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異世界の旅路はトップ解決で  作者: ふきの精
旅路の始まり
6/28

6

 

 次の日の朝、私は溜めていたマナが0になっているのを見てため息をつく。

もし溜められるなら最大の15まで溜めておけば、

すぐにどんなカードも使えるのに…。

世の中そんなに美味い話はないようだ。

溜まったマナは一定時間で消えてしまう。よく覚えておかないと…。


 私は水で顔を洗うと、気持ちを切り替える。

今日はいよいよこの世界の住人と会いそうだからね。



 「うむ。これで見た目は大丈夫じゃな」


 ホイフクローさんが私の姿を見て目を細める。


 「あははは…。ありがとうございます」


 私は苦笑でそれに答える。


 というのもいざ出立という段になって、

私の格好がおかしいと指摘されたのだった。

まぁパジャマだし裸足だし…

このままの姿で歩くのもなんとも言えない気分だよね。

初日は命の危険が多すぎて、そこまで気が回らなかったけど。


 ということでホイフクローさんが

それなりに着られるものを見繕ってくれました。

ここには人型に近い魔物もいるし、

人間の冒険者と呼ばれる人達も立ち寄ったりするみたいで

いくつか着られそうなものもあったみたい。


 中には森神に挑みに来た人たちもいるみたいだけど…

どうなったのかは詳しく聞いていない。

この服…変な怨念とかついてないよね?

上下とも布製のシャツとスカートだけど、

ところどころ破れた後があるんだよね…

ただ何よりありがたかったのは少し長めのブーツがあったこと。

ちょっとサイズ的に大きいけど

裸足よりはかなりましだよね。ボロ布を使って隙間を補う。

最後にローブを身に着けて服の破損した箇所を補う。


 色々とチグハグな状態…

とはいえホイフクローさんからオッケーを頂けるくらいには

普通の格好になったと思う。

魔物におかしな格好といわれる私っていったい…とは考えないでおこう。


 「では行くとしよう。道中の森は安全ではないからの。

 まぁそこまで恐ろしい魔物もおらぬが、用心を怠らぬようにの」


 「はい!」


 私は手札のカードを見る。エナジーの消費量から考えて、

一ターンはたぶん二分から三分くらいだろう。

とすると、エナジー10のユニットを出せている時間は二十から三十分くらい。

そう考えるとデッキの三十枚という枚数も、決して多いとは言い難い。

むしろよく考えて使わないと、

いざという時に使えないなんてことになるだろう。


 私は少し考えて、一枚のカードをマナに変換して一体の魔物を呼び出す。


 ――サモン・先導する隼――


 先導する隼


 シルバー   コスト1   エナジー10

 アタック 5  ライフ 10


 場に出た時、手札のユニットカード一枚のコストを-1する。


 エナジー3:このユニットはターン終了時までガードされない効果を得る。


 アタック、ライフともに低いけど、特徴はコストを減らす効果。

本来はこれで更にもう一枚ユニットカードを使うところだけど、

今はそのまま使わないでおく。

コストを下げるのは昨日も使ったサーベルウルフ。

これでサーベルウルフはコスト0で呼び出せる。

もう一つのエナジーを消費する効果は今回は必要ない。



 マナを入手するにもカードを破壊する必要がある為、

こういったカードの消費を減らせる効果はありがたい。

本来は一度に複数のユニットを呼び出して、

全体を強化して畳みかける…といった使い方をしていたけど

今はそんな余裕もないからね。節約節約!


 隼が私の前方に向かって羽ばたいていく。

名前の通りに先導してくれてるのかもしれない。


 「ふむ…普通の召喚術師であれば、

召喚できる種類も限られているものであろうが

 ふむ…実にいろいろな種類を呼び出すことが出来る。

それに召喚する際に魔力の流れが――」


 私はその場で考えこもうとするホイフクローさんの身体を押して、

なんとか出発することができた。


 道中は危惧したような戦闘は起こらなかった。

先導する隼が時間制限で消えた後に、サーベルウルフを呼び出すも

そちらも時間制限がもうすぐ来る。

戦闘がないかわりにホイフクローさんと色々と話をしたけど、

驚いたのが昨日出会った緑色のマンモス。

あれが森神なんだとか。

いや…強そうとは思ったけどそんな規格外の存在だったとはね。


 間違っても騒がなくてよかったよ。

歩き続けて木々もまばらになり、森じゃなくて林かな? と思い始めた頃に

ようやく目的地が見えてくる。


 「あれが…」


 「うむ、この森に一番近い村じゃ。たしかマヌスとかいったかのぉ」


 微かにだけど建物らしきものが見える。

ようやくこの世界の人間に会う事が出来る。

私はホイフクローさんに続いて村に向かって歩みを早める。

サーベルウルフが時間とともに消えていくけど、

ここまでくれば召喚しないでも大丈夫そう。


 しばらく歩いてふと気が付く。

あれ…ホイフクローさんって村に行っても大丈夫なのかな?

