ゴールデンターキー/あたしのカンが……
今回登場する「モルト」という単位はおよそ1.5メートル/1モルトです。
PV感謝。
お絵描きしてたら投稿時間遅くなっちゃったけど後悔はしてない。反省はしてる。
「本当に、すみませんでした……」
「誘った本人が大寝坊なんて、先が思いやられますよダイアさん」
「はい……」
いつも性別に似合わない幼さの残る可愛らしい顔で、にこにこと笑顔を浮かべているウルルが、今日ばかりは苦虫を潰したような顔をして私を諭す。寝坊する度に自分の寝坊癖にはどうにかならないものかと頭を抱えるものの、直そうとして容易に直せるものでもないそれをどう対策したら良いのか分からず、ただ頭を下げて反省の意を見せることしか出来なかった。
ナムカの月の最終日に行われる収穫祭がいよいよ三日前になった。日頃のお客様への感謝と表して盛大なパーティーを開くのが撫子魔導器の毎年恒例の一大イベントなのである。
「今日はいよいよ巨大樹の森に行く日だって言うのに、先輩は呑気ですねえ」
「別に気を抜いててこうなったわけじゃないの。あと、先輩はやめて」
「いいじゃないですか!⠀尊敬する魔導技師としての先輩ですっ」
手で顔を覆いながら、居候を始めてから何故か私のことを先輩と呼び始めたシエルに言い訳をする。
「ちゃんと反省してくださいねダイアさん。昼すぎに巨大樹の森に着いたとして、黄金七面鳥を捕まえるどころか見つけることすらできないなんてことになったら本当に一大事ですよ」
「今日はもう言われたことだけしっかりこなすので、それでお願いします……」
私たちは今日、街を離れて黄金七面鳥の生息する巨大樹の森に早朝から向かう予定だった。私のせいで予定が全て狂ってしまったが。
「でも大丈夫ですって先輩!⠀リンシアさんは今までで一度も捕まえられなかったことのない幸運の持ち主だったって昨日言ってましたよね!⠀先輩だってできますよ!」
毎年姉の狩りの手伝いに来てくれていたウルルと、故郷で狩猟経験があったというシエルがついているとはいえ、およそ一年ぶりとなる外出がまさか黄金七面鳥を狩ることになると思っていなかった私は、見た目以上に緊張していた。
「わあ……随分遠くまで来たね……」
「ダイアさんは外に出なさすぎなんです。まだ城門を通ってから半刻も経ってませんよ」
普段城門の内側から景色を見ていた私にとって、どこまでも続く草原と地平線を望む機会はほとんどと言っていいほどなかった。今日くらいは無作法でもいいだろうとウルルの運転する馬車の荷台でごろんと横になり、大地の息吹を全身で受け止める。
がたがたと小刻みに揺れる荷台に揺さぶられながら目を閉じると、はるか上空を飛ぶ鳥の音や、果てには空気の震える音すら聞こえるような気がしてくる。
「先輩それいいですねっ!⠀あたしも……んしょ」
体重を移動させたシエルによって、荷台がぎしりと音を立てた。彼女の頭が横に来るのを感じる。しばらくすると、シエルは小さく寝息をたて始めた。
「……いい天気ですね」
「なんですか、そのおばあちゃんみたいなセリフは。でも、こんな陽気な日も冬になったらいなくなってしまうでしょうね」
何となく悲しい、と言った調子でウルルはぼそりと声を漏らした。
「でも、今度は雪がやってきます」
「そうですねえ。季節というのは、なんとも儚くて美しいですね」
ウルルが時々躊躇なくつぶやく恥ずかしい言葉にはいつも反射的に突っ込んでしまうが、今日ばかりは私の心も晴れ晴れとしていたので、本当だね、とにんまりとはにかみながら言葉を返した。
一刻と幾ばくかたったかといったところで、私たちを乗せていた馬車が止まり、先頭の方から着きましたよ、ウルルの声が聞こえた。
「この辺りから固有生物が出始めるので、注意はしておいてくださいね」
先程までにこやかな笑顔を浮かべていたはずのウルルは既に臨戦態勢で私に言う。
