22
リベルさんとの食事が終わった次の日、
私と伊吹はある雑貨屋さんを訪れていた。
昨晩の食事の時、リベルさんやダンジルさんから様々な助言をいただいた。
それは講習じゃわからない、実体験に基づいたアドバイス。
もし野営をすることになったらどんな場所ですればいいのかとか、
冒険者達の間で合図に使う狼煙の色についてだとか、
この付近に出現する特殊な魔物の対応策だとか…。
こういったことは本来は経験を積んだパーティに入って、
覚えていく物なんだろうな。
私達にはそういった環境がないから、すごく助かります。
ひょっとしたらリベルさん達なら私達の力にも理解を示してくれるかも…
という気持ちがないわけではないんだけど、
それはリベルさんの行為に甘えるだけだよね。
私と伊吹も事故が起こらないようにデッキを組んでるけど、
こればかりは運もあるから事故が起こる時は起こる。
いざという時手札に使えるカードがなかったら…と思うと尚更尻ごみしてしまう。
というわけで、昨晩の助言のひとつ…
役に立つ道具類を揃えるために雑貨屋さんに来ています。
いちおう必要そうなものはギルドで販売してるんだけど、そこそこ割高だ。
なので安くて品質が良いという穴場的な場所を教えてもらったんだけど…
「すごいごちゃごちゃしてるな…」
「種類がすごいね。それに見たことないものもたくさん」
入って最初の感想は玩具箱をひっくり返したような部屋…だ。
ステアや止り木亭やギルドの室内はそこまで異世界さを感じなかったけど、
この不思議な雑貨類が所狭しと並んでいる光景を見ると、改めて異世界だと実感する。
っと、たしか店員さんにリベルさんの名前を伝えてって言われてたんだっけ。
「すいませーん」
私の声が消えると、バダバダバダと奥の方から音が響く。
何か落ちたような音だったけど大丈夫なのかな?
心配そうに待っていると、奥から一人のお爺さんが現れる。
「ほいほい、おまっとさん。何か用かいの?」
現れたのは白ひげを蓄えたお爺さん。好々爺ってかんじだけど…
「すみません、リベルさんの紹介でうかがったんですけど
こちらで駆け出しの冒険者に必要な物を見繕ってくれると聞きまして」
リベルさんの名前が出ると、お爺さんが納得したように頷く。
「リベル嬢ちゃんの紹介なら納得じゃわい。
なんせ宣伝もしとらんから、常連以外はほとんどこんしのぉ。
それもお嬢ちゃんたちみたいな若い連中ならなおさらじゃ」
そんなにお客さん来ないんだ…。たしかに私達以外はお客さんがいないけど。
それで商売が成り立つのかな…いや成り立つから続いてるんだろうけど。
「おっと、立ち話もなんじゃのぉ。奥で茶でも入れてやるとしようかのぉ」
私達は促されるままに奥の部屋へと入っていった。
伊吹はキョロキョロと興味深そうに陳列されたものを見回している。
大通りの露店も一緒に見回った時に、ずいぶん楽しそうだったから
こういったものが好きなのかもしれない。
でも、その触ろうとしている深海魚もどきのような形の帽子は、
お姉ちゃんどうかと思うな…。
何か魔法の力が宿っているのかもしれないけど。
奥で用意されたお茶(?)のようなものを頂きながら、
お爺さんが説明してくれる。
私達以外にもこれまで何人かリベルさんの紹介で来た人がいるみたい。
リベルさんって面倒見がいい人なんだね。
お爺さんはいくつかの道具を持って来て、
一つずつ詳しい使い方なんかを説明してくれている。
屋外で火を起こす為の簡易火打石。
なんだか火打石って使うの難しそうなイメージがあったけど、
炎の精霊の力が宿った石を材料にしているので、初心者でもすぐに使えるんだそう。
ただ数回使うと効果がなくなるので、消耗品だね。
