最弱を自負する男。異世界に転移する。
「♪~♪~」
もうすぐだ。もうすぐで僕がこのゲームをやり込んだという証が完成する。
VRゲームが発売されて既に50年以上。様々なMMOが生まれては消えていった。
その中で相当に古く相当に長くプレイヤーに愛されたのがこの『ファンタジ―・クリエイト』だ。
いわゆる剣と魔法の世界を舞台に、10を超える種族と100を超える職業を選択し、レベルを上げたりして魔王だったり邪神となった創造神を倒したりと所謂王道RPGだ。
その中で僕は、主に生産職を生業としてゲーム内で自他共に最強と認めるギルド・ゆかいな仲間たちのギルドマスターとして日々身内のために武器や防具。薬やアイテムに家や要塞などなどありとあらゆる物を作るというロールプレイを楽しんでいた。
正直。何で僕が最強ギルドのマスターにならなきゃなんないのか全く分からない。
殺戮騎士というジョブのリスとクリさんはレイドボスの死の王を撃破したし。
百識王というジョブのミナ様は俺の嫁さんはゲーム内に存在する七龍を何度も全滅させてるし。
それを神獣使いのあたりめLOVE君が従魔契約をして神竜王なんて称号を手にいれたりしてたし。
他にも僕のギルドのメンバーは1人1人がゲーム内で知らない人がいないほどの有名人として名を馳せていた。
当然僕もそのギルドの1人で不本意ながらマスターなので有名ではあったけど、それは全てを従えし者だなんて分不相応な名前でかなり申し訳なく思っていたな。
そんなギルドも今じゃ僕1人。10年近く入れ込んで来た『ファンタジー・クリエイト』も、この度サービス停止となる運命となり、最後に皆でお別れ会をしたのは3日前。時間がうまく合わずにほんの1時間ほどの短い物だったけど、それはそれで楽しかった。
――鍛冶スキル成功。これにより鍛冶レベルが上昇し100になりました。
「よし! 間に合った」
ちなみに僕のジョブは万能生産帝。文字通りゲームに存在するありとあらゆる物を作り出せる生産職の極みの様なジョブだ。これになる為にメンバーには随分と迷惑をかけたのも今ではいい思い出だ。
そんな事を考えながら一本の武器を取り出す。
――天元滅ノ極+99
これは『ファンタジー・クリエイト』最難関――というかクリアさせる気がないだろうと長らく攻略サイトなどでヘイトを一身に集めに集めまくったクエスト・滅びの未来を回避せよというクエストをクリアした時に得られる報酬で、これを手に入れた時は真夜中だったけど大声で喜び、すぐに公式サイトに文句を言ったっけか。
その理由があらゆるステータスが0で、誰にも装備が出来ないという何の意味もないクズアイテムだったから。特に羅刹侍で武器マニアだった武器庫ちゃんは嵐のようなクレームを叩きつけた事を自慢げに話してたっけ。
それもすべてはいい思い出。今日――あと10数分でこのゲームはサービスが終了する。僕はその前にこの無意味なクズアイテムの最終強化に乗り出した。
ジョブのレベルは最大で100。その中で僕はこのゲームに存在するすべての生産系ジョブを今この瞬間。自己満足ではあるけれどやり込んだと思えているし、その証拠としてこのアイテムを+100にする事で一瞬だろうとでデータ上にやり込んだ証拠が刻まれる。何よりの無駄な思い出だ。
強化自体はすぐに終わる。この時に備えてありとあらゆる素材を引退したギルドメンバーからすべて譲り受け、四次元腰袋+99に収納してあるので何の問題もなく終了した。
「ん?」
――天元滅ノ極+100になった事で神域の鍵へと変化。スキル・空間切断が追加されました。
脳内に響くナビゲートの声に自然と首をかしげてた。
結局ステータスは0のまま。プラスをつけたのはただの趣味でしかない。
でも、聞いた事もないスキルの追加で僕の心はかなり高揚した。
そして今になって思い返せば、この時にもう少し慎重に行動していればよかったと思う。
「空間切断ねぇ……こうすればいいのかな?」
鍵というくらいだから、普通に前に突き出してひねった瞬間。脳内に声が響いた。
――空間切断の使用を確認。異世界への扉を開きます。
「へ?」
瞬間。目の前に見覚えのない扉が現れると同時に白に塗りつぶされるほどの圧倒的な閃光が駆け抜けた。
――23時59分54秒。この日僕は、地球という星を離れて異世界で第二の人生を送る羽目になった。