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ギルドの講習を受けたのは、私達を含めて四人だった。
講習自体はほぼ座学となり、ひさしぶりに学校のことを思い出す。
ついこの間まで普通に登校して、授業受けて…ってやってたのにね。
なんだかすごく昔のことに思える。
講習の先生はヒルリスさんという女性の方だった。
年齢はリベルさんよりも上なかんじがしたけど、正確なところはわからない。
ピシっとしたスーツのような服を着ていて、本当の先生に見えたけど
普段は剣士兼魔術師として各地の調査をしているんだとか。
うん…出来る大人の女ってかんじがして憧れるね。
講習は二時間ほどで終わり、いよいよ依頼を受けようかというところで
私達は思わぬ事態に陥ってしまった。
「姉ちゃんどうする?」
伊吹が私に聞いてくる。今私達の目の前には
依頼が張り出された掲示板があるんだけど、
思っていたような依頼が無い。
リベルさんが採取の依頼を受けてたし、
私達もそれで行こうと話し合ってたんだけど
近場の採取の依頼が無いんだよね…。
よく考えたらわざわざ採取の依頼を冒険者にするのに、
危険の少ない近場は頼まないのかもしれない。
張り出されている依頼はリベルさんが受けた物のような、
一日じゃ無理そうな所ばかり。
たぶん魔物が多い危険な場所なんだろうな…。
逆に近場の依頼というと…魔物討伐が多いね。
どうしても魔物との戦いになると、命がかかることになるし
戦闘技能を持たない人じゃ厳しいんだと思う。
だから近場の魔物討伐の依頼は結構多く張り出されてるんだよね…。
「うーん…最初の計画と違っちゃうけど…
魔物の討伐を受けるしかなさそうね」
近場の依頼だと他には護衛の依頼だとか、
戦闘技能の指導なんてものがあるけど
こちらはギルドのランクが足りてないので受けることが出来ない。
ランクはSからDまであって、当然私達はDだ。
「じゃあこれはどうかな?」
伊吹は一つの依頼を指さす。どれどれ…
グルゼ岩場地帯にてアガマの討伐、そのコアの回収。
グルゼ岩場地帯というのはこの町の北西にある、採掘が盛んな場所。
アガマというのはその採掘場付近に生息する、スライムのような魔物。
採掘の邪魔をしてくるのでやっかいなんだけど、その特性の為に退治しにくい。
その特性というのは、物理攻撃に対してかなりの抵抗力を持つという事。
並みの攻撃ではダメージが通らないので、
火を使っての討伐が基本的なやり方みたい。
とはいえ、岩場地帯で攻撃に使えるくらいの火を起こすのは大変だし
討伐してもそれほど実入りが無い為に、
あまりやりたがる人がいない依頼…
これらは講習で教えてもらった情報だったりする。
この付近のよくある依頼という項目で紹介されたんだよね。
ただ魔法による攻撃が行えるなら、状況はかわってくる。
このアガマという魔物…動きは鈍いし
攻撃手段も体当たりからの取り込んで捕食といった単純な為、
魔法で倒せるなら楽に討伐できる魔物へと早変わりする。
ただ魔法を使える人はもっと実入りの良い依頼に行くので、
やっぱり人気がない依頼というのはかわらない…
私達にとってはこれ以上ない依頼だと思う。
この依頼は恒常的に出ているものなので、
急いで受ける必要はないかな。
流石に今から出掛けるには時間が遅いので、
明日一番に受けることを決めてギルドを後にした。
ギルドで登録を終えたその夜、
私達はさっそく明日の依頼の打ち合わせをすることにした。
デッキの編集が命にかかわっていると言っても過言ではないからね。
「魔法攻撃は俺が受け持つよ。
だから姉ちゃんはユニットでサポートをお願いしても良いかな?」
「ええ、わかったわ。
私もスペルを数枚は入れる予定だけど、あまり上手く使えないし…」
そんな会話をしながらもデッキを編集していく。
戦士像は効果がなかったから抜くとして…
アンチエレメンタルもちょっと使いどころがないかなぁ。
伊吹と対戦するわけじゃないし…
怠け者のオーガも今回は出番がないかな。
もう少し小回りが利いて節約も出来るカードがほしいね。
あっ、忘れるところだった。
伊吹からこの間手に入れたゴールドカードを交換したんだよね。
その時に入手したのがこちら
神獣エンリ
ゴールド コスト5 エナジー10
