23
本日も晴天なりーというわけでアガマ討伐にきているんだけど…
「いないわね…」
「ひょっとして討伐しすぎたとか?」
岩場地帯を歩けど歩けど、アガマに遭遇しない。
たしかにここ数日おきに討伐に来てるけど…。
普段ならもう三、四体くらいは戦ってるくらいだと思うんだけどね。
まさか本当に全滅させてしまった…?
呼びだしたマーコールの頭を撫でながら思案する。
いや…流石に常時討伐任務が出ているくらいの魔物を、
私達だけで全滅というのは考えられないか…。
ちなみに岩場地帯と一言で行っても、かなりの範囲がある。
採掘場もいくつかあり、毎日場所を変えながら回ってたんだけど…。
「とりあえずもうすこし歩いてみましょう」
伊吹を促し、マーコールに索敵をお願いする。
ひょっとしたら隼かハーピーを呼んで、
空から探してもらった方がいいかもしれない。
残念ながらどちらもデッキから外してるけど…。
たしかギルドでは魔災の影響なのか、
魔物が増えているっていってたのになぁ…。
そんなことを考えながら歩き続ける。
そろそろマーコールが消えそうかなという時、異変がおこった。
――ズズーン……――
「伊吹!」
「うん、あっちのほうだ! 行ってみよう」
何かが爆発したような音。私と伊吹はその音のした方へと駆けていく。
たしかあっちには採掘場があったはず。嫌な予感で胸がザワザワする…。
私達が採掘場に着いた時、最初に目に入ったのは石で出来た巨人だった。
「なっなによあれ…」
逃げ惑う人達。採掘場の中央で仁王立ちした石巨人は、
逃げる人達に向かって巨大な拳を振り下ろす。
そのたびに先ほど聞いた地響きが起こる。
あんなの直撃を受けたらひとたまりもないんじゃ…。
幸い、いまのところは直撃を受けた人はいなさそうだ。
とはいっても、危険なのには変わりがない。
見たところ冒険者は私達以外にいないみたい。
何とか足止めだけでもしないと、
この採掘場がめちゃくちゃになるし、鉱夫さん達もいつまでも走り続けられない。
「あ、あんたらも逃げろ!
とてもじゃないけど二人でどうにかなる相手じゃないぞ!」
逃げていく鉱夫さんの流れに逆らうように進む私達に、一人の鉱夫さんが叫ぶ。
「何とか足止めして見ます。町に応援をお願いします!」
たしかに逃げたいけど、
今この場で戦えそうなのは私達だけだしなんとかするしかない。
伊吹の方を見ると、無言で頷いた。私と同じ考えみたいだね。
鉱夫さんはわかったと叫んで走っていく。たぶん応援を呼んできてくれると思う。
「とはいっても、無茶はしないでくれよ姉ちゃん」
「伊吹もね。とにかくどこからあんな魔物が現れたのかわからないけど、
時間かせぎだけでもするわよ」
マーコールはもうすぐ消えるし、
流石にあれの相手をするのは無茶だと思う。
なので手札でいけそうなカードを選択する。
――サモン・ミノタウル――
私の言葉とともに現れたのは、牛の頭を持つ大男。
その手にはとても人間じゃ持てないような戦斧を持っている。
大きさは石巨人よりも少し小さい。それでも三メートル近くはあるんじゃないかな。
これなら真正面からぶつかっても力負けしないと思う。
「ミノタウル、アタック!」
私の言葉で鼻息荒く躍りかかるミノタウル。
石巨人もミノタウルに向かって拳を叩きつけようとする。
――スペル・ファイアボール――
拳を振りかぶった石巨人に伊吹の放った火球が直撃する。
アガマ用に準備していたスペルだけど…効いたかどうかよくわからない。
「くそっ! これじゃ弱いか!」
伊吹も同じように思ったみたい。
効いてるのかもしれないけど、外見からは判断つかないね。
ただその火球によって拳を叩きつけるタイミングが遅れた。
その隙をついて、ミノタウルが唸りを上げて戦斧を石巨人に叩きこむ。
ゴツンと大きな音を響かせて、石巨人がふらつく。これは効いたはず!
ただ頭らしき場所はあるけど顔がないので、表情からはわからない。
ミノタウルは斧や拳や体当たりを繰り返し、石巨人を攻撃する。
石巨人も拳で応酬する。うん…このままじゃミノタウルがやられちゃう。
何かサポートできるものは…
――スペル・死神の手――
伊吹の声で石巨人が制止する。
「伊吹、そのスペルって」
「ああ、念のために入れてたんだ。
あまり使いたくなかったけど、しかた――」
伊吹の言葉が途中で止まる。私も言葉がでない。
私と伊吹は無言で再び動き出した石巨人を茫然とみつめた。
「まさか破壊不能な能力を持ってるなんて…」
「でも一瞬動きが止まったけど、どうしてかしら?」
答えは出ない。ミノタウルが奮戦してくれているから何とか持っているけど、
援軍が来るまで持ちこたえれそうにない。徐々に押されているのがわかる。
何か手助けできるユニットを……
――サモン・ジャングルサーペント――
目の前に現れる翡翠色の美しい鱗を持つ巨大な蛇。
ステータス的にはミノタウルと同じ。
二体なら石巨人にも負けないはず!
