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娘に牛さん

一日一話はやはり奇跡だったみたいです。

マリアさんが食事を用意するために奥に戻っていった。

玄関に私とレドーさんが残っていた。


「ところでお前さん、なんでジャンヌとしか名乗らなかったんだ?」

「? ちゃんと名乗ったじゃない」

「いやお前さんの名は<ジャンヌ・ダルク>だろう。わしに初めて名乗ったときはそう名乗った。でもマリアのときはジャンヌとしか名乗っておらん。お前さんは礼儀正しい子じゃ。理由もなく自身の名をごまかしたりせんだろう。だからマリアがいなくなるまでわしも黙っておったんじゃが、どうかしたか?」

「あぁ、そのことね。私は貴族でもないし、どこかの隠し子のようなものでもない。でもレドーさんの反応を見る限り、あまり周りへの印象は良くないのでしょう? 問題を起こすつもりはないもの。だから言わなかっただけ。今の私はそこら辺の娘よ」

「なるほどな。まぁお前さんがいいならそれでええわい」


レドーさんは納得してくれたみたいだ。

確かにレドーさんには名乗ってマリアさんにはごまかしているのは不誠実だ。

……でも今はごまかしておきたい。

二人には申し訳ないが、優しさに甘えさせてもらおう。

マリアさんだけでなく、レドーさんにも隠してることがある。

レドーさんはおそらく感づいてはいるだろう。

でも私は別の世界から来ました、なんて言えるわけがないでしょ。

……いつか言えるときがくるのかな。


「そこで靴をぬいでくれ。仕事の関係上ものすごく汚れてしまうからな。家に持ち込まないようにしてるのだ」

「へぇー、なるほどね。わかったわ」


靴をぬいで家に入るって少し新鮮ね。地球でもそれが普通の文化な国もあるみたいだし、おもしろいわね。

汚れを家に入れないって考え方が私的にはすてきだわ。


「う~ん、いいにおいだ。今日はシテイだな。それに鼻歌まで歌って他のも作っておる。嬉しそうだな」


がっはっはっと上機嫌いにレドーさんが笑う。

耳を澄ませてみると確かに鼻歌が聞こえてくる。

それよりもシテイってなんだろう?

……めんどくさいから見ればわかるということにしよ。


「マリアのやつ、ジャンヌがいるからってはりきっておるわい。ジャンヌ! 今日は腹が壊れてしまうかもしれんな!」

「なんで!?」

「マリアの飯はうまいぞ! そしてわしらはたくさん食べるからな。量も多い。そしてマリアは誰かになにかをふるまうことが好きでな。鼻歌まで歌っておるくらいだ。とんでもない量の飯が出てくるぞ」

「……どのくらいの品数かしら?」

「20はくだらん」


多すぎる!

レドーさんはめちゃくちゃ背が高くて体格がいいもの。ゴリマッチョっていうやつね。

そのレドーさんが多いって言うくらいだから……本当にお腹壊れちゃうかもぉ……


「なぁに、遠慮はいらん。食えるだけ食っておけ。無理そうなら無理って言えばわしが食うから」

「お願いします。聞いているかぎりだとダメそう。でも食べれるだけは食べるからね!」


実際すごくおいしそうな匂いがしているのだ。

マリアさんのご厚意を無下にはしたくないしね。


「よし。そろそろリビングに行くぞ。いつまでも玄関にいてはかなわん。お前さんも何が面白いのか知らんがいい加減動いておくれ」

「ええ。ごめんなさい。ついていくわ」


今までの話はずっと玄関でしていた。

私が玄関の周りにある絵画や置物に目が奪われていたから。

レドーさんもそれに付き合ってくれていたのだ。


……嘘です、ごめんなさい。絵画や置物に目を奪われていたのは事実だけど、それ以上に牛さんのぬいぐるみに心を奪われていました。ずっとなでなでしてました。かわいかったです。


「うふふ、もう少しだけ待ってください。あなた、ジャンヌちゃんに飲み物だしてあげてください。そのまま座っておまちくださいね」

「わかった。ジャンヌ、エールでええか?」

「ええ。かまわないわ」


エールっ! エールっ!

アルセレスのエールはどんな味なんだろう?


「ほれ。冷やしておいたからうまいぞ!」

「ありがとう」


冷たいエールなんてはじめて飲むわね。

楽しみだわ!


「そら、乾杯!」

「乾杯!」


ごくっ、ごくっ、ごくっ!


「おいし~!」

「がっはっはっ! 気に入ったようだな。気持ちのいい飲みっぷりだ!」


冷やしただけでこんなにも変わるのね。だから現代の地球のエールは基本冷たいのね。

この味を知ってしまったらもうぬるいエールは飲みたくないわ。


「お待たせしました。料理も食べてくださいね」


マリアさんが出来上がった料理を持ってきてくれた。

サラダに、パンに、シチューらしきものに、なにかのお肉に……

いっぱいでてきて、一つ一つがいっぱい量があるなぁ……


「おかわりはありますので、どうぞ遠慮なく食べてくださいね」

「がっはっはっ! さっきも言ったが、マリアの飯はうまいぞ! このシテイなんかはそのままでもうまいし、パンを浸してたべるのもいい!」


あっ、シテイってシチューもみたいなやつのことね。

それはパンを浸したらおいしいに決まってるじゃない!

ふと顔を上げると、レドーさんとマリアさんは手を合わせて祈っていた。


「それは?」

「ああ。これは礼儀みたいなもんだ。食べ物はすべて、もとは命あるもので、それを糧にさせてもらうわけだから感謝をしようといったところだ」

「私たちは仕事の関係でそれをより強く感じるから、かかさずやっているのですよ」

「なるほど」


……命を糧に、か。確かにその通りだ。

レドーさんたちのその考え方は当たり前のことかもしれないけど、ないがしろにされているところも多い。

確か日本だったか?同じように食事の前に手を合わせる文化があるって……

私もこの考え方を大事にしよう。

手を合わせて……


「いただきます」




ビールが飲みたいです。

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