最弱を自負する男、手助けする
「……」
おかしいなぁ。僕の記憶が確かなら、銀鎧熊はこうも簡単に死ぬようなモンスターじゃないし、これほど大量にアイテムの精錬に必要な鍛冶石がドロップするなんて事も一度もなかった。
しかもだ。たとえボスの中でも難易度が低い銀鎧熊を相手にしたとは言え、かすり傷一つ負わずに圧倒できたのはおかしいを通り越して異常と言う他ない。
僕が選択していた生産皇帝というのは、アイテム強化成功率に必要な器用さと運をどの職業よりもとびぬけて上昇させる以外のステータスはいたって平均値――いや、むしろ低いんじゃないかな。
だから僕は数々のアイテムと高品質の装備を限界まで鍛えて何とかギルドマスターとして恥ずかしくない最低ラインの戦力を確保していたんだけど、僕の目の前には死体となった銀鎧熊。これが死体となってアイテムをドロップしたのは戦闘を初めてほんの五分ほどの出来事だ。
「さすがはご主人様でございます。Sランクモンスターを単独で、しかもこのように短時間で終わらせてしまうとは」
「いやいや。道具が優秀で運が良かっただけだから。僕本来の実力じゃこうも簡単には倒せないさ」
とりあえず大量の鍛冶石を四次元腰袋にしまっておく。これだけあればおおよそで千回は強化できる。後でメースラの装備を最大まで強化しておいてやらないとな。
初めての戦闘を終え、さらに森を進むが銀鎧熊以外の魔物とエンカウントする事が無いままどのくらいの時間が経ったのかな。今度は何やら戦っているような音と声が聞こえてきたのでメースラの方を見るとすぐに説明してくれた。
それによると、どうやらこの辺りはかなりの上級者向けの狩場として相当高ランク――最低でもAAランクの冒険者でもパーティーを組まなければまともに狩りなど出来ないほど強い魔物が跋扈しているらしい。
そして気になる事が一つ。メースラは今銀鎧熊をSランクと評した。
ゲームだった頃。あの魔物はせいぜいがCランク程度。魔法職のファイアーウォールでのハメ技が出来ればソロ討伐もそう難しくはない相手。それがS? いくらなんでも評価が高すぎるんじゃないかな。
「メースラ。聞き間違いかも知れないからもう一度。さっきの魔物のランクはSと言ったかい?」
「はい。ご主人様からすれば取るに足らないというのは既に承知しておりますが、誰しもが英雄の方々のように屈強な存在ではなく、魔物に対抗するための装備も大きく劣ります」
「それはどのくらいの差があるのかな」
「現在のワタシの実力であれば、世界中の冒険者約三万を相手取っても勝ちを得る事が出来ます。ご主人様であればそれがどのような事かお分かりいただけるかと」
うーん。メースラの実力はそこそこ高めに設定していたはずだけど、プレイヤー相手にってなるとやっぱりAIの限界か、同レベル帯には分が悪い。
それで考えれば、メースラが三万を相手に勝利を得られるというのはそれだけ低レベルの人間しかいないという事か。それならば人類圏が縮小するのもうなずけるな。
こういった会話をしながら目的に到着してみると、そこでは巨大な蜘蛛・森林蜘蛛を相手に六人ほどの男女が戦闘をしているようだけど、その状況はかなり逼迫していて今にも全滅しそうだ。
ゲームだった頃は横入りするのはご法度だったからね。一応手を出すつもりはない。
そうと決まったらまずは辻ヒールだ。邪魔に関しては人によっては罵詈雑言浴びせてくる不快なプレイヤーもいたけど、メリットがある場合はその行為はゼロになるのは周知の事実だからというわけでまずは、前線を守る冒険者達にエクスポーションとビルドリキッドを投げつける。
「えっ!?」
「何だ!?」
「誰っ!?」
「旅の者です。援護なのでお気になさらず」
次に後衛にはエーテルポーションと詠唱短縮のタイムポーションを。これで森林蜘蛛程度には負けないだろう。後は全てが終わった後に色々と話を聞かせてもらうとしよう。