15
騎士団の一行は村で土地喰らいの出現した場所を聞くと、
急いで輸送獣を走らせた。どうやら足止めが成功し、
今は地中で休んでいるという。
到着した騎士達を迎える冒険者四人。騎士達を束ねる中隊長ウォーグは
土地喰らいを四人で足止めしたという事実に驚く。
「王国騎士ウォーグだ。今回の指揮官を任されている。
魔物の足止め感謝する」
ウォーグはリーダーとおもわしき女性に声をかける。疲労はあるものの、
特に大怪我をした様子もない。女性は柔らかな笑みを浮かべて挨拶を返す。
「グレムの町のギルド所属リベルです。援軍感謝いたします」
「しかし驚いたな。この少人数でしかも目立った怪我人も
なく足止めに成功するとは。ひょっとしてランクはAなのかね?」
冒険者ギルドに所属する者は強さや功績によってランクがわけられている。
ランクは最高ランクのS。そこからA、B、C、Dと分かれている。
Bランクは中堅クラス、Aランクはギルドでも上位に位置する希少な存在といわれている。
ウォーグはこの女性の所属するパーティが最低でもAだろうと推察する。
「いえ、私達はBです。Bでも真ん中くらいだと思います」
リベルは若干申し訳なさそうに答える。
「なんと…いやそれで土地喰らいを押さえこむとは…」
その言葉にリベルはもう一人助太刀してくれた者がいること。
その者は先に村の方に戻ったことを伝えた。
その者がいなければ足止めは成功しなかっただろうとも。
「そうか。いや、それでも五人で足止めを成功させるのは至難の業だ。
君達の行動によって王国の民の命を守ることが出来た。
土地喰らいを討伐した後にでも、恩賞を出したいと思う。
疲れているだろう、先に村に戻って休息してくれ」
ウォーグはそう言うと輸送獣へと四人を案内する。
リベルは助太刀を申し出ようとしたが、
仲間達の疲労が思いの外たまっているのをみてその申し出に応じることにした。
(あら…珍しい髪の色ね。マイさんと同じ黒い髪だなんて)
リベルは騎士団の一行とすれ違う時に黒い髪の少年が混ざっているのを見る。
それも一瞬のことで、
マヨリが輸送獣におっかなびっくり乗っているロップを
からかっているのをため息と苦笑とともに追いかけた。
「うわー、これすっごく美味しい!」
私の目の前には大量の料理。そしてそれを食べるリベルさん達がいた。
最初の言葉はマヨリさんのもの。
真っ先にアルルバードのカリカリ揚げにかぶりついている。
「たくさん用意してますから、たくさん召し上がってくださいね!」
村に帰って土地喰らいを一時的に退けた事を伝えると、村は安堵に包まれた。
もちろんまだ絶対に安心とはいえなかったけど、
ホイフクローさんもおそらく大丈夫だろうと言ったので
村の人達も心に余裕が生まれたみたい。
私は女将さんにみんなの為の料理を準備したいと伝えると、快く協力してくれた。
そのままみんなの為の料理を作ってたんだけど…
なんだかやけに外が騒がしいので女将さんに尋ねると
援軍の騎士団が到着したんだと教えられた。
そこからは村をあげて食事の準備をはじめることになった。
もちろんまだ討伐をしたわけじゃないので、諸手をあげて安心できはしないけど
しばらくして戻って来たリベルさん達からも大丈夫と伝えられたからね。
今は先に用意していた食事をリベルさん達に振る舞っているところ。
こんなに美味しそうに食べてもらえると、作りがいがあるよね。
とはいえ、騎士団の人達は全部で六十人近くいるみたいだから
そっちの用意も急いでかからないとね。
「あぁ、マイもリベル達と食事をとりな。
あんた帰って来てから休む暇もなく準備してただろ。
夜通し頑張ったのはあんたも一緒なんだから、後のことは私達にまかせておきな」
女将さんはそう言って私をテーブルに座らせる。
有無を言わさない雰囲気の女将さんを前に、
私はありがたく好意を受け取ることにした。
うん…凄く美味しい。
「そういえば、リベルさん怪我は大丈夫です? 血が出てましたけど」
私はリベルさんに尋ねる。
見たところあまり問題はなさそうだけど…たしか血とかでてたよね?
