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義手少女のてしごと  作者: 獅子魚
懐中時計
2/12

懐中時計/ふたりとも

第二話の投稿は初めてなので実質初投稿です。

 何にでも使えるほど大きいかと言えば、そうでもない。小さすぎて使い物にならないわけでもない。よく言えば汎用性が高い。悪く言えば器用貧乏。そんな僕みたいなヤツだったから、何とかしてあげたいって思った。


「この大きさだと目立ったものは作れないよ、嬢ちゃん」

「悪いけど、飾り物にしかならないよ」


 魔導技師たちは口を揃えて言ってきた。


「あの小さくて弱い体じゃあ、親譲りの豊富なマナがあっても宝の持ち腐れだ」

妖精族(エルフ)の血さえ混じっていなければ」


 嫌な記憶。言葉。

 思えば、一人で家を飛び出したのも必然だったのかもしれない。


「懐中時計なら、ふたりとも似合うんじゃありませんか?」


 こんなことを言ってくる魔導技師と出会ったのは、これが初めてだった。


 一一6年前 世界樹の麓街ラタトスク


 3日にも及ぶ遺跡探索を終えた僕は、宿屋で戦利品の確認をしていた。床一面に広がる宝石や劣化の少ない魔術教本。だが、その中でも一際輝く()()に、思わずにやりと笑みが零れる。


「魔術戦争時代の高純度の魔晶石……売る? 贅沢に魔導器にしちゃう? ふふふ」


 考えれば考えるほど上がっていく口角を、両手の人差し指で元の位置に戻す。

 魔導技師が見たらどんな反応をするのか、その夜はその事ばかり考えていた。


 だが、翌日の反応は僕の想像を遥かに逸していた。


「はあ〜? こんな良い魔晶石を『使い道がない』だって!? 君の目は節穴か!?」


「そんなアホウズナネズミの前歯より小さい原石なんて、削ったら何も残らないよ!」


「もういい! 君には頼まない!」


 つかつかとふくれっ面で職人街を歩いていく。横目に映るどの店でも断られたセリフが思い出せた。

 宿に出戻ってきた僕は、はあと大きくため息をついて目の前のベッドに飛び込もうとした。でも、ここでふて寝したら諦めたみたいで格好悪いから、と、くるりと踵を返し、ふらふらと街を歩き始める。


 行くあてもなく歩いていると、城門からほど近い、芝生の生い茂る広場に着いていた。おおよそ中心の小さな丘に生えているベニシダレザクラの木陰で休憩しようと進んでいく。


 いざ着いてみると、そこには先客がいた。


「隣、座っても良い?」


 はい、と言いながら少女が振り返る。風に揺れる穢れのない真っ白な長髪の隙間から覗く赤みがかった瞳には、同性の僕ですら息を飲んでしまうほどの美しさがあった。


「この街の方ですか?」


「あ、いや、この街の近くの遺跡を探索してたんだ」


「冒険者さんなんですね! 歳は私とほとんど変わらなさそうなのに、凄いですね!」


「こう見えて、妖精族の血が入ってるから見た目よりずっと上なんだよ?」


 などと他愛もない話をしていたが、ふと少女の目を見るとその目線は首元の魔晶石を見ている。

 

