00 転生者は悪夢にまどろむ
一回目の人生は、警察官だった。
物心ついた頃から、両親のような警察官になるのが夢で、その為に沢山努力をした。
運動も勉強も得意じゃなかったけど、剣道も柔道も習ってどちらも段位を取得したし、一応県下一の進学校から地方国立大に進んで、試験を受けて念願の警察官になった。武道の段位を買われて配属された先は、機動警察隊。実力行使が多い任務上、体力のある若手が配属されることの多い部署だ。
とても嬉しかった。念願かなって、市民の平和をこの手で守っているんだ、っていう実感。日々の鍛錬が、そのまま仕事に役立つ充実感。その頃には昇進して、デスクワークメインになっていた両親も非常に喜んでくれたし、家族の中で唯一警察官ではない道を選んで起業した兄も、応援してくれていた。辛いことも沢山あったけれど、それでも仕事が好きだったのだ。
が。
警察官になって7年目。30歳の夏、私は勤務中に死んだ。
コンビニで銃を持った男達が、店員と客10名ほどを人質にとって立てこもっている、という事件だった。10時間にわたる人質解放交渉の末、9名の人質が解放され、犯人も人質もこちらも疲弊してきたタイミングでの、突入。
人質解放交渉を通じて犯人側から、また、解放された人質たちの発言から得られた事前の情報では、犯人側は3名で、その3名とも突入した機動隊により迅速に無力化された。
…筈だった。銃を持った4人目が居たなんて、誰も想定していなかった。
幸か不幸か『4人目』に最初に気が付いたのは私で、狙われていたのは不運にも、私の後輩の長峰だった。
昨年配属されてきた、「お前本当に警察官かよ」って胸倉掴んで叫びたくなるくらいの優男。
覚えも凄く悪い、後輩。
何度上司に「こいつを外してくれ」と直談判しようと思ったか分からない。苛々して、必要以上に厳しく当たったりもした。それでもそいつは一度も音を上げることはなくて、ちゃんと、喰らいついてきた。
不出来な後輩だけど、根性だけは認められる、そんな奴。
――考える余地はなく、咄嗟に体が動いていた。
長峰を突き飛ばした、所まではしっかり覚えている。
その後、胸に強い衝撃が走って、それからすぐに視界が真っ白になった。
「――――さんっ!」
薄れゆく視界の中で、必死の形相で長峰が叫ぶのだけが薄ら見えて、
防弾ベスト意味ねーじゃんかと、場違いなツッコミを入れたのも朧気ながら覚えている。
―――そこで、『一回目の』私の記憶は終わる。