13
――スペル・サンダージャベリン――
私の言葉とともに、稲妻の槍が土地喰らいを貫く。
咆哮を上げて痛みにもがく土地喰らいに、
狙いすましたダンジルさんの剣が振りぬかれる。
その刃は周囲を照らすように白く輝いていて、
普通の斬撃ではありえないほどに土地喰らいを装甲の上から斬り裂く。
それらの攻撃がかなり効いたのか、
土地喰らいは勢いよく地中へと潜っていく。
倒した…わけじゃないんだろうけどとりあえず追い払えたのかな?
「ふむ…どうやら身体の傷を癒すために地中に潜ったようじゃな」
その言葉とともに地上に降りるホイフクローさん。
ふぅ、やっぱり地面に足がついてると安心するなぁ。
「ひとまずは時間を稼げたようです。マイさん協力ありがとうございます。
まさか攻撃魔法を使えるとは思いませんでした」
「凄いですよマイさん! 僕の魔法よりもよっぽど効果がありましたよ!
あれって何て言う魔法なんですか!? 雷を操っていたようですけど!」
リベルさんとロップさんが駆け寄ってくる。
ロップさん、ちょっと近いです。
「はいはーい、ロップそこまで。マイちゃん怯えてるじゃない」
マヨリさんの言葉で、赤くなって後ずさるロップさん。
結構周りが見えなくなる性格かもしれない。
「えっと…このまま朝まで潜っててくれるとか…ないんでしょうか?」
私の言葉に首を振るリベルさん。まぁそんな上手くはいかないか。
「前回の時よりはダメージを与えたと思いますが、
少なくともあと一度は現れると思います」
うーん…あと一度は撃退する必要があるのかぁ…。
しかもリベルさんが言うには前回よりも現れるのが早いだろうと。
前回、今回と土地喰らいは獲物を得ることなく再生の為に地中へと潜っていった。
なんとかして獲物を得るために、
次は早めに…そして激しく攻撃してくるかもしれない、と。
私のデッキの中には、怠け者のオーガよりも高いステータスのカードはない。
攻撃魔法はあと何枚かあるけど、サンダージャベリンと同程度のものくらいしかない。
もともとゲームでも相手の大型ユニットは
こちらの低コストユニットでガードしつつ数で攻めていくタイプだった。
大型のユニット…しかも倒す必要があるような相手には不利なんだよね。
「そういえばダンジルさんの攻撃すごかったですね。剣が光ってましたけど
何か特殊な力なんですか?」
私は先ほど見た光景を思い出して聞いてみる。
あの攻撃はオーガやサンダージャベリンより効いていたような気がする。
「あれは戦技だが…あぁ、マイ殿は迷い人だったか。
そうだな…何と説明すればいいか…
自身の気力を高めて放つ、強力な攻撃…と考えてもらうといい」
戦技かぁ。魔法とは違うんだね。流石は異世界。
「ただそう何度も使えるものではなくてな…。あと一度いけるかというところだ」
「まぁそのぶん格上の相手にも
十分にダメージを与えられるほど強力なものですけどね」
ダンジルさんの言葉にリベルさんが捕捉する。
前回追い払えたのもダンジルさんの一撃があったかららしい。
ただその後の隙を突かれて重傷となってしまったとも。
「マイちゃんあのオーガはまた呼べないの?
あのオーガがいれば魔物の注意もそっちにむくし、
今回みたいに側面から攻撃すればいけそうじゃない?」
マヨリさんが期待に満ちた目でそう尋ねてくる。
うーん…あと一枚デッキには残っているけど…
ただその一枚を上手く引けるかどうか…あと思ってた以上に時間制限が厳しい。
攻撃させなければ時間は持たせられるけど、
それだと立ってるだけで意味ないし。
その辺りをぼかしながら、安定して召喚出来ないと伝える。
「そっかぁ。でもサポートは十分すぎるくらいしてくれてるから、
私達もがんばらないとね」
そう言ってにっこり笑うマヨリさん。
何か良い方法があると良いんだけど…
うーん………ん? そういえば…
私は自分のカードストックを確認する。
そこにはデッキに入っていない数枚のカード。
その中の一枚のテキストを改めて見る。
春風のハーピー…これを使えば時間を稼げるんじゃないかな?
