テスト本番
ミヅキ視点に戻ります
「うう・・・、目がチカチカする・・・」
光が出ていたのは本当に一瞬だったが、それでも間近で見れば私の目を潰すのは十分だった。リアルに某大佐の有名なセリフを言いたくなったが、佐藤さん以外通じそうにないので自重したけど。
まばたきを数回繰り返し、自分の目をいつもの調子に戻している間にコンラッドさん達はテストの確認をしていた。
先程まで無色透明で、普通の水晶玉だったのに今は赤、青、黄の三色のもやが現れている。最初は三色のもやは不定形に水晶玉の中を動き回っていたが、時間が経つにつれ徐々に明確になっていき、最終的には赤:青:黄=4:3:3:の大きさの順で固まった。
「なるほど、お前さんがこの先一番多く発現する可能性があるのは、どうやら戦闘スキルらしい」
「赤いもやが一番大きいからですか?」
「ああ。ちなみに青いの職人スキル、黄色が商人スキルだ」
「じゃあ、冒険者ギルドへの登録は・・・」
「まあ待て、次からが本番だからな。その前に・・・ジンパチ、次、お前さんの番だぞ」
まだあるのか。そんなことを考えていると、指名された佐藤さんはオス!、と一言挨拶してから私がしたように新しく出された水晶玉に手を伸ばしていた。
その光景を見ながら、少し暇になってしまった私は、考え事に没頭する。考えることはこの世界の世界観についてだ。
この世界がもう異世界で、今までの世界とは全く違うことについては疑うつもりはない。もちろんいきなりそこの扉からプラカードを持って「どっきりでした~」と出てこられてもいっこうに構わないが。
だって冒険者ですよ。そして戦闘スキルですよ。そしてこのファンタジーな雰囲気ですよ。
出るでしょ、モンスターが。いや、人間と戦うのも嫌ですけど。モンスターだよ。
そして私は、インドア派の文系だよ。この前見た成績表、体育の成績2だったよ。戦えるの、本当に?
いや、もしかしたら戦闘でも後衛職に就けるかもしれないし。魔法使いとか僧侶とか弓とか召喚士とかあと・・・。
そんな感じに現実逃避をしていると、佐藤さんの結果がでたようだ。やはり佐藤さんも戦闘スキルが多いらしい・・・というか、佐藤さん赤色の割合が八割ほどなんですけど。大丈夫なのかこの人、私の二倍戦闘色なんだけど。しかも、職人色が残りの二割近くで、商人色は小さすぎて見えず、ほとんど二色の水晶玉だ。
「よーし、これで全員終わったな。それじゃ、本番の”スキルの発現”をやるぞ」
気にした様子もないコンラッドさんはそのまま次にすることの説明に入った。
「今お前らがやったことは、”将来的にそういうスキルが発現しやすい”ってことを調べただけにすぎない。実際のお前さん達はまだスキルを持ってないってことだ。そしてギルドには”スキルを持ってないと入れない”、と説明したはずだ」
じゃあ、どうしろと?
「じゃあ、どうするのかって言ったら、今からスキルを発現してもらう必要がある」
そんな簡単に・・・
「そんな簡単に言うなと思うかもしれないが、今ならそう難しいことじゃあない。」
どういうこと?あとさっきか心が読まれている気がする。
「さっき水晶玉から強い光が出ただろ。あれはお前さん達の適正を調べるだけでなく、スキルを発現しやすくする効果がある。その状態で”スキルが手に入りやすい行動”をすれば、可能性はグッと上がるってことだ」
コンラッドさん曰くスキルの発現には適正だけでなくどれだけそのスキル関することをやってきたか、というのが関係しているという。
「”熟練度”って言うらしいだがな。剣士に憧れて棒切れ振り回していたガキが剣のスキルを発現させるのは結構ザラにある話だ」
そう聞くとこの水晶玉、結構チートだな。何年も訓練を積んだ人を横目にあっという間にスキルを手にできるんだから。
「その代わり、どんなスキルが手に入るかは、正直わからん。今までのお前さんの人生に関わりのあるスキルだとは思うんだが、それが戦闘スキルにどの程度影響を与えるか、なんだが・・・」
そう言いながらコンラッドさんは私の体を心配そうに見てきた。見れば分かりますよね。運動得意じゃないって。
「・・・まあ、戦闘職といっても前衛もいれば後衛もいるし、サポートだって必要は必要だしな、うん」
「そうですね、私もできるなら後ろの方が安全だと思いますし、むしろ後衛とかサポートとかの方が良いかなあって。・・・今さらですけど職人や商人のギルドの方に向かうって、ありなんですかねぇ」
