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ギルド長に説明をして報酬も頂いたその夜。
伊吹は別の報酬を見て目を輝かせていた。
「たしかに…伊吹がはしゃぐだけはあるわね」
「何姉ちゃん冷静になってるんだよ!
ポイントがすごいことになってるぜ」
そう、伊吹の言うようにポイントがすごく溜まっていた。
アガマの集合体を倒したからだとおもうけど…。
ポイントの部分の数字が六千三百となっていた。
伊吹も同じくらい入っているみたい。
いったいどれだけ集まっていたんだか…うん…あまり想像したくないね。
「じゃあさっそく……ん? なんか変な項目が…」
伊吹の言葉に私も自分のデッキを確認する。
そこには"ジョブ"という項目が。なにかな…?
「うぉぉっ!! ジョブなんてあったのか!
っていうか五千ポイントもするのか!?
いや…でもジョブとったほうが良いよな…でも五千かぁ…」
……なんだか伊吹が驚いたり落ち込んだり感情の動きが激しい。
これが何なのかはわかっているみたいだけど…。
「ねぇ伊吹。私にはわからないんだけど、ジョブって何なの?」
「あっ、姉ちゃんは知らなかったか。えっと…合宿から帰って来てから
説明しようと思ってた新機能なんだけど…」
若干ハイテンション気味な伊吹の説明によると、
ジョブというのはクエストと呼ばれる
通常の対戦方式とは別の形式で使用するものみたい。
ジョブごとに特殊な能力があって、
それらをメインとサブの二種類組み合わせることで
色々と戦略を練ることが出来るみたい。うん…難しそう…。
まだ実装されてそんなにたっていないらしくて、
伊吹も詳しくは調べてないみたいだけど…。
改めてジョブ一覧を見る。
・戦士…敵ユニットに攻撃可能。敵ユニットがいない場合、敵マスターに攻撃可能。
攻撃時のアタックは20。この能力はバトル中に三回まで使用できる。
・騎士…味方ユニットのダメージを代わりに受ける。
この能力は一ターンに一度のみ使用できる。
・探検家…ドロー時もう一枚カードを引く。
この能力はバトル中に三回まで使用できる。
・狙撃手…敵ユニット一体を破壊する。
この能力はバトル中に一度のみ使用できる。
・賢者…手札の上限が+1される。ただし最初に配られる手札が四枚になる。
・錬金術師…ドロー時カードを引き直すことが出来る。
この能力はバトル中に五回まで使用できる。
うーん…まだたくさんあるけど、たしかに使いこなせれば便利そうだね。
でもどうして突然こんな項目が現れたんだろう…。
ひょっとしてポイントが一定量溜まったら、表示されるようになるとか?
でも伊吹だったら五千ポイントくらい溜まって…
ってすぐパックと交換してたっていってたっけ…。
伊吹はかなり悩んでるね。私はどうしようか…このままポイント溜めてたら
何か別の項目が出るかもしれないし、
溜めてもいいんだけどパックも少し引いておきたいんだよね。
うーん…結構悩ましいね。
「うしっ! 姉ちゃん俺ジョブとってみるよ」
どうやら伊吹は決心したみたいだ。あんなにテンション上がってたし、
伊吹なら絶対取るってお姉ちゃん確信してたよ。
「何のジョブにするの?」
「スペル中心で組んでるから魔術師にするよ」
魔術師…魔術師…あった。
・魔術師…スペルのコストを1軽減する。
この能力はバトル中に五回まで使用できる。
なるほどね。たしかにスペル中心の伊吹ならぴったりかもしれない。
伊吹がポイントを使ってジョブを入手した瞬間、伊吹の身体が光に包まれる。
えっ!? なんで光ってるの!?
「うわっ…なんだこれ」
伊吹も自分の身体を見てびっくりしている。何か危険とかはないよね?
「伊吹、大丈…夫?」
問いかけている途中に光が収まる。
そこには…年季の入ったローブを身に着けた伊吹の姿があった。
「なっなんだこの格好!?」
伊吹自身も混乱している。でもなんとなくだけど分かる気がする…
伊吹の今の姿はまさに魔術師ってかんじだよね。
つまり…ジョブを入手すると格好も変わると言う事かな。
「伊吹…たぶんジョブのせいじゃないかな?
