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冒険者としての依頼をこなしだして今日で三日目。
今日も無事にアガマの討伐を終えてギルドへと帰ってくる。
最初はどうなるか不安だったけど、思っていた以上に順調だと思う。
ギルドに入り、受付に行こうと思った私の目に懐かしい顔が見える。
懐かしいっていっても一週間もたっていないけど…。
「あら、マイさん!」
そう言ってリベルさんは優しく微笑む。
ダンジルさんとマヨリさんとロップさんも一緒だ。
解体作業の仕事は終わったのかな?
今ギルドに帰って来たってかんじだけど。
「おひさしぶりです。今戻られたんですか?」
「ええ。騎士団の人達も手慣れていたから、指示を出すだけで
スムーズに解体ができたわ。マイさんはどうしてここに?」
リベルさんの言葉に、私と伊吹で冒険者を始めた事を告げる。
最初は心配そうな顔をされたけど、一緒に戦ったことがあるし
村の時のような制止はされなかった。
「それってアガマのコアよね?
結構面倒な魔物だけど、魔法が使えるマイちゃんには良い相手かもね」
マヨリさんは私の持っているカバンに詰まった黒い球体に気が付いたみたい。
うん、見ただけでわかるなんて私達とは経験値が違うね。
私も冒険者になり立ての頃は相手してたなぁなんていってたけど…
マヨリさんって何歳なんだろう…見た目よりも上なのかな?
「でも、弟さんと二人だと大変じゃないかしら?
私達も手伝ってあげたいんだけど…ランク的に難しいのよね…」
リベルさんの言うランク的に難しいというのは、
ギルドのランクシステムの事だと思う。
ギルドは依頼をこなすことでポイントが上昇し、
昇格試験を経て昇格という流れ。
ただ自分のランク以上の依頼は受けられないし、
上のランクの人と一緒にこなしてもポイントは入らない。
つまり、リベルさん達の依頼に私達が混じっても駄目ってことだね。
最初の説明の時に言われたけど、
昔貴族の人が高ランクの冒険者に混じってポイントを重ね
実力もないのにAランクまで上がることがあった。
過信した貴族の人はドラゴンに挑んで…お亡くなりになったんだとか…
その責任をあろうことかギルドに擦り付けようとして、結構な問題になったみたい。
その時から、不正にポイントを稼ぐ事が出来なくなったという事だね。
ただしポイントを得られないというだけで、
一緒のパーティになることはできる。
むしろ駆け出しの頃はポイントを無視してでも
ある程度経験を積んだパーティに入って
経験を積むと言うのがセオリーみたい。
実際、私達と同じく講習を受けた二人もそんな形でパーティに入っている。
いわゆる見習い期間というやつだね。
私達の場合、どうしても他の人とパーティを組みにくいので
特殊な形でスタートしているってかんじかな。
それとは逆に私達の依頼を
リベルさん達が一緒に受けることが出来るけど、これは問題外だ。
リベルさん達にも生活があるしね。無理に報酬の安い依頼を受ける必然性がない。
ないんだけど、なんだか顔が私だけでもとか言いそうになってる!?
いやいや…流石にそれはないか。
「もしよかったら私だけでも――」
「誰の声かと思ったらリベルじゃない。
結構遅かったわね。マヌアの森で採取の依頼だったんでしょう?」
突然かけられた声の主は…ヒルリスさんだ。
依頼内容まで知ってるってことは、結構見知った仲なのかもしれない。
「ヒルリスさん、ただ今戻りました。
ちょっと騎士団から臨時の依頼をうけていまして。
依頼は完了したので、騎士団から連絡が入ると思います」
「あら、そうだったのね。そういえばあなたマイさんと知り合いだったの?」
ヒルリスさんは私とリベルさんの顔を交互に見ながら不思議そうな顔をする。
ヒルリスさんは私が迷い人って知ってるし、
どこに接点があったのか不思議なのかもしれない。
「マイさんとはマヌアの村で知り合いました。彼女は迷い人で――」
「ええ、それは知ってるわ。ギルドに登録した時にね。
結構優秀よ。マイさんと弟のイブキ君も」
その言葉にロップさんやマヨリさんと話をしていた
伊吹がキョトンとした顔でこちらを見る。
いきなり自分の名前が出てびっくりしたのかもしれない。
「そうですか。それなら安心ですね」
ん? なんだかヒルリスさんが一瞬リベルさんを悲しそうな眼で見たけど…気のせいかな?
