汗をかく程である。
しかし、この雰囲気に『鎌』は動じてはいない。なぜならこの怪人にはこの雰囲気、空間を曲げるオーラの正体が理解っているからである。
『鎌』は三人に向けて、細長い頭の触覚をピョコピョコ動かしながら話した。
「お前らも感じてるこの雰囲気…これは俺の『闘志』だ! この『戦いたい気持ち』…『闘争心』や『向上心』と言うのはな、空間をねじ曲げる程の『威圧』となってお前たちの前に現れる!!!」
この異門獣が言うように、獄達から見て、『鎌』の後ろの空間がねじ曲がって見える。
『闘志』…『強くなりたい、戦いたい』と言うのはここまで影響するのかと三人共通に思った。
しかしこちらも負けてられない。少し威圧されたが言葉を返したのは時国だった。
「…へっ、てかそんなの少なくとも俺にはカンケーないね。てか要するに『ハッタリ』ってことだろ?」
時国は獄達の前に立つと、右腕を『異門獣化』、キラキラと煌めく、ナイフや刀が重なり連なったような腕に変形させた。
それを見た『鎌』は、驚いたような仕草をとった後、嬉しそうに笑い声を上げた。
その笑い声はトンネル内に響いた。
「…強そうだなロン毛チビ…女かと思ったら男だったとはな。だが性別は関係ない。俺は相手を過小評価しないのだ。過小評価はかえってコチラの戦力を損なわせる要因となるのだ。これが戦闘の知識…!!」
好戦的なそのカマキリの怪人は、鎌を前に突き出すように構えながら、時国の方へ歩き出した。
そしてその距離、間合いが腕を伸ばすと触れられると言うくらいになるという距離に近づくと、『鎌』は右手の鎌を上へゆっくりと挙げた。
時国は最初こそ笑って見ているが、その鎌が上がるうちにその笑みは消えていった。
それはゆっくりの遅さゆえに、いつ攻撃が来るのか解らない…ゆっくりの中、こちらが攻撃すればカウンターが来て一手遅れるかもしれないという、推測からである。
そしてその鎌の腕が真上に伸びきったと言うその刹那、瞬間的高速、常人の目に見えるかギリギリと言うくらいのスピードで、時国に向けて振り下ろした。
振り下ろす際のシュッと空気を斬るような音は、時国も、その後ろの二人にも聞こえた。
「…『急下鎌々』…『遅さ』……それは相手の正確な判断を鈍らせる…相手が素早く攻撃してくるという、『理想の常識』を狂わすのだ…!! 」
『鎌』は得意気に話す。しかし、その言葉とは裏腹にも、彼の鎌は時国を切り裂いてはいない。
この鎌は間一髪、時国が『鋭い刃の手』でがっしり掴むことで体に到達さえしていなかった。
それを見て『鎌』は感心したのか、先程よりテンションを高くして話す。
「受け止めたか!! やはりお前はやる男のようだな!! 俺とお前、この戦いを通しての『成長』が楽しみだ!!」
ガチガチと刃物が絡み合う音を発しながら鎌を掴む時国、ニタリと笑うとその掴む力を更に強めた。時国はその鎌を離そうとしない。
口角を上げて『鎌』に喋りかけた。
「……せっかくコチラの間合いに入ってきてくれたんだ…このチャンス、逃すと思うか虫野郎。」
時国は掴んでいた鎌から手を離すと、そのまま右の裏拳を『鎌』の顔めがけて横になぎ払うように振った。
「The・『裏拳』!!!」
「ほほぉ!!俺の鎌を掴み射程外に出せなくし、この攻撃を放とうとしていたのか…!!」
これは『鎌』の言った通り、『理想の常識』をくつがえす攻撃方法である。
右手で掴んでいるので、左手で攻撃するだろうというこの場の状況からの『理想』をくつがえした。
しかし、『鎌』も甘くはなかった。
その裏拳は、『鎌』が素早く左手の鎌で防御したことにより、ダメージは与えられなかった。
ただ、防御時にぶつかり合い、ガチィンという大きな金属音を出しただけである。
それを後ろで見守っていた獄は時国に向けて叫ぶように言った。
「おーい!! 一人で行けンのかー? 俺達も参戦した方がいいだろー!」
時国は後ろを向き、笑いながら返す。
「大丈夫だよ獄!! てか、 尽加紗センセーに言われてたろ? 俺を強くしろって!! 今がその強くなる時だ!! 見守っててくれ!てか、マジで無理な時はこっちから言う!!」
獄は「あんにゃろ出しゃばりやがって…」と一言ぼやっと呟いた。
一方ヴェントットは、自身の羽織るヒョウ柄のコート『武装武器庫』に両手を突っ込み、ガサゴソと何かを探している様子である。
よく耳を傾けると、「これじゃねぇ、あれじゃねぇ」と必死に探している。
───時国と『鎌』との戦いの最中、獄はあることに気がついた。
それは自分自身の額からツーっと滴る『汗』である。
掌見みれば『手汗』がぐっしょりで、服の下も汗ばんでいる。
獄は、このトンネル内の温度が段々と上がっている、それに気がついたのだ。
いくら海底トンネルとはいえ、異常な温度の変化…先程の『威圧』のせいとも、とても考えられないほど暑い。
獄は、その気が付いたことを横にいるヴェントットに話す。
「おいヴェントット…急激にクソ暑くなりすぎやしないか…? まさか、他にも異門獣いるんじゃ…!」
ヴェントットはそれに応えた。この暑さの原因を知っているような素振りで話す。
その際、トンネル内の上部に設置されている大きな『換気扇』を指さした。
「いや、恐らく…あのカマキリの野郎、このトンネル内の換気扇をぶっ壊しているな…長時間の戦い、つまり『泥仕合』をさせない為だろうな。一瞬で片付くような戦いにしようとしているんだろう。」
獄がヴェントットのその指の先、換気扇に目を向けると、確かに換気扇のプロペラが回っていないことがわかった。
そしてトンネル内の非常出口のそばにある、壁に付いている温度計に目をやると、その温度計の数値は『45℃』と表記されていた。
その温度を見た瞬間、獄は恐ろしいことに気がついた。
汗の交じった唾をゴクリ、まさに固唾を飲み込むと時国に向けて大きく叫んだ。
「時国!!! 少なくともタイムリミットは『35分』って所だ!! それを過ぎれば俺達は、熱中症になって倒れる!!」
その叫び声を聞いた『鎌』は獄にも、時国にも聞こえるような声で、言葉を返した。
「やっと気がついたか…。そう、これは泥仕合を阻止するためにやったこと…長引けば俺もお前たちも、熱中症やらでどっちも倒れる!!! さぁ、ロン毛チビ…タイムリミットはあと『34分』!!! 俺を倒してここから出ろ!!!」
時国の戦いのタイムリミットはあと『34分』…一秒一秒カチカチと、ヴェントットの腕時計は刻んで行く…。
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