紙ふぶき自動生成装置Mk-III/いつ見ても、
見に来てくれた人にありがとう、読んでくれた人にさよなら、そして、全てのチルドレンにありがとう、とどこぞのオマージュでもしときます。
ネタが続く限りはとりあえず1日1本を目標に。
シオンが店に訪れてから2週間が過ぎようとしていた。街の雰囲気はすっかり収穫祭ムードで、ひと月前だというのに準備を始めている人もちらほら見える。
かくいう私は普段通りの時間に起きて、身だしなみを整えてから、店先の掃除を始めている。
シオンのおかげで修理の仕事は問題ないものの、店を再開した私は姉が想像を絶する多忙だったことを早々に思い知らされた。毎日極限状態まで集中し、何時間も作業をするというのは肉体的にも精神的にも疲労がすごく溜まる。ましてや姉は私の面倒まで見てくれていたのだから、忙しさは私の比ではなかっただろう。
そんなことを考えながら店の外で掃除をしていた私だったが、知らず知らずのうちに立ったまま寝かけていたことに気づく。はっ、として倒れる前に目を覚ましたものの、これはさすがにまずい。
「仕方ない、今日は……休もうかな……」
眠気を必死に我慢しながら、表にした看板を元に戻す。拭き掃除を何とか終えて店に入ろうとした時、背後から甲高い声が私を呼んだ。
「おい起きろねぼすけ! ミナカが来てやったぞ!」
しまった。よりによって一番見られたくないやつに見られた。私は眠気に必死で抗いながら声を絞り出す。
「…………何?」
さすがに声のトーンを低くしすぎたのか、彼女はギョッとした顔でこっちを見てきた。少しくらい驚かせても大丈夫だろうと思ったが、さすがにやりすぎたと反省する。
「ダイアは眠い時の機嫌はすこぶる悪いな! せっかくミナカが『紙ふぶき自動生成装置Mk-III』を持ってきてやったんだから、もっと元気出せ!」
と言って、ミナカは自身の体よりふた周りほど大きいリュックサックから、怪しげな魔導器を取り出した。
反省なんてするんじゃなかった。彼女の「発明品」は前に庭を掃除できないほど細かい紙で埋めつくした忌まわしいモノじゃないか。もううちには持ってこないでとあれだけ強く言ったのに。
「今日はウチの店は仕事なんだ! そこでダイアの庭を借してくれ! Mk-IIは失敗に終わったけど、見ててくれ、今度は成功してみせるぞ!」
「絶対嫌だ。二度と持ってこないでって言ったよね?」
「Mk-IIIだから大丈夫だ!⠀Mk-IIは二度と持ってこないから!」
大丈夫大丈夫でない云々ではなく、一刻も早く休みたかった私は、何とかしてミナカを送り返そうと躍起になった。
「収穫祭用なら調整時間はまだあるでしょ。もう少し時間をかけてからまた、私に見せてきて」
「完成したばっかりだからダメだったのか! 改善点を直してからまた来る!」
「なんで改善点があるのにここまで来たの……」
すぐ引き下がるタイプではない彼女だったが、なぜかすぐに納得し、こちらに満面の笑みを浮かべて手を振りながら全速力で家へ駆けて行った。
ミナカの本当に同い年なのか不安になるほどの子供っぽさに少し困惑しながらも、彼女の底のない発明魂に感心している自分もいる。
だがそんな彼女への感心も朝早くからとんでもないものを見てしまった疲労感と眠気で瞬時に打ち消された。よろめきながら店に戻った私はソファに倒れ込み、2週間ぶりの休息を全身で甘受した。
はずだった。
ガラス戸をガンガンと叩く音が聞こえる。まどろみの中で今日は休みです、と返事をしたのだが、音は止む気配がない。ようやく目が覚めてきた私は、急ぎの修理ではいけない、と重い体を無理やり起こして外を見た。
そこにいたのは、紙だらけのミナカだった。
時間をおいて来て、とは言ったが、日をまたいですらいない。そもそもまだ日が高くもなっていないじゃないか。一度は起こした体を再び寝かせる決心はすぐについた。
体を戻す一瞬、目が合った。ああ、また失敗したのかという言葉を頭の中で反芻する。
……
…………失敗したのか……
仕方ない。こういう時のミナカは普段の比ではないくらい取り乱しているはずだ。先程までの眠気と決心はもうどこかへ行ってしまっていた。
カーテンを開けて外の様子をまじまじと見ると、ピンクの小さい紙で彩られた藍色のふわふわのサイドテールが露わになる。意外と似合ってるな、と思ったりもするが、今はそんな場合じゃない。
「ダイア、一生のお願いだ! 助けてくれ!」
「また何かやらかしたの?」
焦りで軽く涙も浮かべているミナカを見て、彼女の前で私が焦らせてはいけない、と冷静な様子を見せた。
とにかくついてきて、と言われた私は彼女の後を追って走り出した。
昼前の活気がつき始めた大通りを縫うように進んでいく。そういえば、今日ミナカのお父さんは二つ隣の街で仕事だったか、などと思い出す。
ミナカほど体力の無い私は、彼女を見失わないようにするので精一杯だったが、なんとか目立つ看板の大きな会社までたどり着けた。
「いつ見ても、大きい修理屋さんだね」
私は呑気に「アメノマ・リペア」の看板を眺めながら息を整えていた。だが、すぐにそれどころじゃないといった様子のミナカに強めに手を引かれ、奥へと連れていかれた。
どうせ上手くいかなくて散らばった紙ゴミを一緒に片付けて欲しいとか、そのくらいの一生のお願いなんだろうと思っていた私は彼女の修理場、もとい実験室の惨状を見て絶望する。
すりガラスで奥が見えないのにも関わらず、紙が絶え間なく飛び続けているのが分かるのだ。今更「やっぱり帰る」などとは言えずひきつった顔でミナカの方を見やると、彼女は無言でゴーグルを差し出していた。
「……本当にこの中に行くの?」
「…………」
ミナカは無言で部屋を見ていた。その覚悟の面持ちはもはや死地に向かう兵士そのものだった。
今更分かりきっていたことではあったが、事実確認のために彼女は口を開いた。
「実は、Mk-IIIが不具合で暴走した」
「知ってる」
「……それに加えて、Mk-IIも魔晶石が共鳴して暴走した」
それでか、とひとりでに納得する。どうしても私を呼びたかった理由はこれだったのか。
「で、私はどっちを直すの?」
「ミナカはMk-IIの暴走を止める」
わかった、と軽く返事をして、私も覚悟を決めてゴーグルを被る。私たちは同時に紙の嵐の中へ飛び込んでいった。
ミナカの名前は発明家ということで天之御中主神からいただいてます。神様ありがとう。