「マイさんとイブキ君。もしよかったら今夜は一緒に食事しないかしら。
今回は臨時収入も入ったし、いつもよりちょっと豪華な打ち上げをするの。
あなた達も一緒にいたほうがきっと楽しいと思うわ」
リベルさんの申し出を私達はありがたく受けることにした。
伊吹も特に異存はないみたい。
というか、ロップさんとマヨリさんともう打ち解けてるみたいだね。
ダンジルさんはここまでほぼ無言だけど…
一緒に参加すると告げるとちょっと顔が柔らかくなった気がする。
ギルドにアガマのコアを渡して依頼を達成させると、
リベルさんに後で落ち合う場所を聞いて、一端別れることにする。
食事の前に湯浴みをしておきたいかな。
止り木亭以外で食事をしたことが無いので、ちょっと楽しみだ。
「リベル…ちょっといいかしら?」
「えっ、私ですか?」
依頼達成の報告をした私をヒルリスさんが呼びとめる。
私はダンジルさん達に先にステアに戻っておいてと告げると、
ヒルリスさんについて行く。
何の話だろう?
「あなたさっきマイさんの手伝いをしようとしてたでしょう?」
「……」
私の言葉を遮ったのは偶然じゃなかったのか。
「あなた…妹さんの姿をマイさんに重ねているんじゃなくて?」
「……そんなことは…ない…と思います…」
自分で言いながら歯切れが悪いのを感じる。
「あなたと会って八年。忘れなさいとは言わないけど、
引っ張られ過ぎるのも問題だわ。もうあなたは新米じゃなくて中堅よ。
それもリーダー。感情に流されないようにしないと」
「……」
ヒルリスさんの言葉に何も言い返せない。
八年前…ヒルリスさんと最初に会ったのは、
私の住んでいた村が魔物の襲撃を受けた時だった。
冒険者になり立ての私は、
村から離れた平原で依頼をこなすため魔物を討伐していた。
夕方まで討伐をこなして帰った私の目に映ったのは、
夕日にではなく炎によって赤く染まる村だった。
魔災…。言葉としては知っていたけど、
自分の住んでいた村にそれが訪れるなんて思いもしなかった。
必死で村に戻った私の目に映ったのは、
膨大な魔物の死骸と同じく多数の村人の亡骸…。
戦いはもう終わっていた。負傷した者の手当てと消火活動をする人達を横目に、
私は自分の家へと急ぎ走った。たった一人の家族である妹の姿はそこにはなかった。
私が妹を見たのは遺体安置所だった。
当時の事はあまりよく覚えていない。
覚えているのは喪失感と…自分への悔しさだけ…。
私が村に居たところで、膨大な魔物に対処できるはずはない。
でも…妹を守るくらいは出来たのではないか…
そんな後悔が全身を覆い尽くしていたのだと思う。
そんな私の姿を見かねて導いてくれたのがヒルリスさんだった。
当時の彼女はギルド職員ではなく、村に救援に来た冒険者の一人だった。
私は村を出てヒルリスさんのパーティに加わり、何かを振り切る様に必死で戦った。
ダンジルさんとはその時から同じパーティメンバーだ。
マイさんを最初に見た時、妹を重ねていたのは事実だ。
髪の色も顔つきも…全然違うのに。
背丈はおなじくらいかな…でもなにより仕草が似ているんだと思う。
マヌアの村の食堂でテキパキと食器を片づけている姿…。
笑う時にちょっと首をかしげて淡く微笑む所作。
「……おそらく…魔災が訪れるわ」
「!?」
ヒルリスさんの言葉に私は現実へと引き戻される。
「この国だけじゃない。他国のギルドでも異常な魔物の発生が報告されています。
前回の魔災からそう年月もたっていない。いまだ復興中の町もあります。
新人だからといっていられない状況なのは、あなたもわかるでしょう?」
ヒルリスさんの言いたいことはわかる。
私がマイさんを過保護に守ろうとしても
彼女の為にならないと言いたいのだろう…。
その通りだけに何も言えない。
「八年前のあなたを見ているから、気持ちはわかるわ。
でも…マイさんのことを思うなら、彼女が成長できるように見守りなさい。
過保護も過ぎると毒になるわ」
そう告げると、ヒルリスさんは立ち去った。
私は…マイさんの為に何をしてあげられるんだろう…。




