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んー…んんっ…下が騒がしい…って昨日もこんな……!?
「すっかり寝ちゃってた!」
私はベッドから慌てて飛び起きる。
ちょっとだけ横になろうと思ったんだけど、
いつのまにか熟睡してたみたいだ。
下が騒がしいってことは騎士団の人達が戻って来たのかもしれない。
私は慌てて身だしなみを整えると、階下に下りていった。
うわぁ…すごい人だ。これみんな騎士団の人なんだよね。
とりあえず厨房で女将さんを探さないと。
フロアの方には村の人達も見える。みんな手伝いに来てくれてるんだね。
「女将さん、私も手伝います」
「おや、マイはもっと休んでても良いんだよ。こっちは何とかなるんだから」
そうは言うけど、人数が人数だけに厨房の中は大混雑だ。
見ると作ったものの配膳まで手が回ってないものもちらほらある。
「睡眠とりましたから大丈夫です!
とりあえずこのあたりの料理を運びますね」
「ああすまないね。それじゃあお願いするよ」
とりあえず両手で持てるだけのお皿を持って、テーブルへと運んでいく。
何人か女性の姿もあるけど、大部分は男の人だ。食べる量もかなり多いんじゃないかな。
「おまたせしました、どうぞ!」
私はテーブルの上が少なくなっている場所に料理を運んでいく。
とくに注文などはないらしく、
とにかく騎士さん達のお腹を満たすことを優先ってかんじだね。
テーブルに置いた端から感謝の言葉と同時に手が伸びてくる。
うん、気持ちが良いくらいに減るのが早い!
私は急いで厨房内に戻ると、また料理の載った皿を手にとる。
女将さん達や村の人達は忙しそうだけど、楽しそう。
土地喰らいの脅威が去ったから、みんな活気に満ちている。
そんな姿を見て、私はこの村が守れてよかったという気持ちが湧いてくる。
心が温かくなるってこんなかんじなんだね。
――三津 伊吹――
「うめぇなこれ!」
横に座っているラハンがもごもごと口いっぱいに頬張りながら話しかけてくる。
「おいおい、飛んでるって。喋るか食べるかどっちかにしろよ!」
かくいう俺もさっきから手が止まらない。
空腹は最高の調味料とはいうけど、本当のことだった。
いやもちろん元々の料理も美味しいんだろうけど。
「でもあんまり働いてないのに申し訳ねぇなぁ」
ラハンはあまり役に立てなかったのを気にしているようだ。
その言葉を聞いたバイカルさんがラハンを諭す。
「ラハン、お前も敵の注意をひきつけると言う役を果たしたんだ。
働いてないなんてことはないぞ。
それに悔むという気持ちがあるなら、それを糧に努力すればいい。
剣筋は悪くないんだ。怠けなければいずれは俺以上の腕になるさ」
そう言ってラハンを激励する。
その言葉を聞いて、ラハンにも元気が戻ったみたいだ。
バイカルさんの事を尊敬してるっぽいからなぁ。この言葉はかなり響くだろう。
「イブキもよくやってくれた。騎士団の者でもないのに、
このような討伐にまで手を貸してくれるとは有り難い。
冒険者たちには恩賞がだされるらしい。
イブキにも相応の謝礼を出してもらうように、中隊長に頼んでみよう」
謝礼なんていうのはもともと期待してなかったけど、貰えるのなら有難い。
姉ちゃんを探すのにどれくらいかかるかわからないからな。
いつまでも騎士団の下でやっかいになるわけにはいかない。
生活に困らないぐらいの金銭は持っておく必要がある。
「おっ、美人発見! あの子こっちにも料理運んでくれないかなぁ」
元気を取り戻したラハンが、さっそくいつもの調子にもどったようだ。
町に一緒に買い物に出た時も可愛い子を見つけてはついていこうとするんだよなぁ。
「でも珍しいな。イブキとおんなじ黒い髪だなんて。
ひょっとしてあの子がイブキの探してる姉ちゃんだったりして。
なぁんて――」
ラハンの言葉の途中で俺は勢いよく席を立つ。
ラハンの視線の先……忙しそうに動くその女の子の顔。
よく見るまでもない。目に入った瞬間に、
俺は心の中の何か凝り固まったものがストンと落ちるのを感じた。
俺ははやる気持ちを抑えながら、テーブルの間を縫うようにして近づいていく。
すぐ近くまで来ると、人影に気が付いたのかこちらに視線を向ける。
姉ちゃんは一瞬止まり、何が何だか理解できない顔をした。
あぁ、姉ちゃんは俺がこっちに来たの知らないんだ。寝てたもんな。
「え…伊吹?」
「迎えに来たぜ、姉ちゃん」
俺は言いたいことが山ほどあったけど、ただ一言それしか言えなかった。
「……っ……っぅ…」
俺は姉ちゃんを泣かせたりしないって誓った。
けど…その誓いをやぶってしまったようだ。
泣きながら、必死で笑顔になろうとする姉ちゃんを俺は思いっきり抱き締めた。
黒いモヤの中で届かなかった手を、俺はようやく届かせることが出来た。
もう絶対に、離さない。今度こそ俺は心に誓った。