「これ、気になる?」


 先程までの残念な気持ちが嘘のようになくなった僕は、せかせかと魔晶石を取り出し、したり顔で少女に見せた。


「すみません。不躾でしたよね」


 申し訳なさそうに受け取るものの、少女の瞳の奥には嬉しそうな表情が垣間見える。


「わあ! この純度なら相当良い魔導器が作れますね!」とこちらの事情など何も知らない少女が続ける。


「それが、小さすぎて全部断られちゃったんだ。このままじゃ原石のまま指輪になっちゃうよ」


 自虐のつもりで笑い飛ばしたつもりだった。だが、少女にはそうは映っていなかったらしい。


「なら、私に作らせてください。腕はまだまだですけど、この子をそんなふうにしてはいけないと思います」


「君、魔導技師だったんだ」


「本当は私が年長なので孤児院の子たちのお守りをするのが仕事なんですけど」と少女は薄く笑みを零し、遠くを見つめる。丘の下では子供たちがはしゃぎ回っていた。


 少女が職人としては無知すぎたのかもしれないし、僕も彼女の能力を信用していた訳じゃなかった。でも、この一言で僕はこいつを預けようと思えた。


「懐中時計なら、ふたりとも似合うんじゃありませんか?」


 実際、少女の技師の腕は一流かといえばそうじゃなかったし、出来上がった懐中時計も何時間もかけて調整して調整して、やっとのことで動いた代物だった。でも、僕はこの懐中時計が今まで見たどんな魔導器のなかでも一番だって断言できた。


「……うん、うん! これ、凄くいいよ!」


「そう言って貰えて嬉しいです。私も、できる限りやれたと思っています」


「君は良い魔導技師になるね。ここで店を開くならまた寄ることになるかも」


「今日は課外活動で来ているので、お店はここでは開かないです。でも、いつか持ちたいと思っているので、その時はお客さん第一号、待ってますね」


 懐中時計の針は初めから自分もいたかのように二人の過ごした短い時間を正確に刻みつづけていた。






「一一ってこと」


 ダイアはホルム鉄を少しずつ削りながら、僕の話を静かに聞いていた。彼女の手はもう震えていない。リラックスして、それでいて集中して、五感を研ぎ澄まして作業しているのが感じられる。


「それで『こいつ』なんですね。名前くらいつけてあげればいいのに」


「僕と『こいつ』で6年通してるんだから、もうそれでいいじゃん」


 成形用の魔導器から発している淡青の光が、日が傾いて薄暗くなった店内を照らす。

 二人の間に沈黙が流れる。これはこれで心地いいな、とも思う。目を閉じてしばらくすると、できました、と声が聞こえた。


「部品の成形って、修理でいちばん繊細な作業なんです」


 成型した部品を見せられるものの、細かすぎてどうなっているのか分からない。へえ、と感嘆から気の抜けた返答をしてしまう。


 あとは部品を元に戻すだけだと言うダイアは嬉しさに満ちているようだった。思わず僕も嬉しくなって笑ってしまう。


「本当は、私が姉の代わりになるなんて無理だと思ってました。私ができたのもシオンさんのおかげです」


「やったのは君だよ。僕じゃない。これが君の本当の力ってことじゃないか」


 僕の言葉を聞きながらもダイアはすいすいと義手の手でピンセットを動かし、軸を取り替え、部品を元に戻していく。


 あっ、とダイアから声が漏れる。だが、何事も無かったかのように作業を進めていく。


「今度こそ、本当に終わりました」


 ダイアが顔を上げ、僕に懐中時計を差し出す。()()()は初めから壊れていなかったかのように針を刻んでいた。


 店を出て、夕日が反射するガラス張りの店先に二人で並ぶ。


「今日は本当にありがとうございました。シオンさん」


「礼を言うのはこっちだよ。直してくれてありがとう、ダイア」


「それで、お代なんですけど一一」


 ダイアが言いながら、僕は代金を払おうと内ポケットから銭袋を取り出そうとしてふと思い出した。そういえば僕達友達じゃないか。


「友達料金ってことで、今回はよろしく!」


 そう言って駆け出した。






「お代は、いら……ないです」


 言い切る前にシオンは走って行ってしまった。もう背中があんなに小さくなっている。元から言うつもりだったというのになんてふてぶてしい奴なんだろう、と一人でむっとする。

 だが、私は笑う顔を抑えられなかった。自分でもできた、という実感がここへ来てじわじわと湧き上がってくる。


 それに、嬉しさはそれだけではなかった。刻まれていたのだ。あの懐中時計の魔晶石に。


 一一リンシアより、ふたりに末永く愛が続きますように。

撫子の花言葉は「器用」らしいです。

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