魔物…だよね…? それともこの世界の魔物と人間って仲良しとか?


 「あの、ホイフクローさんって人間の村に入れるんですか?」


 「ん? なんじゃそんなことを心配しておったのか。

入れるも何も、十日に一度は訪れておるぞ」


 「ええっ、そうなんですか。この世界の魔物と人間って仲がいいんですね」


 「いや、どちらも敵対しておる。

わしはこの村の窮地を何度か救ったことがあるからの。特別扱いじゃよ」


 思っていた以上に森の賢者さんは凄かったみたいだ。


 そんな話をしながら村の入り口に辿りつく。

村の入り口には槍を持った男の人が一人立っている。

鎧を着ているわけでもなく、

普通の服装をしているあたり自警団か何かかもしれない。

兵士っていうかんじじゃなさそうだ。


 「おや、ホイさんじゃないか。一人じゃないなんて珍しいね」


 男の人は私とホイフクローさんを交互に見ながら尋ねてくる。

不審がっている様子はない。ホイフクローさん、信用されてるんだなぁ。


 「うむ。ちょっと迷い人を保護しての。こうして連れてきた次第じゃ。

 村長に会わせてもらうぞ」


 「あいよ。ようこそマヌス村へ!」


 前半はホイフクローさんへ、後半は私に声をかけてくる。


 「は、はい。よろしくお願いします」


 私はあたふたとお辞儀をする。とりあえずここまできたら、

ホイフクローさんに任せるしかないね。


 村の中で歩いている間も、ホイフクローさんは何度も挨拶されている。

村の窮地を何度か救ったというのは伊達じゃないみたいだ。

私の方にも興味深げな視線が何度も飛んでくるけど、ホイフクローさんといるからか

とくに詮索されることもなかった。あまり会話できることもないし、凄く助かるね。


 村長さんの家には何事もなく到着。でも村長さんに何の話があるんだろう?


 村長さんは見た感じ四十代の屈強な男の人でした。

村長というよりも、猟師とか木こりとか…

とにかく頑丈そうなかんじだね。てっきり白髪のお爺さんが来るのかと思ったけど。


 「これはホイさん。今日来たのはそちらのお嬢ちゃんの件かな?」


 村長さんが私を見てホイフクローさんに尋ねる。

まぁ見た事のない私を連れ立ってるし、そう思うよね。


 「うむ。実はこの娘さん迷い人での」


 「へぇ…珍しいな。けどそれなら話はわかった。一筆書くとしよう。

 王都にも報告をしとかないといけないからな」

 

 「うむ。話が早くて助かるの。

それと町までの乗合獣車は次はいつぐらいじゃろうか?」


 「あー…二日前に出たからなぁ。次は十日後になるぜ。王都への報告も

 その時になっちまうな」


 「ふむ。ではそうじゃな…その間には――」


 二人の話が進んでいく。私はよくわからないのでそのまま聞き続ける。

とりあえず村長さんが何か用意してくれて、

私は町に行くことが出来そうかなというのは理解できた。

でもその間に何かするみたいだけど…


 「おっと、お嬢ちゃんが話についてこれてないな。わりぃわりぃ」


 「そういえばお主、名前はなんというんじゃったかのぉ」


 あっ、そういえば名乗ってなかったっけ。


 「名前はマイといいます」


 「マイちゃんね。まずお嬢ちゃんは迷い人ということだけど――」


 村長さんにどうして私が村長さんの元に連れられてきたのか

説明を受けることになった。


 それによると迷い人と呼ばれる

他の世界からの人間を保護することが目的なんだそう。

保護というか、かんじとしては身元保障なのかな?

本来であれば、ちゃんとした審査があるみたいなんだけど、

私はホイフクローさんの紹介ということで

全面的に免除されるとのこと。それでいいんだろうかと疑問に思ったけど、

ホイフクローさん曰く特に危険はないとのこと。

会って二日しかたってなくても分かるものなのかなぁ?