その格好になって何か変わったことはない?
魔法が使えるようになってるとか…」
私の言葉に伊吹が少し思案する。
「……うん、特に変わったことはないみたい…」
ちょっと残念そうだね。見た目は熟練の魔術師なのに…。
「あっ、でも手札のスペルのコストを下げることはできるみたい。
ジョブの効果は発揮されてるみたいだね」
手札を触りながら伊吹が答える。ふむ…格好が変わると言うのは結構魅力的だね。
ああっ、パックを引くか溜めておくかジョブをとるか悩むなぁ。
「姉ちゃん! 明日からはポイントを稼げそうなところに行こうよ。
ジョブがあるならポイントはいくらあっても足りないって!」
まぁ一つとるのに五千ポイントもかかるとなれば、たしかにいくらでも欲しいよね。
「伊吹の気持ちはわかるけど、あんまり危ないところは駄目よ。
ポイントが欲しいからって命を落としたら元も子もないでしょ」
念のために釘をさしておく。
「あと、元の世界に帰る為の情報集めもそろそろ始めないといけないし。
依頼にばかり時間をかけていられないからね」
アガマによって得たのはポイントだけじゃない。
コアを売却したことでまとまったお金を入手できたんだよね。
ギルドの人からしばらくコアの受付をストップされるくらい…。
なのでしばらくはアガマ討伐に行けなくなった。
他の依頼を探しても良いんだけど、そろそろ元の世界に帰る方法も探したいんだよね。
「…俺は姉ちゃんがいればそれでいいんだけど…」
……伊吹の気持ちは嬉しいけど、お爺さんお婆さんが心配してるだろうし、
学校の友達にも心配かけてるよね。それにやっぱりこの危険な世界よりは
元の世界で安全に暮らしたいとも思う。
「今日は疲れてるでしょうし、これからの行動は明日考えましょう。
ところでその格好って元には戻れないの?」
寝る時までその格好だと寝付きが悪そうなんだけど…。
「どうかな…ジョブは解除できるみたいだけど…あっ! できた」
伊吹の姿が再び光に包まれて元の軽装に戻る。
うん…これなら私も安心して取ることが出来るかな。
ずっとその格好のままとかになったら、生活するのも不便そうだからね。
「じゃあ寝ましょう。おやすみ伊吹」
「おやすみ姉ちゃん」
私は今日の疲れから、布団に入るとすぐに眠りに落ちていった。
伊吹はたぶんなかなか寝つけられないだろうなと思いながら。
翌日私達はリベルさんに紹介された雑貨屋「コペル魔道具店」に向かう。
消耗品の補充の為と、情報収集も兼ねてね。
…伊吹は帽子をじっと見つめてるけど、やめたみたいだね。
昨日の魔術師の格好になった時に帽子が付いてたからかもしれない。
付いてなかったら買ってたかもしれないね。
「ふむ…世界を渡る方法のぉ…」
前回と同じくお茶のようなものを頂きながら、お爺さんと話をする。
結構昔からやってるお店だったら、色々な情報が入っているかなぁと期待しつつ…
「いや…聞いたことが無いのぉ。そのような力を持った魔道具も見た事が無い」
残念ながらお爺さんも知らなかった。うーん…やっぱり無理なのかなぁ…。
「ふむ…王都に行ってみてはどうかのぉ」
「王都ですか?」
たしかマヌアの村の村長さんと最初に会った時にチラッとそんな話があったけど…
たしか王都に報告しなければとか言ってたっけ。
「うむ。迷い人の保証をしたものは王都にその報告の義務があるんじゃよ。
この国だけではなく、他国も同じような決まりがある。
ただお前さん達はギルドで登録したから、無理に行く必要はないんじゃが…」
どうやら王都への報告をするまでもなく、ギルドに登録していれば問題ないみたい。
というか、迷い人で冒険者になる人の方が少ないんだとか…。
たしかホイフクローさんが、特別な力を持っていることはあまりないっていってたからかな。
私達もこの力がなかったら、とてもじゃないけど冒険者をしようなんて思わなかったしね。
でもそれならどうして王都に行ってみてはなんて言うんだろう…。
