【6】黒ずきんと囚われのオオカミさん
R15です。無理矢理な描写もありますので、苦手な方はお気をつけください。
オオカミさんの手足に枷をつける。
白い肌に黒い枷。鎖までつけたオオカミさん。
なんだかとても倒錯的だった。
馬車はオオカミさんと住んでいた森へと向かう。
御者もいたから、ぼくは馬車の中でオオカミさんが起きるまでずっと抱きしめていた。
オオカミさんの首に、ぼくが贈ったネックレスがあるのを見つけて、それを手に取る。
ずっと身につけていてくれたと思うと、さっきまでの凶暴な気分がすっと引いていくのを感じた。
「ねぇオオカミさん。ちゃんとぼくからの贈りものはずっと身につけていてくれたんだね?」
嬉しくて、起きたオオカミさんに尋ねる。
「もしかして、ずっと離れてからもぼくの事、思っていてくれてた?」
「そんなわけはないだろう。元々はひとりだったんだ。いつも通りに戻って、せいせいしていた」
耳元で囁いたのに、オオカミさんは顔を背けてしまって。
せっかく大人しくしていた黒い心が、また芽吹きだす。
もしもオオカミさんがぼくの事を少しでも想っていてくれたのなら。
優しくしてもいいかもしれないと、思っていたのに。
「今のオオカミさんには、こっちの方がふさわしいかもね」
オオカミさんに、首輪をつける。
「うん、よく似合ってる。これでオオカミさんはぼくのものだから」
真っ赤な首輪。飼い犬につけるようなやつ。
ぼくのものっていう証みたいで、とてもよくオオカミさんに似合っていた。
キスをすれば、オオカミさんは抵抗するような様子を見せた。
だから、頭を抑えて無理やり唇を開かせて。
「んっ……」
逃げようとするオオカミさんの舌を絡めとる。
しっとりとした舌を吸い上げれば、オオカミさんは可愛く身悶えた。
歯の列をなぞって、少し唇を離す。
ようやく息ができると思って口を開けたオオカミさんに、角度を変えてさらに深く深く口付ける。
ずっとずっとこうしたいと思っていた。
名残惜しそうに二人の間を唾液が糸を引く。
潤んだオオカミさんの目元にキスをする。
この首輪と違っていつまでもなくならない、ぼくのためについた傷を優しく舐めあげて。
キスを降らせながら上っていき、敏感な獣耳を食む。
オオカミさんは恥ずかしそうに顔を上気させてる。
とても色っぽい。
獣耳を食みながら尻尾をさすれば、体に力が入らないようだった。
手足が自由にならないから抵抗することもできなくて、ぼくの与える快感に必死に耐えている。
「ふふっ、オオカミさんて昔から耳弱いよね。あと尻尾の付け根をさすられるのも好きでしょ?」
囁けばオオカミさんは目を見開いた。
オオカミさん自身、そこが弱いなんて知らないんだろう。
完全に酔ってしまった時に、ぼくが耳や尻尾をいいようにしてたことを、オオカミさんは覚えていないから。
「……やぁ、やめろっ。アウル!」
どうしてこんなこんな事をするんだと、オオカミさんはぼくを見てくる。
わかってない純真なオオカミさんが愛おしい。
同時に、わかってくれないのがとてつもなく憎らしい。
「オオカミさんはぼくに捕まったんだ。つまりはぼくの食料だよ。だから、そんな事いう権利はない」
自分でも驚くほどに、残酷な声が出た。
オオカミさんは、喉を引きつらせて。
目の前のぼくが自分の知ってるアウルじゃないと、ようやく気づいたみたいだった。
オオカミさんの白い肌に舌を這わせて、吸い上げて、時には噛み付いて跡を残す。
ぼくのすることにいちいちオオカミさんは反応してくれて、それがたまらなく嬉しい。
少し涙の滲んだ瞳に、嗜虐心を煽られた。
「オオカミさん可愛いすぎ。家に着くまで味見だけで我慢できるかなぁ?」
腕の中で息を荒げて、くったりとしたオオカミさんもまた艶っぽくて。
辛抱できる自信があまりなかった。
森に着くまで、馬車を飛ばした。
毎日オオカミさんに触れて、ごはんをあげた。
でも馬車の外には出さなかった。
時折あの雄オオカミがオオカミさんを狙ってやってきた。
その度に撃退したけれど、命は奪わなかった。
別に殺すのをためらったわけじゃない。
狼族になるのを促進させる薬を作るには、狼族の血が必要だった。
前に薬は作ったけれど、あれじゃ狼族になるには全然足りない。