「ふふっ、もう大丈夫です。私の戦技ですけど、
自己治癒力を高める力を使えますから」
あっ、リベルさんも戦技を使えるんだ。
というか戦技って色んな種類があるみたいだね。
てっきりダンジルさんみたいに攻撃の為だけかと思ってたけど。
そう聞くと、リベルさんも攻撃の為の戦技を使う事は出来るんだとか。
ダンジルさんの戦技よりは威力が高められないけどねと、
苦笑しつつ教えてくれた。
「あっ、そうだ。マイさんのことも騎士団の人に伝えておきましたから、
あとで一緒に恩賞をうけとりましょう」
「えっ、私も貰っていいんですか?」
この力はいつのまにか使えるようになってたものだし、
ほとんど自分では戦っていないので
なんだか申し訳ない気がするんだけど…
「何言ってるのよ。マイちゃんがいなかったら
時間稼ぎができたかどうかわからないんだから、
胸を張って受け取ったらいいのよ!」
私の言葉にマヨリさんが勢いよく反応する。
うん…お金はこの先必要になるだろうし貰えるなら貰っておいた方が良いのかな。
これから元の世界を探すまではこの世界で暮らすしかないんだし…
「わかりました。それじゃあ頂くことにします」
その後はリベルさん達と色々な話をしながら食事を続けた。
その結果リベルさんは思ってた通りの優しいお姉さんだったし、
マヨリさんとロップさんはなんだかんだで良いコンビだった。
ダンジルさんは外見は結構怖そうなんだけど、
思ってたよりも気さくで話しやすい人だった。
冒険者かぁ…大変なことも多いだろうけど、
こんな風に年齢も性別も種族もバラバラでも
一つの目的に向かって集まって行動できるって良い関係だなぁとしみじみと思った。
それにしても…疲労もあったし食事でお腹も満たされたし…
眠気が来るのはどうしようもないよね。
よく考えたら夜中に起きてからそのままだし、眠くなるのは当然かもしれない。
私はリベルさん達に断って、一足先に二階の自室に戻ることにした。
いまならぐっすりと眠れそう…。
少しだけ休もうとベッドに横たわると、すぐに眠りが降りてきた。
――三津 伊吹――
地響きとともに魔物は力なく地面に倒れる。
ようやく…止めをさせたみたいだ。
銀-5の魔物はとんでもなく強いと聞いていたけど、
まさかこんなにでかいとは思わなかった。
いままであった中ではオーガが一番大きい魔物だったが、
それでも三メートルはないくらいだ。
「ふぅ、なんとか倒せたな。俺ほとんど役に立ててねぇよ」
ラハンが疲労した顔でそう口にする。
アレを相手にして出来ることは限られている。
まだ騎士としての経験が浅いラハンには荷が重い相手なのは仕方ないだろう。
「いや、俺も魔法だから攻撃できたけど剣で戦えなんて言われたら無理だよ。
ラハンはすげぇよ」
遠くに離れていても巨体に圧倒されるくらいだ。
近くで剣を振るうなんてよほどの熟練者でもなければ…。
幸い死者はでなかったものの骨折などの重傷者が若干名、軽傷者は多数。
特に地上に現れた魔物を、再び潜るのを妨害する部隊は重傷者が多い。
治癒班によって治療をうけているので、
一日あれば動くのに支障はないくらいにはなるみたいだけど。
あの魔物の動きを身体を張って食い止めた妨害班は、今回の戦いの殊勲賞だと思う。
「ラハンもイブキもお疲れ様。二人とも無事で何よりだわ」
魔法を使い続けたせいか、疲労した顔のジュナさんが合流する。
ジュナさんの精霊術という力は、
俺の魔法と違って自然の力を借りて使う能力なんだとか。
そのぶん普通の魔法なんかよりは本人の負担が少ないって聞いてたけど…
かなり連発して詠唱してたからなぁ。
俺はそう思いながら横たわる魔物を見る。よく倒せたものだと思う…。
そういえば…あれだけ強い魔物なら、素材も良いものが採れるんじゃないか?
魔物によって様々な素材を入手できる。
それが装備や日常生活で有用なものだと商人達に取引されると聞いている。
「あの魔物の素材とかはいいんですか?」
俺はジュナさんにその事を尋ねる。
強大な魔物ほど入手できる素材は希少なものになる。
銀-5にもなると、かなり価値が高いと思うけど…
「後のことは冒険者ギルドに依頼するんじゃないかしら。
ある程度の魔物なら私達でも対応できるけど
あれほどのものになると専門家に任せた方が良いみたいなの。
下手に素材を傷つけることもないしね」
そんな話をしているとバイカルさんが戻ってくる。
他の隊長達との話し合いが終わったようだ。
「二部隊を交代で土地喰らいの死骸の見張り、
及び周辺の警戒にあたることになった。残りの部隊は町へ帰還だ」
「私達はどちらなんでしょう?」
「我々は帰還のほうだ。だが村のほうで食事と休息をとれる準備を
してくれているとのことだから、まずは他の部隊と一緒に村まで帰還だな」
その言葉を聞いてラハンが喜びの声をあげる。
正直なところ、俺も同じ気持ちだ。
まだ日が昇る前に起きて、今は昼過ぎというところだろう。
遠出をしての討伐というのが初めてだったせいもあるだろうけど、
かなり疲労しているのがわかる。お腹も減ってるしな。
村の方には討伐をした時点で伝令を走らせている。
早く安心させたいというのもあったんだろう。
食事の準備の話はその時に聞いたようだ。
俺たちは再び輸送獣に乗り込んで村へと戻り始めた。




