01.アイツがラブコメ主人公
初めて執筆に挑戦したライトノベルで、初めて『小説家になろう』に掲載させていただきます。
第28回電撃大賞で四次選考まで通過いたしました。
近日中に完結する短編となります。
まだまだ書式など勉強中です。
おかしな点も多々あるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです!
「なんで、あんな冴えない野郎が学園中の美少女はべらせてんだよ。盗撮でもしてあの子たちの弱味握ってんじゃねえのか」
PuiPuiモルカーのように丸々肥え太った青木浪漫が、鼻息を荒げて目の前でボヤく。
僕はそのセリフに聞き覚えがあった。読み覚えといってもいいかも知れない。
「ロマンはラノベによくいるモブだなぁ」
梢そよぐ木々の蔭。体育館の開いた側扉の前。小さな階段に腰を下ろして、ロマンと僕はまだ陽の高い春の放課後を持てあましている。
「ラノベ? 読まないから知んねえけど。そもそも訳わかんなくね? なに、あいつらの部活『エキストラ部』って」
「顧問の峰岸先生が言ってたじゃん。なんでも学校のはぐれ者を集めて、困ってる生徒の依頼を引き受け、可能な限り多くの人の役に立つようにと命じた部活だって。で、設立にあたって最初に目をつけられたのが、部の中心人物にして唯一の男子。本堂優太」
そう。本堂優太。
この学園が青春ラブコメの舞台だとしたら、間違いなく主人公はあいつだろう。
「峰岸先生って、あのエロい女教師だろ。どうして峰岸先生が本堂なんかに声かけるんだ? どこに接点あったよ?」
「知らないよ。で、本堂と同時に集められたのが――」
こうして、ぼくとロマンは自然な流れで、当校が誇る本堂優太のハーレムヒロインたちをひとりひとり解説していく。
「ああ――まず來住野はるか、な。学園一の秀才にして誰もが振り向く絶世の美少女。人を寄せ付けない冷たいオーラをまとった黒髪の乙女。ってぇ評判だったのに、入学早々あっと言う間に本堂と打ち解けてイチャイチャするようになった」
「おお、ロマンにはあの二人の口論がイチャイチャに見えるんだ? 人によってはめっちゃギスギスしてるって評価してるけど」
さながら優等生系ヒロインと鈍感主人公の会話のように。
「いや、そりゃイチャイチャに見えるだろ。仲悪い相手とあんな丁々発止の言い合いしないぜ、普通。來住野と二人きりで部活を始めた時点で、圧倒的に本堂はこの高校のあらゆる男子に対してアドバンテージを取った。ズルくねえ? 峰岸先生ズリいよ、ひいきだよ」
「ロマンはラノベを楽しむ素質を持ってるね。で、次にエキストラ部に入ったのが――」
「天花寺立華、な。明るい髪色に素直な性格、誰にだってフレンドリーな陽キャ。そりゃ俺らモテない組からしたら、憧れの的だよ。だって平気で話しかけてくれんだもん。なんかたまにベタベタ触られるし。意識しちゃうだろ」
そして、か細い声で付け足す。
「……巨乳だし」
再び声のボリュームとテンションを自ら持ち上げて、
「そんな天花寺さんがエキストラ部に入った。流石に驚いたわ。なんで? ぶっちゃけ來住野はたしかに先生が気にかけるレベルで人間関係詰んでそうだったけど、コミュ充の権化みたいな天花寺さんが、あのはぐれ者を集めたって名目の部活動に入る理由がわかんねえんだよな」
僕は知ってる情報の全てを説明しようと思ったが、ロマンのラノベ適性を知りたくなったのであくまで抑えめに伝えてみる。
「天花寺さん、本堂の幼なじみなんだって」
「……は?」
「なんか、本堂優太って親の都合であちこち引っ越してて、四年ぶりにこっち帰ってきたみたい」
「ちょっと待てよ……あー」
ロマンは頭を抱え、あふれ出す自身の想像に煩悶し、やがて苦しい呻き声を上げ始めた。
そして自然と導き出した解を口にする。
「それ、要するにこういうことじゃん。天花寺さん、本堂のこと好きなんじゃん! 幼なじみで、昔からずっと想いを秘めてて、久しぶりに同じ高校で再開できたのに、本堂がなんか秀才美少女と二人きりでイチャついてるから耐えられなくなって割って入ったんじゃん! ああ~天花寺さん可哀そう。あんないい子なのによー」