「ジャングルサーペント、アタック!」
見た目からは想像できない速さで石巨人に襲いかかるサーペント。
石巨人は新しく現れた相手に意表を突かれたのか、そちらに注意をやってしまう。
その隙を逃さずミノタウルが石巨人の胴に戦斧を叩きこんだ!
石巨人の胸に亀裂が入り、ガラガランと岩が砕け落ちていく。
ひょっとして倒せた…? 期待を込めた思いは、石巨人の姿を見て困惑に変わる。
砕け落ちた石巨人の中には黒い物体が詰まっていた。
「中身ってあんなのなんだ…」
石巨人はそのまま何事もなかったかのように動き出す。
あれでも倒せないなんて、どれだけタフなのか…。
サーペントとミノタウルが連携して戦うけど、
石巨人は身体をボロボロと崩しながらも動きを止めない。
効いてるのかどうかもあやしくなってくるほどに、動きに変化が見られない。
逆にサーペントは石巨人に対して戦いにくそうだ。牙がたつように見えないし、
巻きついたらミノタウルが戦いにくくなるし…
「ブツブツ……あの黒いのどこかで…あれは!」
考え込んでいた伊吹が突然声をあげる。何か倒す方法が見つかったのかな?
「姉ちゃん、あの黒いの…たぶんアガマだ!」
「えっ!? アガマって…ええっ!?」
たしかに色は似ているけど、スライムじゃないよね?
「あいつの足元見て。 さっきミノタウルが体当たりした時に
こぼれたの見たんだけどあれアガマだよ」
伊吹の指さすあたり…
ミノタウルの足元にたしかに黒いボテっとしたものが落ちている。
あっ、ミノタウルに踏みつぶされた。
でもあれがアガマだとしたらどうして石巨人の中に?
「理由はわからないけど、たぶん中にたくさんのアガマが詰まっていて、
それがあれを動かしてるんだ。
死神の手が効かなかったのは、たぶんあの集まっているアガマの内の
一匹しか倒せなかったからだと思う」
「それならあの中を攻撃するように指示すればいいのね。
でもそんな細かい指示出せるかしら?」
いままではアタックくらいしか指示だしてなかった。
でもドリアードみたいに意志の疎通がとれるなら、
場所を指示するくらいなら出来るかもしれない。
「いや…相手が一体じゃなく、複数だってわかればやりようはあるよ」
そう言って伊吹は一枚のカードを手にとる。
――スペル・焦熱――
その言葉とともに、赤い何かが石巨人の中に詰まった黒い物を包み込む。
次の瞬間…それが赤い閃光となって膨れ上がる。
そのスペルは初めて見たけど、たぶん敵ユニット全てに効果があるものだと思う。
閃光が収まると、あれだけ何の変化もなく動き続けていた石巨人がガラガラと崩れ去った。
あぁっ、コアが岩に埋もれていく…
とはいえ、これで石巨人も流石に倒せたと思う。
「伊吹、やったわね! そんなスペルまで用意してたなんて流石ねぇ」
「いや、アガマが炎に弱いから炎系のスペルを中心に組んでたからだよ。
万が一囲まれた時用に一枚だけいれてたけど、引けて良かった」
私達はミノタウルとジャングルサーペントの場所までいく。
そこでは岩が山のようになっていた。
うーん…ミノタウルにちょっとづつ岩をどかしてもらおうか。
たくさんのコア…回収できそうなら回収したいものね。
というわけで、
ミノタウルと安全だとわかって戻って来た鉱夫さん達にも手伝ってもらい
リュックいっぱいのコアを回収することができました。
めでたしめでたし。
「いや、めでたしで終わると困るなぁ。どういった状況だったのか
詳しく説明をしてもらえるかな?」
はい。私と伊吹はギルドの建物の二階。
ギルド長様のところで説明をもとめられております。
とはいえ説明できることはあまりない。
ゴーレムの中にアガマが詰まって動かしていたとしか言えないよね。
どこで発生したとかはわからないし…。
「ふむ…」
ギルド長は私の説明を聞いて少し思案しているみたい。
ちなみにギルド長は立派な犬耳をしたおじさんです。
獣人っていうのかな。マヨリさんとはタイプが違うみたいだけど…。
もう一人秘書のような方がいる。こちらは二十代くらいのガッシリとした体格の女性だ。
秘書というよりも戦士というか…いやギルド長の秘書なら戦えてもおかしくはないね。
「やっぱり魔災の影響なんでしょうか?」
思案顔のギルド長に聞いてみる。ちょっと普段では考えられない事だろうからね。
ただ意外なことにギルド長はそれを肯定しなかった。
「いや…魔災というのは異常な魔物の増加…
生息地ではない場所での発生…特異種などの凶暴化などがあるが…
今回のは人為的な原因だと思う。
アガマを石のゴーレムに詰めて動かすなんてことは…魔災でも考えられん」
なるほど…というか人為的ってことは
アレをわざわざ作った人がいるってことだよね…なんてはた迷惑な…。
「アラバネンだろうな…間違いなく」
アラバネン…? 人の名前かな?
