写真機/ずみまぜん
PV感謝します。
この先どう展開させようかなとか考えてたら朝になってました。対よろ。
「うー、今日は冷え込むなあ……」
手を温めるために吐いた白い息が宙を舞う。本格的な冬の到来を感じながら、私は市場の人混みの中を歩いていた。
収穫祭が終わり、年明けまであと一月となった街並みは既に年末ムードで、収穫祭の片付けから年末への準備とどの家も大忙しな時期の今、撫子魔導器も例外ではなかった。食品の買いだめや家の大掃除など、私とシエルはやらなければいけないことにてんてこ舞いになっていた。
カシャッ。
……?
カシャッ。
…………?
軽い金属片を落とした時のような音が聞こえた気がして、音の方向に顔を向けると、そこには耳長の妖精族が私目掛けて見知らぬ魔導器を向けていた。
反射的に元の方向へ首を回し、目を合わせなかったことにしよう、と決め、市場の奥へなるべく早い速度で歩き出す。
聴覚にマナを集め、妖精族の男の足音に耳をそばだてる。私より身長が頭一つ分大きいあの男はゆったりとした歩幅で、それでいてぴったりと私を追いかけてきているようだった。私は混乱のあまり裏路地に足を踏み入れてしまった。
細い道を右へ曲がり、左へ曲がり、直進し、なるべくランダムになるように歩を進める。が、本気を出せば私より早いはずの男を撒けるはずなどなく、行き止まりにたどり着く。
これ以上逃げられない。ああ、私の人生はここで終わるのか。せめて最期くらいはシエルやミナカ達と一緒にいたかったな、などと気が動転するなか、恐ろしいほど冷静に考えていた。
「……ぜえ、はあ、はあ…………あの……ずみまぜん」
男は全速力で街の外周を何周かしたのか、と思ってしまうほど辛そうな声で私に話しかけてきた。呆気に取られた私は困惑しながらも恐る恐る後ろを振り返った。
「あの……覚えてませんか……僕、ケアルです」
「ごめんなさい分からないです。人違いだと思いますよ、お引き取りください」
これは本当に危険なタイプの人だ。いつからつけられていたのだろうと思うとぞっとする。
私はなるべく刺激を与えないように男に話しかけた。
「ダイアちゃん……だよね?」
男はそう言いながら、私の言葉など聞こえていないかのように先程の魔導器を掲げてこちらへ一歩、二歩と歩み寄ってきた。
「こっ、来ないでください!⠀変態!」
咄嗟に出た声と共に右手が動いていた。がつん、とおよそ人がぶたれたとは思えない音をあげて男の頭蓋骨が揺れるのを感じる。そういえば私の手、金属だった。
男はうっ、と鈍く呻き声をあげてよろめき、そして頭から倒れこんだ。
「こいつ、どうしましょうか先輩。やっぱりすぐ憲兵に突き出した方が良かったんじゃないですか?」
「ちょっとやり過ぎちゃったし。怖かったけど。話くらい聞いてからでもいいんじゃないかな」
「も〜先輩は優しすぎなんですよ!⠀未遂とはいえこの男、先輩を襲おうとした犯罪者なんですからね!?」
あの後、シエルを呼んで二人がかりで男を運んだ私たちは、店の地下倉庫で彼を磔にしたのだった。
「うう……あっ痛ッ!?」
ようやく目が覚めたかと思うと、耳長の男は思い出したかのように後頭部に来る痛みに悲鳴をあげた。
「目を覚ましましたねハンザイシャ……先輩の苦しみを自分で味わいなさい!」
「やめてシエル!⠀槍でついたりなんかしたら本当に死んじゃうよ!」
半狂乱状態のシエルを何とか押さえつけながら、私はケアルと名乗った男に話しかける。
「ケアルさん……でしたよね?」
「はい。というか、ここはどこですか……っ!?」
自身の置かれた状況を瞬時に理解したケアルは、案の定パニックに陥った。護身用とはいえ威嚇する猫のような様子で槍を向けているシエルがそばにいるのだから、そうなるのも無理はないだろう。
「落ち着いてくださいケアルさん!⠀傷つけようという訳では無いんです!」
「わあああ!⠀殺される!⠀誰か助けて!」
「当然の報いです……あたしは先輩のために手を汚す覚悟はできてます……!」
「いいからシエルは黙ってて!」
収拾がつかなくなる前になんとか二人の間に入って混乱を収める。シエルがいては落ち着かないからと、私はケアルと二人きりで話をすることにした。
「まず初めに言っておきますけど、私、本当にケアルさんのことは知りません」
「随分前だったからね。実を言うと、僕は君のお姉さんとの知り合いなんだ」
「姉の?⠀じゃあなんで私に、それもあんな魔導器を持って来たんですか」
「あれは写真機って言うんだ。昔色々あって君のお姉さんにお世話になってね。君にお姉さんの写真を見せたかったんだ」
彼の魔導器は、移した瞬間の景色を絵画のように保存するシャシン、というものを作るためのものらしかった。私はいそいそと写真機に手を伸ばし、確認する。
だが、この箱はうんともすんとも言わない。魔晶石はあるにはあるが、この男の言っていることが信用出来ない私にとっては、これが本当に魔導器なのかすら怪しかった。
「これ、動かないですけど、騙してるんですか?」
「い、いやいや。落とした時に壊れちゃったんじゃないかなって……多分」
鬼のような形相で睨む私に、彼は申し訳なさそうに言った。そういえば、私が殴った時に首から飛んでいった何かがあったのを思い出す。
「僕、魔導技師じゃないから直せないんだよな……直せたら写真も見れるんだけどな……はは……」
目を逸らしながら口角をあげないように彼は笑う。彼の「誰か直してくれないかな」という心の声はもろに私に聞こえていた。
「…………仕方ないですね。私が直しますよ。でもケアルさんはこのままで、姉の写真を確認するまでは信用できません」
「ですよねえ……」
はあ、とケアルに聞こえるように大きくため息をついて、作業場から倉庫に修理道具を運んでいく。どうしてこの人の為に修理をしなくてはいけないのかという気持ちはあるが、姉のことを知りたいという気持ちが勝った私は、黙々と準備をした。
「……修理、始めますけど、ちょっとでも変なことしたらこれも壊しますし、今度は本当に刺しますからね」
「わ、分かった。君みたいな子にそんな事しないけどね」
毎回含んだような言い方をするケアルにむっとしながらも、ルーペをかけて写真機を眺める。確かに落とした跡が内部に何かしらの影響を与えているように見えた。今は、この人の魔導器ではなく、この子を助けるために修理しようと決意して、ぱちんと両手で頬を叩いた。
「このまま怪しまれたままってのもあれだし、君のお姉さんの話でもしようか?」
修理に取り掛る直前、彼は私にそう提案してきた。本当に姉の話なのか分からなくもあったが、気になる気持ちは抑えられなかった。
「……そうですね。不本意ですがお願いします」
私がそう言うと、ケアルは目を閉じて優しい笑みを浮かべながら話し始めた。
最後まで読んでくれてありがとう。
3日に1日くらいはネタ温めるデー欲しいなとか感じてる。まだ1週間しか続けてないけど。




