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異世界の旅路はトップ解決で  作者: ふきの精
旅路の始まり
3/28

3


 突然現れた狼に、苔人間はひどく狼狽していた。

当然だろう。先ほどまでの楽に狩れそうな獲物とは違い、

明らかに戦闘能力が高そうな生物だ。


 それでも私という獲物が魅力的なのか、狼を何とか出来ると思ったのか

逃げようとせずにこちらにジリジリと近寄ってくる。


 私は肩と脇腹の痛みに耐えながらも、狼の後ろから苔人間を睨みつける。


 ゲームだと攻撃指示が必要だったっけ…それなら…


 「サーベルウルフ、アタック!」


 その言葉を聞くや、サーベルウルフが勢いよく苔人間に飛びかかる。

後ろからでもすごい迫力だ。とてもコスト1だとは思えないくらい強そう。


 サーベルウルフ


 ブロンズ   コスト1   エナジー10

 アタック15  ライフ15

  

 能力的にはごく普通のコスト1ユニットカード。バニラと呼ばれるタイプ。

バニラというのは能力が何もないカードの事を言う。

最初に伊吹から説明された時に美味しそうと言ったら、

冷たい目をされたからよく覚えている。

いや、バニラって聞いたらアイスクリームと思うし…。


 エナジーというのはターンの経過とともに減少していき

0になると消滅してしまう。

呼び出しても時間制限があるんだよね。

ちなみにエナジーを消費して能力を使えるユニットもたくさんいる。


 アタックとライフはそのままの意味。

ちなみにコスト1に10かけた数値が平均レベルらしくて、

コスト1の平均はアタック10のライフ10。

サーベルウルフは平均よりも少しずつ強いってことになるね。


 私の目の前ではサーベルウルフと苔人間の死闘が繰り広げられている。

とても割って入れる場面ではない。

なんとなくサーベルウルフのほうが優勢な気がするけど、

どちらも決め手に欠けて攻めあぐねている感じだ。

苔人間…思ったよりも頑丈だ。あの牙と爪を素手で防いでいるんだから…

とても私一人じゃ勝てる相手ではなかっただろう。


 なにかサーベルウルフを支援する手があればいいんだけど…


 私が見守っている間に、再びカードが白く輝きだした。

これってターンの最初に戻ったってこと? 

時間を計っていなかったけど、体感で二分くらいかな。

とにかく使えるなら使わないと!


 私は再びカードを砕いてマナを入手する。

マナはまだ残っていたけど、

カードを砕いてマナに変えられるタイミングは最初のマナゲインの時だけ。

序盤はマナを溜めて高いコストのカードに備えるのがセオリーだ。

マナの入手とともに手札に一枚のカードが補充される。

攻撃スペルがきたけど…

いまはサーベルウルフを加勢できるユニットがいいかな。

そして一枚のカードを選択


 ―サモン・プレートボア―


 カードが輝きとともに砕け散ると、目の前に現れる重厚な獣。


 プレートボア


 ブロンズ   コスト1   エナジー10

 アタック10  ライフ20


 それは所々に鎧のような装甲のついた猪。見るからに頼もしい存在だ。

これもサーベルウルフと同じく能力なしのバニラと呼ばれるユニット。

ちなみに伊吹はバニラをあまり使わないけど、私はよく使う。

理由は単純、わかりやすいから。


 伊吹曰く「能力がないとなんだか損した気がするし…」

なんていうけど、そのバニラで止めを刺されることが何回もあったけどね!


 「プレートボア、アタック!」


 私の言葉で鈍重そうな見かけとは裏腹に、勢いよく突進する猪。

先ほどまで拮抗状態にあった、サーベルウルフと苔人間の戦いは

一転してこちら側有利になる。


 プレートボアが正面から突撃しつつ、

サーベルウルフが死角からその爪を振るう。


 わずか数十秒で死闘の幕は下りる。うん…この子達強いわ。


 苔人間が倒れてホッとする私に止めを刺したサーベルウルフが牙を剥いて唸る。

えっ、なんで!? プレートボアもこちらを見て身を低くする。

あれ突進する前の状態だ!


 コントロールを失った? 

それとも元々味方じゃなくて、単に目の前の獲物を攻撃しただけとか?

私が二体を見ながら混乱していると、ガサリと後ろで音がする。

反射的に振り向いたそこにはもう一体の苔人間。


 「ひっ!?」


 サーベルウルフとプレートボアは私じゃなくて、

こいつに向かって威嚇してたんだ。

二匹がこちらに向かって駆けよってくるけど、

思った以上に苔人間の距離が近い。


 死……? 両手を振りかぶり私の頭を叩きつぶそうとする苔人間。

死を感じる私の脳裏に、走馬灯のようにゆっくりと記憶が巡る。


  伊吹ともう一度会いたかったなぁ。


  こんなことになるのなら、昨日の夜にもっとゲームに付き合ってあげればよかったな。


  私に負けて納得いかないって顔をしてたの可愛かったな…。


  昨日の夜はスペルカードで止めを――


 スペルカード!?