巨大樹の森の地質に含まれるマナは周囲と比較して数倍高いらしく、その豊富なマナを一身に受けて成長した植物や動物は普通の種よりも大きく成長するのだ。そのため、力の強くなった巨大樹の森の生物達は固有生物とされていて、あまり近づくことを推奨されていない。
森に入ってしばらくすると、いつも見ている植物がそのまま大きくなった世界を目の当たりにした。
「凄い大きいですね!⠀でも北の植物よりは小さいかもです!」
「最北のグニタなんかにはトカゲがドラゴンになったなんて伝説もありますもんねえ」
「北の試される大地で生きていくには、自分自身の生存本能が必要ですよ!」
リラックスしているようで周囲に気を回しているウルルと、能天気にも第六感が全てとでも言いたそうに耳をぴょこぴょこと動かすシエルを横目に、私は銃のセーフティを確認していた。
おおよそ30モルトにもなる巨大樹たちに目印をつけながら、雑草ですら私たちの腰ほどの高さまであるけもの道をかき分けて進んでいく。周りがほとんど見えず、私は小人族になった気分で歩いていた。
「今までこんなところでどうやって黄金七面鳥を探していたんですか?」
「探すと言うより、向こうから見つかりにくるんです。大きいですからね。でもこんな森に入ってすぐのところには現れませんよ……っと」
ウルルはそう言うと、すぐに腰を低くするように手を動かした。息を潜めて先を見つめる彼の視線の先には私たちの膝の高さほどもあるアホウズナネズミが丸くなって眠っていた。
「あれでも怒ると手が付けられないほどの力があるんです。刺激しないように気をつけてくださいね」
あまりの大きさに息を飲んだ私は、小刻みに震えるようにして頷く。今からあれよりも大きい鳥を仕留めるのかと思うと息が詰まりそうだった。
そろそろポイントですからね、と言ってウルルが指さした場所は今まで通ってきた道よりいくらか広いスペースが空いていた。固有生物の足跡や、寝た際の跡なのだとウルルに言われ、余計身震いがする。
私たちはそこで自分たちの気配を消して、黄金七面鳥が現れるのを待ち始めた。
……
…………
「……こうやって自然と一体になって待つのもまた、乙なものですねえ」
おじいちゃんか、と言いたくなる気持ちを堪えてウルルの独り言を聞いていた。いい加減何かしら出てくれてもいいのではないかと思っても許されるほどの時間が経っていたものの、一向に黄金七面鳥は現れず、ましてや固有生物すら通らないという有様だった。
「これは……ダイアさんの運が悪いんですね。あたしのカンがそう言ってます」
「私の勘は運がないのはシエルだって言ってるよ」
待てど暮らせど何も来ない。先程見たアホウズナネズミしかこの森にはいないのではないかと思えるほどあたりはしんとしていた。
「……今年はダメかもしれませんね。暗くなってくるとタイラントベアなんかも出没しますし、そろそろ引きあげましょうか」
ようやく重い腰を上げたウルルから出たのは諦める、という言葉だった。
「姉が毎年してきたことなんです!⠀諦めるなんてしたくありません!」
「そんな事言われても、これ以上は冒険者でもない君にはやらせられないよ」
ついムキになって言ったことを、宥めるように私に語りかけてくるウルルの口調が余計に私をたてつかせた。
「いやです。黄金七面鳥を捕まえるまでは絶対に帰りません」
「……怪我をしても僕は責任取れないけど、それでもいいならここに残るといいよ」
根負けしたウルルはばつが悪そうに野営の準備を始めた。冷静になってきた頭でウルルへ言った「言うことに従う」という自戒を込めた言葉を裏切っていることに罪悪感をしきりに感じたものの、自分のミスから姉の続けてきたことを辞める気にはなれなかった。
自分の危険を顧みずに森の中に残ったダイア一行、冒険者でもなんでもない彼女らに待ち受けていたものとは……!
最後まで読んでくれてありがとう。こんな感じの後編に続く!みたいなのって読んでて邪魔なんですかね。




