紙ふぶき自動生成装置Mk-III/どうしよう
⠀ようやく1万字です。活字アレルギーの私にとっては1万も書いたのかと自分に感心する一方、1万ってこんなに短いのかと驚愕しております。
⠀お絵描き諸々と並行して書くのはなかなか骨が折れるぜ。でも楽しいからやっちゃう。
ミナカの実験室に入るとすぐ、ゴーグルを付けていなければ目も開けられないほどの強さの紙ふぶきに襲われた。辺り一面は真っ白で、手を繋いでいないとミナカの存在も忘れてしまいそうだ。
「ダイア、聞こえるか!?」
余っている左手で口元を隠しながら、ミナカができる限り大きな声で話してくれている。だが、その声すら紙吹雪の舞う音と暴走した魔導器たちの駆動音でかき消されてしまいそうだ。
「聞こえてる!⠀Mk-IIIはどこにあるの!?」
私も残りの手で口を覆いながらミナカに返答する。なんで魔導器が暴走したのかなどとは一旦落ち着けるまで考える余裕も無さそうだ。
「この壁沿いに進んでいけば着くはずだ!⠀わぶっ!」
紙吹雪の突風に煽られたミナカが転倒した。手を繋いでいた私もバランスを崩しかけたが、何とか持ちこたえる。
「ミナカのことはいい!⠀ダイアはMk-IIIの方に早く向かってくれ!」
「分かった!」
頭の中は半分パニック状態ではあったが、なんとか体勢を立て直した私は、壁に手をついて少しずつ進んでいく。
轟音が部屋に入った時よりも増して大きくなるのを肌で感じた。少し手を伸ばすと、壁の先に冷たい金属製の何かがある。これが例のものだろうか。
「ミナカ!⠀Mk-III見つけたよ!⠀どうしたらいい!?」
できる限り大きな声で叫んだつもりだったが、返事がない。視界はほとんどと言っていいほどないし、もはやこれでは雪山で遭難したのと変わらない状況だ。
このまま待っていたらMk-IIIの音で頭が弾け飛んでしまう。このままミナカの指示を待っていてもしょうがないので、魔導回路が格納されているハッチを探し、こじ開ける。
ポピュラーな魔導器の回路は覚えているのですぐに修理ができる。だが、ミナカのものとなるとそうもいかない。独学で勉強している彼女にとって、教科書は彼女自身だ。まずは回路の仕組みを理解するところから始めなくては。
癖になりつつある両頬への平手打ちをいつもより少し強めに決めて、体のマナを指先と視界に集中させる。
一一構造解析、開始。
ゴーグルの先の魔導回路がより鮮明に見え始める。本来人間には見えないはずのマナの流れが少しずつ浮かび上がっていく。
不幸中の幸いと言うべきか、過去にMk-IIを直していたおかげで、流用、改良された部品があることがわかった。今だけは奴に感謝しなくては。
暴走の原因は至ってシンプルだった。紙を切る速度の数値設定が一桁間違っていたのだ。入力を変更しさえすれば、想定していた紙ふぶきが出来上がる。
「……よし」
持参していた工具ポーチを開き、必要な修理道具を取り出して出力を本来の設定に変更させる。
だが、止まらない。むしろ早くなっている気すらする。オーバーフローし、制御が出来なくなってしまった魔導器への対処は一つしかない。魔晶石を無理やり外して、強制的にシャットダウンさせる、ということだ。
魔晶石を手順を踏まずに外すことは、その魔導器を死なせてしまうということでもある。引き剥がされた魔導回路は二度と能力を発揮することはない。
どうするべきか、答えはひとつしかないはずなのに、マナを視界に集中させている状態の脳内では決断することもままならない。
「ど、どうしよう……」
声に出してはみるものの、何一つ変わるはずもない。熱暴走を起こした目の前の魔晶石は本来の色を失い、真っ赤に輝いている。停滞することは状況を悪化させてすらいた。
「ダイアどいて!⠀ミナカがやるから!」
久しぶりに聞こえた吹雪と装置以外の音に体がびくつく。私の肩をぐいと引いたミナカの横顔がすぐそばに現れる。
「ミナカ、これ、魔晶石を外すしか」
「分かってる!」
「でも、外したらMk-IIIが」
「それも分かってるから!」
止めようとする私をよそに、ミナカは躊躇いなく魔晶石を引き抜いた。ぶつり、と大きな音がしてMk-IIIの動きが急激に減速する。そして、紙を噛んだままの状態で完全に停止した。
私は呆気にとられたまま、Mk-IIIを見つめていた。ぽっかりと穴の空いてしまった心臓部を見る度にこの子はもう動かないんだ、という当たり前のことを確認させられる。
ミナカは相変わらずだった。パパが帰ってくる前に掃除しないとなんて言われるか分からないから、とすぐに片付けを始めている。私は焦点の合わない視界で箒を受け取り、後片付けを済ませた。
「家まで送っていく、奢らせてくれ!」
エントランスでミナカはいつもの調子で私に話しかけてくる。うん、と返事をするが、声に力は入らないままだ。
ミナカに手を引かれ外に出ると、傾きかけた太陽が視界を狭める。ああ、もうこんな時間か、と思うのと同時に、ぐう、とお腹が鳴った。そういえば朝から何も食べていないんだった。
大通りで買ったタコスを片手に、座れる場所を探す。本当は歩きながらでも食べてしまいたいくらいお腹は空いているのだが、ミナカを叱った後だったので出来ない。
あそこにしようよ、と噴水広場のベンチを指差し、二人ででそこに腰掛ける。噴水の前で大道芸をするクラウンを眺めながら、遅くなった昼ごはんを頬張る。
「……壊れちゃったね」
「そうだな」
タコスを口に詰め込みながら、一言一言会話をする。あの時私がもっとしっかり解析していれば、という思いが次第に強くなっていく。
「Mk-IIIの暴走を修理した時に、私が一一」
「嘘はつくなダイア。ミナカだってMk-IIの解析をした時から分かってたことだから、あれは仕方なかった」
でも、と言いかけて言葉が詰まる。
遠い街の喧騒と噴水の音が、優しく私達を包んだ。
「私じゃ、決心がつかなかった。ごめん」
言葉を選びながら、私は俯いたままミナカに言った。彼女は何も言わなかった。
昼ごはんを食べ終え、また歩きだした。家が見えてくるまで私たちは無言のままだった。
「家、見えてきたからこの辺で大丈夫」
「そうか。今日はありがとうダイア、でも、腹が減ってはなんとやらだからな!⠀飯はちゃんと食べるんだぞ!」
お互い様だよ、と軽く返事をしながら手を振る。震える声で私を鼓舞してくれるミナカの顔を見ることは最後までできなかった。
見てくれた方に感謝。感想を送ってくれると作品作りの参考にもなるので本当に助かります。




