ようやく気づいた事
ジンパチ視点です
頭の中でピコーンという音と共に文字が浮かび上がってくる。
▼戦闘スキル『格闘技 C』を習得しました。
「・・・大鎌に格闘技のスキルか!ずいぶんと珍しいスキルを引き当てるものだ!」
コンラッドさんは水晶玉を眺めながらテンション高めに答えてくれた。反面俺は安心のあまり膝から力が抜けそうなのを必死に堪えていた。
(・・・よかった~!なんとか職にありつけた~!)
冗談抜きにやばかった。話の流れで何となく理解していたが、危うくホームレスになるところだった。俺、赤色ばっかりなのに戦闘スキルでないってどういうことだと本気で焦った。
(・・・ここが異世界なら、親戚どころか知り合いだっていないだろうしな。自分の力でどうにかするしかない。その為には何でも良いから手に職を・・・て、考えたが、『格闘技』、ねぇ)
冒険だの戦闘だのそんな言葉を聞けば当然想像するのはそれを向ける相手、つまり敵の存在だ。人間にしろモンスターにしろ戦う相手が存在するからそんな話になる。
そして戦いにおいてリーチというのは重要な要素であると俺は考えている。結局攻撃があたらなけらばいくら強くても意味がないからだ。武器を持てばリーチを簡単に伸ばすことができる。そして、格闘技ってことは超近距離戦ということである。つまり誰よりもリーチがないのである。
(・・・やばい。俺まだピンチを脱してない)
冷静になると色々やばい。むしろ俺のピンチは始まったばかりだ。
「じゃあ、お前さん達は今のうちにステータスを確認しておいてくれ」
俺たちにそう言いながらコンラッドさんは出した道具をしまい始めた。俺と佐藤さんはそれを手伝おうとしたが、気にするなと笑顔で断られた。・・・知らない異国の地で優しくしてもらっているのに、頭の中で自衛隊学校の噂が頭をよぎるのは俺の心が汚れているからだろうか。新入生を逃さないため最初の時だけ優しいというアレ。
そんなことを考えながら佐藤さんを見てみると、なにやら虚空を見つめながら難しい顔をしている。どうやらすでに自身のステータスを確認しているようだ。
俺も続いてステータスの確認をする。
名前:ジンパチ
年齢:16 性別:男性
種族:ヒューマン 所属:ーーーー
ジョブ:見習い冒険者
▼ステータス一覧
Lv1
HP:101/101 MP:3/3
攻撃:83 魔力:12
物理防御:90 魔法防御:17
敏捷:72 幸運:20
・ギフトスキル
【神託 D】【必要経験値減少】
・戦闘スキル
【格闘術 C】
・商人スキル
ーーーー
・職人スキル
ーーーー
「・・・あん?」
「どうした?」
「!ああ、いえ、いきなり文字が一杯見えてビックリしたというか、その」
「そうか」
ビックリした~!挨拶以外一言もしゃべらなかったエリザさんがいきなり話しかけてくるなんて。いや、それも確かに驚くことだけど、それだけじゃなく。
(何でギフトスキルが二つも・・・?)
コンラッドさん曰く、ギフトスキルはかなり珍しく、普通は持ってなくて当たり前だというスキル。それが俺のステータスに二つもあるという現実。
・・・分からないことを気にしてもしょうがない。とりあえず今あるスキル詳しく調べてみる。
スキルの一つを集中してみると、スキルの下に文章が追加された。
【格闘技 C】
《自らの肉体を武器として戦う技術。
Cランクなら通常攻撃が20%のプラス補正
+クリティカル率20%アップ》
とても分かりやすい説明だ。
・・・そしてついに気になっていたスキルについて確認をする。
【神託 D】
《神からの啓示を受けとることができる。
Dランクなら一日一回だけ受け取れる》
・・・不親切すぎるだろ!なんだ神の啓示って!格闘技の説明を見習えよ!