アタック 30 ライフ 30
このユニットが場に出た時カードを三枚引く。
引いたカードの内、ユニットカード以外は墓地に置く。
あなたの場にユニットが出るたびに、このユニットはアタック+20、ライフ+20される。
エナジー3:このユニットはターン終了時までガードをされない効果を得る。
ユニットカードを主体にしている私のデッキにはすごく相性が良いカードだね。
逆に伊吹のよく使うスペルカードが多めのデッキだと、使いにくいと思うけど。
ステータスはコストを考えると低いけど、一体ユニットが出ればコスト並み。
二体目以降が出れば、コスト以上の力が出せるユニットとなる。
最初にカードを三枚引く効果だけでも強いんだけどね。流石ゴールドのカードだと思う。
死神の手などの除去カードや、
高ダメージのスペルカードを使われると弱いんだけど…。
ちなみにこのカード、見た目はユニコーンとペガサスを
合体させたような姿をしている。
角と翼が付いてる白馬が炎を纏っているといったかんじ。
流石に神獣とついてるだけあって、神々しいね。
その後も伊吹がどんなスペルを入れたらいいのかとか、
ユニットをどういう状況で呼び出すと良いのかといった話を
二人で話し合った。いよいよ明日から本格的に冒険者としての始まりだ。
このカードの力でどこまでやれるかわからないけど、
伊吹がいれば頑張れる気がするよ。
翌日、私達はギルドで無事依頼を受けて町を旅立つ。
といっても場所は近場だし、夕方には帰ってくる予定だけど。
昼食はギルドで売っていた携帯食を購入。
余裕が出たらお弁当とか作っても良いかもしれない。
食堂で手伝いを経験出来たおかげで、
こっちの世界での料理も少しはわかってきてるし。
町を出た後は一時間ほどかけて目的の岩場地帯へ向かう。
街道は整備されているし、見晴らしも良いので魔物が現れたらすぐにわかる。
なので召喚は控えておいた。岩場地帯でどれだけカードを使うかわからないし…。
いちおう伊吹とどちらかのデッキが10枚をきったら帰るという約束事をしている。
「魔物がでないなぁ…」
伊吹が少し拍子抜けした声をだす。遭わないに越したことはないんだけど、
たぶんカードを使いたいんだろうなぁと思う。
「目的地に着いたらいくらでも使っていいから、今はおとなしくね」
「わかってるって」
そんな会話をしながら何事もなく岩場地帯へ到着。
さて…ここからは結構地形が入り組んでるし、
魔物もどこから襲ってくるかわからない。アガマという魔物を探す必要もあるから、
ユニットに頑張ってもらおう。
――サモン・ノーブルマーコール――
ノーブルマーコール
ブロンズ コスト1 エナジー10
アタック 15 ライフ 15
私の言葉とともに現れる特徴的な角を持つ山羊のような動物。
どことなく気品を漂わせている。能力的にはサーベルウルフと同じだけどね。
この間ゴールドを引いた時に一緒に出たカードのひとつ。
単純にこのカードを入れた理由は、絵が岩場だったから。
現実の存在として現れるから、
生息地とか動きやすさなんかも関係してると思うんだよね。
なのでサーベルウルフを減らして、このカードを入れて見た。
「よろしくね」
マーコールの頭を撫でてみる。しかし…大きな角だ。螺旋状になっていて、
これで突撃されたら痛いじゃすまなさそう。
「思ったよりもでかいんだなぁ…」
伊吹がマーコールを驚いた顔で見ている。カードだとそう感じないけど、
実際に目の前で見ると動物って大きいんだよね。改めてそれを実感する。
ドラゴンとか…どれくらいの迫力なんだろう…。
私達はマーコールを先頭に岩場地帯へと入っていく。
採掘場は道なりに行けばいいんだけど、今回は魔物の討伐だからね。
道から逸れて、どんどん険しい岩場へと進んでいく。
マーコールはそれほど苦にしてる感じはしない。
やっぱりカードに乗ってる能力以外にも、
現実の存在になったことで色々と影響があるのかもしれない。
そう時間がたたないうちに、
マーコールが歩みを止め警戒するように頭を傾ける。
「魔物かも…」
私は伊吹とともにマーコールの注意する方を見つめる。
岩がごろごろと転がっているようにしか見えないけど…
そう思ってると、ゾロリと黒い粘体質の塊が岩の上に現れた。
ゆっくりと這いながらこちらに向かってきている!?