「・・・一応紹介はするが、職人は誰かの弟子にでもならないと客は来ないし、商人は確かな才能と人脈がないと食っていけないらしいぞ。どっちも確かな伝手がないと無理だそうだ。今すぐ金が欲しいのなら、やはり冒険者だな」
コンラッドさんが私に無情な現実を教えてくれた。結局世の中コネと金か。
そんなことを考えている私の前にエリザさんが台車を使いながら色々な武器を持ってきてくれた。
「スキルを発現させるには実際にやってみる以外方法はない。だからお前さんには今から色々な武器をもって適当で良いから振り回してもらう。今の状態ならそれだけで発現することができるぞ」
「スキルが発現したってどうしたらわかるんですか?」
「自分のことなら頭の中にスキルが発現したと言う声が聞こえるし、ステータス確認って唱えると自分のことならいくらでもわかるぞ。あと、基本他人のスキルは確認できないが商人スキルの『鑑定』を高めると見ることができるらしい。それと今なら、この水晶玉の効果で俺たちでも確認できるな」
その水晶玉便利すぎません?コンラッドさんは「こっちは時間限定だけどな」て言ってるけど、それ開発した人すごいな。
「それじゃ、時間がもったいないからとりあえず気になった順で良いから試してみてくれ」
その言葉を合図に私と佐藤さんは各々で武器を試してみた。
まず私が選んだの杖だ。ファンタジーと言えば魔法は定番だし、何より距離も遠くからでも問題なさそうな感じがする。手に取った杖をとりあえず振り回してみたりなんか力を込めてみたり。杖は木製で予想よりもずっと軽かった。しかし私の頭の中にはなにも反応はなかった。
その後、弓、銃などの遠距離攻撃はすべて試したがうんともすんとも言わず、私は途方にくれた。
これってもう、近接戦用の武器しかないじゃないか。
そんな私に気づいたのかコンラッドさんが「片手用の武器なら盾とか持てるんじゃないのか」と助言してくれた。 そうだよ!近づかなきゃいけないなら盾とか鎧とかで身を守れば良いじゃないか!
そう思った私は早速試していった。とりあえず片手剣から始まり、手斧や小さいハンマー、ナイフや鞭、棍棒など片手でできそうなものは色々振り回した。そして・・・
「・・・マジかよぉ」
すべて駄目だっだ。信じらんねぇ・・・。正直ナイフは少し自信があったんだぞ。普段料理するときに包丁を使うからさぁ。この世界じゃ包丁はナイフに分類されないのかよ。
横を見ると佐藤さんも同じらしく、途方にくれた雰囲気が漂っている。よくよく考えると空手と柔道って武器関係ないしなぁ。
結局、盾も持てない近づかなきゃいけない両手用しか残らなかった。
「・・・そのぉ、あれだ。別に両手持ちも悪くないぞ。それなりにリーチもあるし、威力に関しては確かなものだし、それに武器の花形って言ったらやっぱり両手で持つのが一番だと俺は・・・」
コンラッドさんが必死にこちらを励まそうとしているが、疲れた心にはなにも響かなかった。しかし、気落ちしててもしょうがない。今日中に何かしらスキルを持たないと、コネもなにもないこの世界で途方に暮れるしかない。私は内心嫌々ながら試していく。
まずは大剣の木刀を手にする。やはり反応はない。その後、槍、大型の斧やハンマー、さらには鎖鎌などと試したが全てダメだった。そして・・・
(あと、二つしかない・・・)
私はそのうちの一つ・・・革製のグローブを手にはめる。どうやら布製なうえ、下の方にあったので最後まで残ったらしい。
私はグローブをはめた手で軽くジャブの物真似をする。・・・やはりなにも反応しない。
私はグローブを外し、もう一つの方・・・ちょうど佐藤さんがためし終えたそれを手に持つ。
・・・正直”それ”を後回しにしたのは出るはずがないと思ったからだ。現実で使ったことがないのは他と同じだが、それはさらに実物が存在することすら聞いたことがない、この中でも浮き気味な存在だったからだ。
私は最後になったそれを手に持ち、振り回してみる。”それ”をある程度振り回し終えると頭の中にピコーンと少し間抜けな音が鳴った。そして・・・
「「・・・出ました」」
▼戦闘スキル『大鎌使い E』を習得しました。
こうして私は冒険者ギルドの採用試験をクリアした。
この章はこんな感じで視点がコロコロ変わります