何度となく使った攻撃スペル。昨日も使ったばかりのスペル。

そしてさきほど手元に来たスペル。

私は頭で考えるよりも早く、そのカードを掴み言葉を発する。


――スペル・サンダージャベリン――


 

 その瞬間周囲を閃光が照らし、轟音とともに稲妻の槍が苔人間を貫く。


 不思議なことに至近距離であるにもかかわらず、私には何の影響もない。

ただ私の目の前の苔人間は、両手を上げたままの姿で地面に崩れ落ちた。


 「た、助かった…」


 私は命の危険が去ったことで、脱力したようにその場に座り込む。

死ぬかと思った…今になって身体が震えだす。

使い慣れていたスペルだったから躊躇することなく使う事が出来た。

一瞬でも迷ったら、苔人間の攻撃をうけてしまっていただろう…。

二体の獣が私の傍に集まってくる。

私の身体を守る様に周囲を警戒しながら囲んでくれる。

私の身体よりも大きい二体の獣…本来なら恐怖するところだろうけど、

今はその存在が心強い。私の身体の震えはいつの間にか止まっていた。


 「あなたたち、ありがとうね」


 私が二体の獣を撫でるようにさすると、なんだか嬉しそうな表情をする。

ふふっ、なんとなく生きていける希望が出てきたよ。


 とにかくここがどこかわからないけれど、地球じゃないのは間違いない。

まずは帰る手段を探さないと。帰れるかどうかわからない。

でも伊吹は私が消えたと知ったら…


 私が決意を新たにしていると、

二体の獣が何かを威嚇するように唸り声を上げ始める。


 「えっ!? まだ何か…いるの…?」


 二体が見ているのは大きな木の上。私には何も見えないけれど…


 「ほーほほっ。わしは敵ではない。そう殺気だたんでくれんかのぉ」


 その声とともにフワッと木の枝に降り立った影。

それはフクロウのような人のような奇妙な生き物だった。



 「えっと…あなたは…?」


 とりあえず敵でないのかどうかわからないので、

二体の獣の後ろに隠れて声をかける。

二体の獣は威嚇の態勢にあるけれど、

流石に高い木の上までは攻撃が届かないと思う。


 「わしは森の賢者ホイフクローである」


 森の賢者? なんだかすごそうな肩書きが聞こえた気がするけど…


 「お前さん、他の世界から来た者であろう? 面白い力を使うの」


 「えっ!? 私が違う世界から来たってわかるんですか!?」


 フクロウの言葉に、私は食い気味に問いかける。

違う世界から来たなんて、普通信じられないと思うけど

このフクロウにはそれが分かっているみたいだ。

それなら元の世界に帰る手段も…


 「ほーほほっ、次元の歪みを感じたからのぉ。

 それに不思議な力。召喚術のようじゃがどこか違う。

 ならば別の世界から来たと考えるのが自然じゃの」



 「それで…元の世界に帰る方法を知りたいんです。

 帰り方をご存じありませんか?」


 私は二体の獣に威嚇を解くように指示すると、前に出て問いかける。


 「ふむ…残念じゃが帰る方法はわからんの。

 次元の歪みがなぜ生じるかもわからんし、

 時々このようなことがあるということくらいしかわからんのぉ」


 「そうですか…」


 私の淡い期待は砕かれた。

でも時々こんなことがあるということは、私と同じように

違う世界から来た人がいるかもしれない。

それならば帰る方法を探している人がいる可能性もある。

そう言った人達を探して協力することができれば…


 「ふむ、まずは休める場所に案内しよう。

 まだこの世界に来たばかりで気が休まる状態でもなかったろう。

 ひとまずゆっくりと身体と心を休めることじゃ」


 「ありがとうございます。

 でも、私おかねとかもってないしお礼出来ることなんて…」


 この世界の通貨というのがわからないし、

なによりもこのフクロウに人間の通貨が必要なのかどうかもわからない。


 「ほーほほっ、なにお前さんの話を聞かせてくれればそれでいいんじゃよ。

 わしは森の賢者。自分の知らない知識を得られるのが一番のお礼じゃ」


 その言葉とともに地面に音もなく降り立つフクロウ。

思ってたよりも小さい。私の胸くらいまでの身長だった。

でもその存在感は先ほどの苔人間以上だ。

サーベルウルフとプレートボアの二体で相手しても勝ち目があるかわからない。

まぁ敵対してるわけでもないし、

休める場所に連れて行ってくれるのなら今はその好意に甘えさせてもらおう。

私の話なんか聞いても面白いかどうかわからないけれど、

それが対価になるなら安いものだと思う。


 私と二体の獣は、フクロウに先導されて森の中を歩き始めた。





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