最弱を自負する男、出会う
「うーん。ここはどこだろうか」
目を覚ました僕の視界は、鬱陶しいほどに乱立する木々が覆い尽くし、ほんのわずかに覗く青空は早朝なのか夕方なのか判断がつかないオレンジ色に染まっている。
とりあえず体を起こす。痛みや不調はそれほど感じられないので大した危険はないだろうと判断。次にぐるりとあたりを見渡して究極にまで強化したクズアイテムの姿を探してみてもどこにも無いが、マップを開けばすぐに……すぐに……
「あれ? マップが開かない? というか……これはなんだ?」
数年間慣れ親しんだ動きで淀みなく眼前で手を横に振れば、いつものようにステータスウィンドウやマップなどが一斉に起動するはずなのに、展開したのはステータスウィンドウのみで、その表示も若干――いや、相当おかしな事になっている。
名前 アカツキ・ド・ダヴィンチ
ジョブ 創造士
種族 アラヒトカミ
レベル 999
HP 655350/99999
MP 655350/99999
銀天竜の帽子+99
冥界獣のつなぎ+99
幻想金剛の鍛冶槌+99
嵐精霊の具足+99
精霊王の涙宝+99
うん。装備自体は変化はないけど、何故かHPの限界突破具合が尋常ではない。二倍程度だったはずなのになぜか六倍以上に跳ね上がっている。
それにジョブと種族。創造士なんて聞いた事もないし、アラヒトカミってなんだよ。
というかこのゲームは既にサービスが終了しているはずなのに、ステータスウィンドウが開くのもおかしいけど強制ログアウトもしていない事がさらに異常と言える。
もしかしたら強制ログアウトの際に何か不都合が生じてどこかの森に吹っ飛ばされたのかもとサポートサービスに連絡をしようとしたけど、いくら押しても反応がない。どうやらバグったみたいだ。
「仕方ない。とりあえず街に行こう」
こういう場合に備えて、ゲーム内の街には必ずと言っていいほどログアウト施設が存在する。
それは教会という形になっており、そこで祈りを捧げるとちゃんとログアウトさせてくれるという試しに一度くらいしか使わないほぼお世話にならない安全装置が、どれだけ小規模な村だろうと必ず存在する。
という訳で、四次元腰袋から転移用の魔石を取り出す。
「転移・アークリア」
アークリアはゲーム内で一番栄えているという設定の世界の中心的都市で、チュートリアルを終えた初心者が必ず訪れる場所だが、詠唱をしても魔法陣が展開する気配が微塵もないのに、魔石だけはキッチリ消費されたようで光の粒子となって消えてしまった。
「おっかしいなぁ」
距離無制限でどこに居ようとちゃんと連れてってくれるはずなのに……取りあえず転移魔石は腐るほどあるから全部の街を試してみるとするか。
――
「うーむ。全然駄目だった」
結局すべての町や村の名を宣言しても、僕の立ち位置は一ミリたりともズレなかった。何がどう作用しているのか分からないけど、取りあえず転移が使えないなら徒歩で人のいる場所まで行くしかない。
ゲームの中に森なんてはいて捨てる程存在している。その中でこの森はどこの森なのかを知る事が最優先だ。
それが分かればおおよその街の場所も分かる。そのためにはこの森の生態系を知る必要がある。十年近くやり続けた知識に照らし合わせればここがどこなのかが分かる。
「待ちしておりましたご主人様」
「どわあっ!?」
現在位置を調べる為にいざ行かんと歩き出した僕の目の前に突然女性が現れたので慌てて飛び退いた。
「申し訳ございません。ご主人様を驚かせるつもりは無かったのですが、はやる気持ちを抑えきれずつい……この非礼に対する罰はいかようにも」
「ご主人様……あれ?」
困ったようにおろおろとする女性に見覚えがある。
腰まで伸びる銀髪にクリッとした大きな金の瞳。
大きな胸に細くくびれた腰に引き締まったお尻はどこぞの外人モデルだと言わんばかり。
一見すれば秘書みたいなパンツスタイルのスーツの腰には左右に一振りづつレイピアを携え、特徴的な尖った耳に僕をご主人様と呼ぶ女性が、ゲーム内に一人だけ居る。
「もしかして……メースラ?」