思ったよりも大きい。それがアガマだった。
スライムっていうからもっと小さいと思い込んでいたけど、
私くらいならすっぽりと飲み込めそう…。
あれで物理攻撃が効きにくいんだから、たしかに戦闘の心得がないと厳しいね。
マーコールに突撃を指示しても、逆に取り込まれそう。
「よしっ…俺がやるよ」
伊吹はそう言ってアガマを見据える。
移動速度はゆっくりだけど、確実にこちらに向かってきている。
伊吹は落ち着いた様子でカードを選択する。
仕草だけならもう熟練の冒険者ってかんじだ。
守らなきゃと思ってたけど、逆に守られてる気がするなぁ。
――スペル・ファイアボール――
伊吹の言葉とともに現れる灼熱の火球。
たしか炎属性のオーソドックスな攻撃スペルだ。
特別な効果はないけど、
コスト分のダメージはしっかりと与えてくれるんだよね。
火球は一直線にアガマに向かっていき…
当たった瞬間爆発的に炎を生み出した。
たしか…コスト1のスペルだったと思うけど…。
前に使った時も思ったけど、スペルの威力ってとんでもないよね。
炎が収まると岩に焦げたような跡はいっさいなく、
岩の上には黒い球体が転がっていた。
「すごいね…一撃で倒しちゃうなんて…」
講習だと、結構タフな魔物って聞いた気がするけど…。
「うん…思ってた以上の威力だった…」
スペルを放った伊吹自身がびっくりしたみたい。
「攻撃魔法とか今までも使ってきたけど、
こんな近くで放ったことなかったからなぁ」
どうやら今までは騎士団の人達が前衛を務めてくれていたから、
距離を置いて魔法を放っていたみたい。
近くでその効果を目の当たりにして、改めてカードの力の凄さを知った感じだね。
私は落ちている黒い球体を拾う。これがコアなのかな…
色々な素材に使うって説明を受けたけど…。
これを集めてギルドに渡すことで、討伐の証となり報酬がもらえる。
ひとつからでも報酬はでるけど、
生活していくのも厳しいからもっと稼ぐ必要があるね!
「それじゃあこの調子でどんどん倒していきましょうか」
「わかった。とりあえず不意打ちされなければ何とかなりそうだから、
姉ちゃんお願い」
「まかせておきなさい! まぁ頑張るのはこの子だけどね…」
そう言ってマーコールの頭を撫でる。
マーコールはちょっと嬉しそうな声で鳴いた。
その後も順調にアガマの討伐をこなし、
伊吹のデッキが残り十枚をきるころにはコアが十三個集まっていた。
ギルドの受付にて達成報告を行う。
「結構集められましたね。この時間でこれだけ集められるなんて、
とても昨日登録したばかりとは思えません」
初日に受付を担当したお兄さんが驚いた顔をする。
まぁ相性が良い相手だったのもあるとおもうけどね。
違う魔物だったら、こんなに上手くはいかなかったかもしれない。
思った以上にアガマ討伐依頼は稼ぐことが出来た。
ずっとこの依頼を続けてもいいんじゃないかな。
伊吹はもっといろんな場所に行きたいっていいそうだけど。
「でも気を付けてくださいね。
最近どうも魔物の動きが活発になってきているので。
上の方は魔災が近いんじゃないかって話ですけどね」
おにいさんはそう忠告してくれる。というか魔災ってなんだろう?
「あっ、迷い人の方だと分からないですよね。魔災というのは……」
魔災の説明を聞くと、どうも魔物が急激に活発に凶暴になる時期があるみたい。
その結果町や村が魔物に襲われることが増える…つまり魔物による災厄のこと。
天災が自然の災害、人災が人による災害、魔物による災害だから魔災かぁ。
これは数十年から短い場合は数年の間隔で発生していて、
その規模や期間もマチマチなんだとか。
ちなみに前回発生したのが八年前になる。
前の時からそんなに間隔が長くないね。
「なので魔災かどうかはわからないですけど、
ギルドに魔物の行動が活発になっているといった報告が
多数よせられているので…おそらくは…というところでしょうか」
実際にいつから始まっていつまでに終わるという明確な線引きは難しいんだそう。
そりゃ天災みたいなものだったら、いつ来るかなんて予想くらいしかできないよね。
「わかりました! 討伐を行う時は普段以上に気を付けることにします」
…ゲームとかだったら魔王が現れたりとかそんなかんじだね。
そんな存在がいるのかどうかわからないけど…。
私達は報酬を受け取ると、ギルドをあとにした。
心の中に一抹の不安を感じながら…。




