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最弱を自負する男、異常を知る

「はい。ご主人様の忠実な僕でありますメースラでございます」


 恭しく頭を下げるメースラを名乗る女性にそっと〈鑑定〉を唱えると、目の前に現れたウィンドウには確かにその名が表示されていた。


 名前 メースラ・ド・ダヴィンチ

 ジョブ 双星剣士

 種族 ハイ・エルフ

 レベル 500

 HP 65535/65535

 MP 24305/24305

 不可視の羽飾(インビジブル・ヘルム)+99

 暗黒龍の皮膜鎧改+99

 神龍の逆鱗双剣+99

 地殻獣の外殻具足(マントル・グリーヴ)+99

 永遠の指輪(メビウス・リング)+99


 うん。確かに僕が作ったメースラで間違いないけど、こいつはあくまでこっちの指示に従って動くNPCだったはず。それなのにこうも表情豊かにしている事自体に違和感を覚える。というかこっちの質問に対してノータイムで受け答えするのは本当に人間みたいだな。


「まぁちょうどいいや。いきなりで悪いんだけどここはどこか分かるかな?」

「はい。現在位置は、シルヴェリア聖王国より30メトロ離れた位置にある不帰(かえらず)の森です」

「……ちょっと待った。シルヴェリアって言った?」

「はい」


 どうなってるんだ? 確かシルヴェリアは、周囲をかつて魔王と勇者が数か月にわたる長い戦いの最終決戦地として甚大な被害を受けて広い砂漠になった場所に、勇者鎮魂とその魂を天界へと迎える為に女神が降り立ったと言われているから、あえてそこに国を作ったって設定だったはず。そんな場所にどの程度の規模かもわからないほどの規模の森があるなんてあり得ない。

 というかシルヴェリアが存在しているならどうして転移(ポータル)が発動しなかったんだ? あの場所は中級プレイヤーの、特に弓職にとっては格好の狩場として有名な場所で教会の総本山。間違えるはずがないのに。


「まぁいいや。とりあえずシルヴェリアまで案内してくれ。なぜか転移が発動しなくてね」

「……大変申し上げにくいのですが、シルヴェリアは500年ほど前に滅亡しております」

「……はい?」


 いきなり何を言ってるんだろうねこの娘は。

 シルヴェリアはこのゲームにおいて唯一絶対神の女神を信奉する場所。そんな場所が滅ぶなんてまずありえないのは、クエストで新興宗教などを潰すと言った物をこなしてきた記憶がある僕にとっては受け入れがたい。


「ご報告が遅れましたが、現在はご主人様が最後に確認された時よりおよそ2500年の時が経過しております。私はこの時をずっとお待ちしておりました」

「ちょっと待って。メースラは一体何を言ってるんだ?」


 そもそもこのゲームは数分前にサービスが終了しているはずで、今は極限まで鍛えたクズアイテムを使用した際のバグか何かに巻き込まれているだけのはず。それが2500年経ってましたなんて……さすがに受け入れられない。それじゃあまるで小説なんかで読んだ事のある転移物みたいじゃないか。


「事実です。ある日を境に多くの英雄と称しても遜色のない人々が一斉にこの世界から姿を消した出来事を『女神の落日』と呼び、それによって魔物の討伐が滞るようになると小国や多くの貴族が死に。または大国へ吸収され、結果として人類圏は大きく後退。そしてそのせいで信仰の対象であった女神への信仰は地に落ち、世界中からつまはじきにされた聖王国は魔物に滅ぼされ、ご主人様が多くの仲間達と苦楽を過ごした世界は今現在。半分以上を魔物に占領されております。これが、姿を消してしまわれてから2500年で起きた大まかな出来事です」


 すらすらと答えるメースラに、僕は口を挟む事が出来なかった。

 コッソリと真偽を確かめる魔道具を使っていた事もあるけど、それらを語るメースラの痛ましいような後悔の念を感じる表情が嘘を言っているとは到底思えなかった。ちなみに魔道具でもすべて真実であるとの結果が出ている。


「つまり何か? ここは僕が居た時代から2500年後の未来だという事か」

「その通りでございます」

「わかった。それじゃあ一番近くにある人の住む場所まで案内してくれ。質問はその間に済ませる」

「かしこまりました。それでは早速転移を――」

「待った。ちなみに徒歩でどのくらい?」

「およそ30分ほどです」

「なら歩いて行こう。未来の魔物に興味があるし、何よりその強さを確かめたい」


 一応レベルはカンストだけど、僕はギルメンバーの中では最弱の生産職だから、この辺りの魔物に実力が通用するのかどうかを確かめたい。

 そして通用するのであれば、環境次第では拠点とするもよし。

 そして通用しなければ、さっさと逃げだして安全に暮らせる場所に行けばいい。

 どうせバグが治るまでのほんの少しのボーナスステージみたいな状況。そんな軽い考えをしながら、嬉々として歩くメースラの後ろをついて行く事になった。

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