あとはコンパクトなカンテラ、
ロープとフックのセットなんていう定番なものから
見た目以上に物を入れられるリュックや、
夜でも見えるようになるマジックアイの魔法の効果がある薬。
魔法のリュックなんて高価なんじゃないかなぁと思ったけど、
そこまで高くはないみたい。
というのも収納できる量で値段が決まるんだけど、
このリュックだとせいぜいリュック三つぶんくらい。
それでも普通のカバンを使ってた私達にすれば凄く助かるけどね。
高価なものになると、倉庫一つ分とか収納できる物もあるみたいだけど…
流石にそのくらいの物になると、貴族の人とか大商人くらいしか持っていないみたいだね。
Sランクとかの冒険者なら持ってるかもしれないけど。
「えぇ…リベルさんも最初にこの雑貨屋さんに?」
「うむ。ヒルリスの嬢ちゃんと連れ立ってのぉ。
今のお前さんくらいの年じゃったか」
ヒルリスさんのパーティメンバーだったんだ。
ギルドで顔見知りってかんじだったけど、もっと深い関係だったんだね。
というかヒルリスさんをお嬢ちゃん扱いって、このお店かなり昔からあるのかも…
それにしても…リベルさんもここからスタートしたんだなぁ。
そう思うと、そのリベルさんがこの店に新人を紹介しているっていうのも納得かな。
きっと新人の頃に助けられたから、他の子達にもって思いからだろうしね。
「姉ちゃん、これすげぇ。見てくれよこれ!」
なんだか伊吹がはしゃいでる。私とお爺さんが会話してるのが退屈だったのか、
店内を見て回ってるんだよね。物とか壊さなければいいんだけど…って何それ!?
伊吹が手に持ってたのは、ドラゴンの頭を模した帽子だ。
伊吹って帽子が好きなの? あまり普段被ってた姿見たことないんだけど…。
それはそれとして、お姉ちゃんちょっと伊吹のセンスが心配になって来たよ。
「ほほぅ、それは嵐竜の帽子じゃの。
身に着けると風の力を増幅することが出来るのぉ。
じゃがあんまり人気がないんじゃよ。あまり風魔法を使う者がおらんのかのぉ」
………たぶん人気がないのはそれ以外の理由じゃないかなぁ…
伊吹に置いておきなさいと言うと、残念そうにしてたけど本当に欲しかったの!?
まぁ…もう少し余裕が出てきたら買っても良いけど、
お姉ちゃん一緒に歩くの勇気がいるなぁ。
その後いくつかの商品を購入して、私達は雑貨屋を後にする。
これで普段の依頼をこなすのも、ずいぶんと楽になるね。
荷物をたくさん入れられるリュックを手に入れただけでも、かなり違ってくると思う。
その分出費もあったし、他にも欲しい物が出てきたけど
アガマ討伐を繰り返せば生活していくのは問題ないかな。
落ち着いたらそろそろ元の世界に戻る方法も探さないといけないね。
伊吹とは会えたけど、向こうじゃお爺さんとお婆さんが心配していると思う。
一晩のうちに二人ともいなくなるなんてね…。
でも帰る糸口すらわからないけど…。今度ギルドで迷い人について聞いてみようと思う。
様々な国の情報が集まるギルドなら、何かしら手掛かりはある…と思いたいね。
――三津 伊吹――
「お邪魔しまっす!」
元気な挨拶とともにやって来たのはラハンだ。
たまたま俺とラハンの休みが一緒になったので、家に招くことになった。
いや、招くと言うか押しかけて来たと言ったほうが正しいか…。
「あれ? お姉さんはいないの?
まさか本当にお姉さんと会わせないように!?」
「いや、姉ちゃんは買い物。リベルさんって言う先輩の冒険者の人から
一緒に買い物に行こうって誘われたんだよ」
残念そうなラハンにいちおう訳を説明してやる。
まぁだからこそ気兼ねなくラハンが来るのを受け入れたんだけどな!