 まぁ審査とか受けるのも大変そうなので、

有難く村長さんの身元保証を受けることにした。

そしてある程度の大きな町に行けば迷い人をサポートする施設もあるんだとか。

その為に町への移動の方法も聞いてくれていたみたい。

ほんとになんて良いフクロウなんだろう…。


 「そういえばそんな制度があるってことは、

私みたいに他の世界から来る人って多いんでしょうか?」


 疑問に思ったことを聞いてみる。こんな制度が機能しているってことは、

当然何度もそんな機会があったってことだからね。



 「まぁ年に一回あるかないかってくらいだけどな。

珍しいには珍しいが、見たことないってほどでもねぇ」


 うーん…思った以上に多いみたい。

でもそれならホイフクローさんがすぐに他の世界から来たって言いだしたのも

おかしくなかったのかもしれない。

こちらの世界では一般的にしられているような話だったのなら。




 「とはいえ、お主のような不思議な力を持つ者は稀じゃがの。

大抵のものは特別な力を持ってはおらんようじゃ。

 それでもこちらの世界にはない知識をもっておるから、無碍にはせん。

ちゃんとこちらの世界に適応できるように

 サポートする制度もあるからの」


 それはすごくありがたい。正直カードを使えたとしても、

一般常識がなければ、生活力もない。

まずはその辺りの知識から得る必要がありそうだね。


 「でだ。マイちゃんには町までの乗合獣車が来るまで、

村の食堂で働いてもらいたい。

 もちろん給金と寝泊まりする部屋、食事もだす。どうだろう?」


 「はい! こちらこそよろしくお願いします」


 私にとっても願ったりかなったりの話だ。

むしろ給金貰っていいのかな? と思ってしまうほど。

戦う力があるとはいえ、よくある異世界に行って強い魔物を倒して

その素材で生活なんて…とてもじゃないけどできそうにない。


 こうして私はマヌス村でしばらくの間生活することとなった。



 ――三津 伊吹――



 「……んー……」


 「どうしたイブキ。そんなに難しい顔をして」


 俺がデッキをあれこれいじっていると、バイカルさんが声をかけてくる。

バイカルさんはこの間の戦いのさなかで部隊の指揮をしていた中年の騎士だ。

デッキは俺にしか見えないし、

他の人にはたんに難しい顔をして唸っているようにしか見えないよな。


 「いえ、ちょっと魔法の調整を…」


 そう言って誤魔化す。


 あの戦いの後、俺はバイカルさん達に保護されることになった。

どうやら俺のように違う世界から来る人間というのは、

そこまで珍しいわけではないみたいだ。

腹の探り合いの交渉をする必要があるかなと思ってたけど、

思っていた以上に異世界の人間に対してフレンドリーな世界だった。


 正直すぐにでも姉ちゃんを探しに行きたかったけど、

考えなしに動くと後々面倒なことになるのは

どの世界でも一緒だろう。

まずは身元保証を受けて、情報を収集できる場所を探す。

姉ちゃんも間違いなくこの世界に来ているはず…。

最近この世界に来た異世界の人間の情報を集めれば、

かなり高い確率で姉ちゃんの情報に辿りつけると思う。

その為にも力を付ける必要がある。

権力だろうが財力だろうが使える手段は利用させてもらうつもりだ。


 いまも騎士団を通じて異世界人の情報を集めてもらってはいるが……

 

 「バイカルさん、異世界人の情報は…?」


 「残念だがまだ入ってきていない」


 「そうですか…」


 毎日のように繰り返している会話。

それでもひょっとして…と思わないでもない。

もし見つかっていたら俺が聞く前に教えてくれてるんだろうけど…


 「んーイブキが探しているのってお姉さんなんだっけ? 

早く見つかると良いわね」


 バイカルさんに続いて入って来たジュナさんも声をかけてくる。

この人もゴブリンとの戦いの時にいた人だ。

かなり綺麗な人だけど、特徴的なのはなんといってもその耳…この人はエルフだった。


 驚いたことに、エルフという種族も最初は異世界から来たんだそうだ。

ただかなり昔の事というのと、

エルフは長命なことから異世界に来たエルフ同士でしばらくの間

子孫を残し続けたことで、人口はそこそこ多いんだとか。

てっきりこんなファンタジーな世界だから、

エルフなんて普通にいそうだと思っていたけどそんなことはなかった。

ゴブリンはいるのにな…。



 なんにせよ、部隊の窮地を救ったという事で

バイカルさんをはじめ騎士団の人達の信頼を得ることが出来た。


 (絶対に見つけるからな…!)


 俺はこの世界で心細い思いをしているだろう姉ちゃんを思い、

心の中で拳を握りしめた。




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