「王都には大図書館があるんじゃよ。そこでならひょっとしたら元の世界に帰る為の
なにかしらの方法が見つかるかもしれんのぉ。もちろん見つからん可能性もあるが」
なるほど! たしかに調べ物をするなら図書館が良いかもしれないね。
元の世界だと調べ物をしたいと思ったらネットですぐに検索してたから、
図書館で調べ物をするっていう考えにいたらなかったよ。
「王都までは乗合獣車でいくといいじゃろう。だいたいここから二日ほどの距離じゃな」
乗合獣車というのは最初にこの町に来る手段として考えていたものだね。
騎士団の人達が乗っていたものとほぼ同じ感じだけど、
物資のスペースをさらにたくさんの人が乗れるようにしたもの。
電車というのが感覚的に近いのかもしれない。
ただお爺さんが言うには、予約をしておかないと乗れないだろうとのこと。
マヌアの村とこの町を繋ぐ獣車は、そんなに使う人がいないから問題なかったけど
流石にこの町と王都だと使う人も多いんだね。
「わかりました! それじゃあ乗合獣車を使って王都に行ってみます」
お爺さんにお礼を言って私達は魔道具店をあとにした。
とある山岳地帯にある洞窟の奥深く――
「アラバネン様ーおよびでしょーかー」
茶色のゴブリンが若干面倒そうに主人の元にやってくる。
幸いこの間の癇癪からは逃れることが出来たが、
また何を言われるのかわかったものじゃないと内心びくびくしていた。
「うむ。うむうむうむ。ようやく完成したのだ。
これが何かわかるか? 矮小なる頭脳を持つ者よ」
ずいぶんと酷い事を言うなぁと思いつつ、アラバネンの持つ奇妙な石を見る。
それはくすんだ鉄の塊のようでいて、微かに動いているようにも思える。
「え――」
「わからんだろう、そうであろう。これはゴーレムの心臓である!」
ゴブリンが何かを言う前に、アラバネンが語り始める。
ゴブリンはじゃあ聞くなよと思いつつも、下手なことは言わずに黙って聞き続けた。
「これはこの間のアガマゴーレムとは違って、大量にアガマを集める必要がない!
さらに言えばエネルギーを補充することで、
半永久的にゴーレムとして稼働することができる!」
ゴブリンは言ってることがよくわからないが、とりあえず相槌を打ち続ける。
内心早く帰って眠りたいなぁと思いながら。
「――外殻が壊れてもこの心臓を別の素材に移すことでゴーレムとして形成される。
つまり! ゴーレム製造の革命的な一品なのだ!」
たしかアガマゴーレムのコアを作った時もそんな話をしていた気がするけど
ゴブリンは突っ込まない。
「しかし最大の問題はエネルギーの補充にある!
だがしかし、もっとも効率的に補充するものが存在した。それが…人の血液だ!」
なんだか話が物騒な方向にいってるなぁと思いつつ、自分の血はゴブリンの血だから
取られる心配はないなと安堵もする。
「なので、お前は乗合獣車を襲撃して何人か生きた人間を捕えてくるのだ!」
「……はぁ!?」
とんでもないことを言いだした主人に思わず間抜けな声をあげてしまう。
「そそそんなことしたら騎士団に返り討ちにされますよ!」
これまでも色々と犯罪を重ねてきて、主人は賞金をかけられている。
だが乗合獣車を襲うとなれば、明確に討伐隊が派遣されるのは目に見えている。
ゴブリンはまだ死にたくはなかった。
「案ずるな。ワシの特製のキメラを何体か連れて行けばいい。
魔災の影響か魔物が増えているので、魔物の襲撃にみせかければいいのだ!」
「えぇっ、あのキメラですか!? 俺の事食べたりしないですよね…」
「うむ。たぶん大丈夫だ。心配するでない!」
どう聞いても心配しかでてこない主人の言葉に、心の中で大きなため息をつく。
とはいえゴブリンには事実上の選択肢はない。はいかイエスのどちらかだ。
「くっくっく…ワシの最高傑作…ブラッドゴーレムの完成は間近であるぞ!」
狂気の錬金術師アラバネンの笑い声が洞窟内に響き渡る。
まだ見ぬゴーレムの完成を想像しながら…。