それは黙っておこう。
「姉ちゃん服とかほとんど持ってないからなぁ。
そういった女性向けの服飾店に俺が付いて行っても仕方ないから留守番してんだよ」
いちおう誘われはしたんだけど、居心地が悪そうだから遠慮した。
日本にいた時も姉ちゃんの買い物に付き合ったことがあるけど…
試着室の近くでウロウロしてるのは、落ち着かないんだよなぁ。
「そっか。イブキの姉ちゃん美人だもんなぁ。
着飾ったところ見てみたいよなぁ」
うん。絶対にラハンには見せないでおこう。
「そういや冒険者の仕事はどうなんだ?
まぁイブキの魔法とお姉さんの召喚術があれば
その辺の魔物に遅れはとらないだろうけど」
ラハンは俺たちの能力がある程度運に左右されているのを知らない。
単純に銀-5の魔物を相手取れる召喚術に攻撃魔法を使えると思っている。
なのでまぁなんとか…と肯定しておく。
「ラハンはどうなんだよ。最近なんだか騎士団の出動が多い気がするけど」
町を歩いている時も、慌ただしく駆けていく騎士たちをちょくちょく見かける。
ギルドでも魔物が増えたなぁなんて話題がちらほらと聞こえてくる。
「あぁ、結構忙しいよ。昨日もオークどもの相手をしてきたところ。
ゴブリンよりもタフだから、結構てこずったなぁ」
思った通り、魔物の討伐が忙しいみたいだ。
オークというのは豚の顔の付いた大男といった魔物で、体力がかなりある。
俺が最初にこの世界に来た時に、ゴブリンに何体か混じっていたのがオークだ。
普通はオークとゴブリンが一緒にいるなんて聞かないっていってたから、
なにか普段と違う事が起きているのかもしれない。
話に聞く魔災ってやつかな…?
その後はお互いの近況を話しながら、なんでもない会話を続ける。
最近ジュナさんが別の騎士団の人に告白されたけど断っていただとか、
バイカルさんが奥さんと喧嘩して昼食は一人パンをかじってただとか…
ってバイカルさん結婚してたのか。今初めて聞いたよ。
騎士団にいた頃はよくこんなどうでもいい会話をしていたけど、
なんだか懐かしい気がするな。
「そういやリベルさんってあの酒場にいた綺麗な人だよな?
大人の女ってかんじでいいよなぁ…」
ラハンは本当にチェックに抜かりがないな。
まぁたしかに美人だなぁとは思う。けど姉ちゃんと話をしているのを見ると
なんかお母さんに見えるんだよな…。
リベルさんに言ったらそんな年じゃないって怒られそうだけど。
「ただいまぁ」
あっ、姉ちゃんが帰ってきてしまった。
帰ってくる前にラハンにサヨナラしようと思ってたんだが。
「おかえ…りっ!?」
「どうもお邪魔し!?」
「あら、ラハン君が来てたのね。
いらっしゃい…って二人ともどうしたの?」
「いや…出かけた時とすごく格好が違ってるから…」
「あっ、リベルさんと一緒に買い物した服、
そのまま着て帰ったからね。変じゃない?」
薄緑色のブラウス。なんか紐みたいな装飾がついてて、普段の服とかなり違って見える。
黒いスカートは膝上くらいの短さで、白い刺繍が入っていてなんだか上品というか…
「いや…ぜんぜん変じゃない。ってか姉ちゃんどこかのお嬢様みたいだ」
「……」
ラハンも横で無言で頷いている。
「もぉ、そんなこと言っても何もでないからね。
リベルさんに選んでもらったんだけど、
このレースアップがすごく可愛いんだよね。
日本にいた時はあんまり着た事ないタイプのだから…。
でもお嬢様に見えるってことは、私もまんざらじゃないわね!
ちょっとスカートが短い気がするけど、
ブーツと組み合わせたら変じゃないかな?」
そう言って首をかしげながら自分の足元を見回す姉ちゃんの姿は、
控えめに行っても綺麗と可愛いが入り混じって最高だった。
「っと姉ちゃんそろそろラハンが帰るっていうから」
「えええぇっ!!!?」
ラハンが何言ってんのこいつって顔をする。
「あら、夕食も一緒に食べていけばいいのに」
姉ちゃん、そんなこと言わなくていいから!
その後俺とラハンは不毛な戦いを繰り広げることとなった。