オオカミさんの綺麗な肌に針を打つのは嫌だったし、彼は血の気が多そうだったからちょうどよかった。
雄オオカミが来るたびに、しばらく動けなくなるくらい血をたっぷりと抜き取らせてもらう。
彼は何度も尋ねてきてくれて、そのたびにぼくが狼族になるための材料を提供してくれた。
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「おかえりなさい、オオカミさん!」
ようやく家について、オオカミさんを迎え入れる。
薬のレシピを売りに出したのと、今までの懸賞金で、この森はもうぼくのものになっていた。
家も管理させてあったから、元のまま綺麗だ。
「……ただいま」
オオカミさんが答えてくれる。
その言葉が聞きたくて、三年も待っていた。
「よくできました」
鎖を引き寄せてキスをすれば、オオカミさんがしがみついてくる。
馬車の中でずっと慣らしたから、ちゃんとぼくの舌に答えてくれるようになっていた。
耳がぷるぷると震えて、快楽に流されそうになるのを必死に耐えている。
「ぼくが食べることが、オオカミさんのご褒美みたいになってるよね。凄く気持ちよさそうな顔してた」
「っ!」
からかえばオオカミさんは睨んでくるけど、そんな赤い顔じゃ迫力はない。
オオカミさんに意地悪をしたときの、この悔しそうな顔も大好きだった。
ついもっと見たくなるくらいには。
「ほら、オオカミさん。行こう?」
家の中に入って、オオカミさんを膝の上に招く。
素直に頭を置いたオオカミさんの髪を撫でる。
昔よくやってたみたいに。
オオカミさんが体の力を抜く。
今のぼくの前でそれをするのは危険なのに。
わかってるんだろうか。
結構酷いことをしてる自覚はあるのに、オオカミさんはこうやってぼくに対して時々無防備に振舞う。
膝の上でオオカミさんは寝てしまった。
あの頃と同じように。
でも、あの頃と違うのは。
オオカミさんが自分から膝にやってきてくれたんじゃないということ。
見下ろせば、オオカミさんの首輪が目に入る。
「……こんなものなくても、オオカミさんが側にいてくれたらいいのに」
叶わない願いを口にして、首輪をなぞる。
じゃらりと鎖が鳴って。
オオカミさんの手首が枷で赤くなってるのに気づく。
白い肌に赤い跡。
ごめんねという気持ちをこめて、赤くなった手首にキスをする。
でも外してはあげられない。
オオカミさんが逃げるから。
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オオカミさんは、狼族は狼族と一緒がいいと言った。
――なら、ぼくも狼族になればいい。
そしたら、オオカミさんもぼくを愛してくれるようになるかもしれない。
そんな思いから、ぼくは薬を飲んでオオカミさんを『食べた』。
何度も何度も、それこそオオカミさんの全部を味わい尽くすように。
オオカミさんの体は柔らかくて、中は熱くて。
夢中になって貪った。
オオカミさんは、あの雄オオカミとそういう関係ではなかったようだった。
それにほっとした。
オオカミさんは抵抗らしい抵抗をしなくて、ずっと溜め込んでいた想いが溢れて、衝動が止められなかった。
オオカミさんはいつだって、ぼくが与えるものに慣れていく。
それを受け入れて、当たり前にして、ぼくに染まっていく。
今回もそうだった。
「オオカミさんはぼくのものだから」
そう口にして、酷い事をしてるのに、オオカミさんは受け入れてしまう。
オオカミさんに酷い事をしたくなんてなかった。
ただオオカミさんにも、この好きと同じくらいの好きを返してもらいたかっただけなのに。
大切にしたかったのに、何をやっているのかと、思った。
せめて、オオカミさんがぼくを嫌ってくれたらよかった。
好きな人にこんなことをしてる自分が嫌いなのに、こんな嫌な自分さえオオカミさんは受け入れてしまうから、罪悪感が膨らんでいく。
でも、手放すこともできなくて。
だんだんと苦しくなって。
こんなことをして狼族になったところで、オオカミさんはぼくを愛してはくれない。
わかってたのに、もう自分でも止められなかった。
もういっそ嫌われてしまいたくて。
でも、無茶を言っても、オオカミさんはそれさえも受け入れてしまったから、もうどうしていいかわからなくなった。