・・・カリカリしてもしょうがない。俺は次のスキルに集中する。
【必要経験値減少】
《常時発動スキル。
レベルアップやスキルランクをあげる際に必要な経験値を20%減少させる》
・・・これは普通にいいスキルだな。あと、このスキルだけランクがついていない。鍛えようがないということだろうか?
「確認できたか?」
「・・・一通りは。使いこなせるかはひっじょーに微妙ですけど」
「おいおい、今からそんなんでどうする。・・・まあ、使いこなせるようにするのは俺の仕事なんだけどな」
「「?」」
「新人は一ヶ月かけてギルドの決まりや依頼の受け方、それからある程度の戦闘技術をギルド職員から学ぶ決まりだ。それを終えるまで”見習い冒険者”として、本当のギルド員としては、扱われない。だから一ヶ月は依頼の報酬をもらうこともないが、その間は指導中の職員が新人の世話を見ることとなる」
・・・そういえば、さっき見たステータスに”見習い冒険者”とあったな。
しかし以外と至れり尽くせりだなこの異世界は。
「なるほど・・・。ところで、私たちの指導をしてくださるのはどんな方なんですか?」
「ミヅキは俺だな」
「え?」
「ジンパチは私だ」
「え?」
なにこの展開。
「いや~、他のスキルなら他の職員に任すんだがな。大鎌と格闘技は俺たちしかいないんだ」
「魔法使いに剣の指導を頼むわけにはいかない。魔法使いは魔法使いを、剣士は剣士をというのが道理というものだ。ましてや大鎌使いと格闘家は数が少ないのでな。自然と私たちにまわってくる」
エリザさん、急にしゃべり始めたな。別にいいけど。
「えっと、じゃあ、コンラッドさんが大鎌使いで」
「・・・エリザさんが格闘家なんですか」
「そういうことだが・・・なにか?」
「まあまあ、なんにせよだ。これから一ヶ月間ビシバシ鍛えていくからな。ついてこいよ」
「「は、はい!よろしくお願いします!」」
パチンとウインクを決めるコンラッドさんとエリザさんに俺と佐藤さんは揃って頭を下げた。
ーーーー
そのあと、明日以降の準備があるとかで早々に解散することとなった。
しかし弟子入り記念ということで、コンラッドさんとエリザさんが夕飯をおごってくれるとのこと。
予定は7時、そして今は5時を少し過ぎたところ。少し暇を持て余しそうなので、佐藤さんと”とある場所”を確認することにした。受付嬢に場所の確認をして、そこに向かう。
「・・・あっ、あそこじゃないですか?今日泊まるところ」
ギルドから数分、そういって彼女が指をさした先には今日から俺たちが寝泊まりする”宿泊施設”だった。
「・・・以外と近かったですね」
「まあ、ギルド職員のために建てられたってコンラッドさん言ってましたもんねぇ」
そう、今さらだが俺たちは住むところがないのだ。その事をコンラッドさんたちに相談すると、そういう人たちのための寮のような場所があると教えてくれた。
元々はギルド職員のために建てられたそうだが、部屋が狭く壁が薄いためあまり物件としては優良ではないので、金のある職員はここには住まず、俺たちみたいに寝る場所がない奴等に提供されることとなった。
コンラッドさん曰く、寮を管理している人に言えば適当な部屋を勝手に使って良いとのこと。管理人さんへ話を終えたあと、せっかくなので施設内を見回ることに決めた。
そこで俺たちは”あること”に気づくのである。
それは、ある程度部屋を見回り共用スペースのトイレと風呂を見に来たときに気づいた。
「あっ、よかった。ちゃんと鏡ありますよ、ここ」
彼女はそういうと嬉しそうに鏡を覗いて・・・石のように固まった。どうしたのだろう。そう思いながら彼女に近づき、そして同じように鏡を覗き込んだ。
そして、俺は信じがたい光景を目にした。
「・・・お、俺の髪が」「・・・私の目が」
俺の髪が、赤色に染まっていたのである。
ちなみに元々は黒髪・黒目です