「伊吹知ってる?」
「いや…聞いたことないかな」
小声で伊吹に聞いてみても知らないみたい。ふむ。説明を求めたいね。
「えっ、アラバネンについてですか?」
こっそりと秘書の人に聞いてみる。
「そうですね…ギルド長説明してもよろしいですか?」
「ああ。知っておいた方が良いだろう」
「では説明させていただきます」
秘書さんからアラバネンについて…それに伴って指名討伐についても説明を受けた。
指名討伐…つまり犯罪を犯した者を生死を問わずに捕まえるという依頼。
これは通常の掲示板には貼られていない特殊な任務になる。
というのも、まず指名討伐されている対象は強い。盗賊団にしろ、個人の犯罪者にしろ
安請け合いして討伐できる相手ではない。
なんといっても魔物との違いは、明確にこちらに殺意を持っていること。
あとは下手に相手の居場所を公開してしまうと、逃げられてしまうから。
せっかく指名討伐対象の場所を発見しても、大々的に公開したらそりゃ拠点を移すよね。
これらのことから指名討伐の依頼は、
ギルドが可能と判断したパーティに依頼するという形をとる。
依頼を受けることで初めて場所を教えてもらえるという事。
「そのアラバネンというやつがゴーレムを作ったって言う根拠があるんですか?」
伊吹がギルド長に尋ねる。
うん…たしかにギルド長の言葉は確信があるみたいだったからね。
その言葉にギルド長は頷きこう答えた。
「やつはこの付近に住む…狂気の錬金術師だ」
――とある山岳地帯にある洞窟の奥深く…
「アラバネン様ー、ただ今戻りました」
洞窟奥深くに作られた一室。特殊な薬剤や器具が所狭しと置かれたその場所に、
一匹のゴブリンが入ってくる。
そのゴブリンは茶色の皮膚をしており、どこか普通のゴブリンではなかった。
そのゴブリンの声に応えるように、一人のボロボロの格好をした男が現れる。
「おおっ、戻ったか。はやくコアを渡せ!
あぁ、ワシの傑作であるアガマゴーレムのコアをはやく渡せ!」
アラバネンと呼ばれた男は何かに駆り立てられたかのように、ゴブリンに迫る。
その勢いに思わず後ずさるも、ゴブリンは一つのコアをアラバネンに渡す。
それは黒ではなく白っぽい色をしており、少し見ただけでは石にしかみえない。
それを奪い取ると、アラバネンは不気味な笑いを上げる。
「くくくっ。いいデータがとれたぞぉ! これをもとに更なる改良をほどこして、
最強のアガマゴーレムを作って見せよう」
アラバネンはフラスコにコアを入れて薬品を注ぐと、
大がかりな装置に組み込む。
手早くスイッチを入れると、唸り声のような音を響かせながら
フラスコの中の薬品がボコボコと泡立ち始め薄く輝きだす。
「よしよし…ではゴーレムの結果を見るとしよう。どれどれ…」
装置についている羊皮紙にじんわりと浮かんでくる記号。
それはゴーレムの行動を記すものだった。
「……ん…? 稼働時間…十分だとぉぉ!!!!」
アラバネンは三度見直す。どう見ても十を記す記号が浮かんでいる。
耐久性、持続性、攻撃性能…どれもあまりに短い時間の為に計測不能とでていた。
「どういうことだ…? たしかあの辺りには強い力を持った魔物はいないはず…
ドラゴンとでも戦ったと言うのか…? いや…それにしても速すぎる…」
アラバネンにしてみれば、町から騎士団が出てきて討伐されるだろうと予想していた。
もしくは冒険者が戦う可能性もあった。だがそれにしても…
「起動してワシが研究所に帰ってくる前には倒されていた計算になるじゃないかぁ!!
なんたることなんたることなんたること!
コアを集めるのにどれだけかかったと思ってるんだぁぁ!」
癇癪を起こすアラバネン。その辺りの器具に手当たりしだい八つ当たりする。
ゴブリンはそれを予想してすでに退散していた。
主人の癇癪はいつものことだといわんばかりに。
アラバネン一人の叫びが、いつまでも響き続けていた。