デッキのタイプ的に使えないと思ってたけど、
あの土地喰らいを抑えるためだけを考えれば十分使える。
風魔法も数枚ある。サンダージャベリンよりも少しダメージが低いけど、
ハーピーがいるならハーピーのエナジーを回復できるおまけ効果がついてくる。
私は急いでシャッフルを行うと、デッキの再編集にとりかかった。
「リーダー!」
マヨリさんの声が響き渡る。その声にうなずくリベルさん。
潜ってから随分と早い。まだ一時間くらいしかたってないはず。
夜明けが近いから土地喰らいも焦っているのかもしれない。
「準備は良いかの?」
「はい!」
ホイフクローさんの声に私が答える。デッキは組み直した。
手札とマナもこの一時間の間に調整した。
今のマナは8。マナは最大で15まで溜めておけるけど、
手札をマナに変えすぎると後々困りそうだったので
丁度いい手札がそろったところで止めてある。
手札には春風のハーピーと怠け者のオーガ。
そしてスペルのウィンドショットがある。
スペル・ウィンドショット
ブロンズ コスト1 スペル属性・風
敵マスターか敵ユニット一体に5ダメージを与える。
これを三回繰り返す。
サンダージャベリンと違い対象を選んで三回攻撃できる。
そのかわりに総合ダメージは劣ってしまう。
ゲームだとスペルは相手マスターに対して使う事が多かったので、
サンダージャベリンを使う事が多かった。
こちらは最後のひと押しが足りない時に使うくらいで、
マナに変えることも多々あったんだけど…
どんなカードにも使い道があるって伊吹が言ってたけど、
ほんとに何が役に立つかわからないね。
まぁそう言いながら、伊吹はバニラを使わないんだけど…。
私は怠け者のオーガを呼び出すとともに空高く舞い上がった。
「ダンジルさんは隙を見て剣閃をお願いします。無理はしないで!」
私の言葉にダンジルさんは頷く。数少ない有効打を与えられる攻撃。
ダンジルさんを信じて二手に分かれて土地喰らいの死角へ回る。
「ロップはエンチャントを切らさないように!」
「了解です!」
今回はロップには攻撃魔法ではなく
強化魔法を集中してかけてもらう事にする。攻撃、防御が多少なりとも上がれば
有利に進められる。マイさんの魔法攻撃があればこその方策。
「マヨリは魔弾で牽制して!」
「まかせてっ!」
かわりにマヨリに遠距離からの牽制を指示する。
ダメージは期待できなくとも、注意をそらすことが出来れば
私とダンジルさん…そしてオーガが動きやすくなる。
私は呼び出されたオーガが土地喰らいに向かっていくのを見ながら、
まわりこむように土地喰らいに接敵する。
マヨリじゃないけれど、マイさんの力は
サポート以上の力を与えてくれている。
実際、あのオーガや魔法による援護がなければ
先ほどの戦いも無傷で終わることはなかっただろう。
悔しいけれど、ホイさんの言うとおり
彼女の力は足手まといどころか私達を助けてくれるほどだった。
悔しい気持ちは自分自身の不甲斐なさ。
食堂で見た時からどうにも守ってあげたくなる…
そんな雰囲気にさせる子だった。
ホイさんが妙な事を言い出した時、
思わず抱き寄せてしまったのは変に思われなかっただろうか…
自分でもどうしてあんな態度をとったのかわからなかったけど…
っと今はそんな場合じゃない。
私は気持ちを切り替えて目の前の戦闘に集中することにした。
まだ戦闘が始まったばかりだ。雑念は捨てないと。
オーガと土地喰らいが再びぶつかり合う。
あの特異種と思われるオーガ。私から見たら
土地喰らいと同ランクに位置していてもおかしくない強さを持っている。
普通のオーガが銅-4なのでいくら特異種といえど、
文字通り桁違いの強さを持っていることになる。
時間制限があるといっていたけど、
それでも銀-5相当の魔物を従えるなんて驚異的な力だ。
本来なら騎士団や複数のパーティで迎え撃つ
土地喰らいを抑えられるのも、あの規格外のオーガの力あってだろう。
私は土地喰らいの死角にまわり込むと、
装甲の隙を狙って剣を突く。その剣に光を輝かせながら。
ダンジルさんほどの一撃はないけれど、
代わりに私の戦技は持続力がある。
鋭さを増した剣は、エンチャントの効果もうけて
土地喰らいの装甲を貫いて肉を穿つ。
ダメージは通ったものの、それほど効いているようには見えない。
それでもダメージを蓄積させるために、
時折来る攻撃を避けながら剣を突き立て続ける。
不意に透き通った音が耳に入ってくる。これは…歌?
上空を見ると一体のハーピーが空を飛んでいる。
一瞬新たな敵かと思うも、マイさんを守る様に空に浮かんでいる姿から
新たに召喚した魔物なのだろう。
たけど、ハーピーがこんなに美しい歌を歌うなんて聞いたことがない。
できるだけオーガを長く召喚しますといっていたけど、
その為のハーピーなのかもしれない。
私とダンジルさんは、オーガとともに攻撃を行い続けた。
どれだけ時間が過ぎただろう。
いつしかハーピーは歌とともに姿を消している。
もう十分すぎるほどダメージは与えたはずなのに、
いまだに土地喰らいは地上で暴れている。
マヨリの牽制でなんとか窮地を逃れているものの、
疲労が重なり動きが鈍くなってきた。
ダンジルさんは一撃を叩きこんで貰う為に、
攻撃は控えめにしてもらっている。
歌がやんだということは、そろそろオーガが消えるかもしれない。
私の中で焦りが生まれる。
しばらくして、とうとうオーガがその姿を消してしまう。
一番うっとおしい存在がいなくなったことで、
土地喰らいは周囲にまとわりつく私達に狙いを付ける。
「お前の相手は私よ!」
私は渾身の力を込めて剣を突き立て、叫ぶ。
ダンジルさんが一撃を与える為の隙を作る。
そのためには私が土地喰らいの注意を引き続ける必要がある。
ダンジルさんと目が合うと私の意図を理解したのか、
攻撃の手を緩めて距離をとる。
土地喰らいはダンジルさんを警戒しつつ私を標的に定めたようだ。
激しい体当たり。それを咄嗟にかわしつつ、
私はダンジルさんと対称になるように移動する。
でも…これはきついかな…。
体当たりとともに周囲の土が降り注ぐのもやっかいだ。
「くっ!?」
疲労と足場の悪さが重なり、おもわず態勢を崩してしまう。
まだ土地喰らいはダンジルさんを警戒している。
もっと注意をひきつけないといけないのに!
私が土に足を取られ、土地喰らいが体当たりをしようと身を逸らせたその時
私の耳に透き通る声が響いた。
――サモン・怠け者のオーガ!――
次の瞬間、現れる見慣れた…そして心強い巨体。
(いやいや、マイさん…働き者だよそのオーガ)
私は内心でそう突っ込みを入れながら、ダンジルさんに合図する。
「はぁっっ!!!」
私の声を聞くまでもなく、
再び現れたオーガに戸惑う土地喰らいに向かって鋭い斬撃が振り払われた。