「ロマンはラノベ作家の素質を持ってるね。よく『幼なじみ』ってワードだけでそこまで辿り付いたな。で、ここからは推測なんだけど、定番のパターンからいって」
「定番? なんの?」
「だから、ラノベの。古風なくらいだけど。定番パターンからいって、そこで峰岸先生は三人にリミットを突きつけたと思うんだよね。部員の数が定員の五名に満たないと、部として認めません。近々エキストラ部は解散です、って」
「なんで? 自分で新規の部を創設しておいて、生徒放り込んで、その上でそんな条件設けてんの? 峰岸先生ってソシオパス?」
「いや、あくまでぼくの推測だから。あとアニメ化した時のためにも若干のペースアップも兼ねて、ここでエキストラ部の美少女は一気に二人追加される。知ってるでしょ?」
「いやアニメ化の意味はわかんねえが……他の部員なら当然知ってるよ。あそこには有名人しかいねえからな」
続きをロマンが引き取って話してくれる。
「まずは二ツ神依莉愛。染めてんのかウィッグか知んねえ紫色したツインテールに、普通に校則違反なゴスロリアレンジの制服。不登校扱いされてるが、たびたび校舎で目撃されてる。なんの為に学校来てるのか、部活動時以外どこに潜伏してるのかもわかんねえ。話しかけてもまともに目も見て貰えなくて、本当は同じ次元に住んでないんじゃないのかってもっぱらの噂だぞ。だが放っておけない危うげな雰囲気が可愛い……それがいつのまにか本堂にだけはなついてる。っていうか、この学校に普通の苗字の美少女はいねえのか!」
長々と説明セリフを繰り広げている間にロマンの表情は見る見る紅潮し、全身から汗が噴き出てきていた。
すぐムキになって不平不満を口にする。こいつ本当モブ適性高いな。
「説明ごくろうさま。來住野はるかに、天花寺立華に、二ツ神依莉愛。そして今のとこエキストラ部最後の一人が――」
「鈴木、な。女子サッカー部の鈴木。スズキってなんだよ! ルビなくても読めるわ!」
「下の名前は眞琴らしいよ」
「なんか普通! なんでここに来て『鈴木』が混ざるんだよ…… たしかにそこいらの男より長身のイケメンだし、試合中ポニーテールがたなびくたびに男女問わず黄色い声援が上がってるのに、制服に着替えて時たま髪をほどいてると意外と清楚な美女に見えてそのギャップがたまんないけど。二ツ神と鈴木。どうしてこんな月と太陽、真逆みたいな二人が同時期にエキストラ部に入った?」
「鈴木さんは負傷して退部したから。なかなか人に弱味を見せられない鈴木さんが、等身大でいられる場所がエキストラ部だったのかも知れない。二ツ神さんは……何を考えてる人かわからないけど、例えばエキストラ部が部室として部室棟のどこか空き教室を使っていて。それが元は二ツ神さんが隠れ家として使っていた空間で、学校で他に居場所が無かったからおのずと部に入らざるをえなかった、とかじゃないかな」
「……ハジメ。よくそんな合理的に解釈できるな」
「よくあるから」
「よくあるか?」
よくあるかな? ありそうな気がして適当にでっち上げてみたが、これといって前例は浮かばなかった。
どうも僕はロマンほどのラノベ適正は持ち合わせていないらしい。
本物のラノベ適正を持ち合わせた男の想像はこうだ。
「まあ、けどアレだな。例え本堂と來住野と天花寺さんの間に三角関係が生じていたとして、遅れて部に入ってきた二ツ神と鈴木は外からちょっかいを出すくらいで、色恋沙汰にはあまり深く絡まないんだろうな」
「ロマンは本当にラノベ読んだことないの?」
「ないけど」
「すごいね」
「なにが?」
そのとき、校庭の隅の渡り廊下から賑やかな一団の声が聞こえてきた。
少女たちの群れと、ひとりの少年が、校舎から部室棟へ向かって歩いて行く。
「噂をすれば。『エキストラ部』だ」
いかがでしたしょうか。引き続きよろしくお願いいたします。