残念系男子6
鬼島綾香は、こっそりとファミレスの店内を覗き見していた。
そこに1人の青年が駆け足で近づいてくる。
「すまん綾香、待たせた。剣道部のミーティングがあるっつって抜け出してきた。」
木之下修一郎は綾香の横に立ち、同じくファミレスの店内に目を向ける。
「待ってたよ修クン。早速2人でお兄ちゃん観察タイムといきましょう。」
綾香は楽しそうな笑顔を浮かべ、あらためて店内を覗き込む。
紹介しよう。この娘は鬼島綾香、鬼島 零の妹である。
「偶然会った同じクラスの女の子を鬼島のもとに連れていったら、鬼島がめちゃくちゃテンパり始めて面白い」
というような内容のメールを、木之下が綾香に送信した所、
「何それ、何それw私もみた~い!今から私もそっちくー。なんなら2人っきりにしちゃって、それを遠目から観察した方がもっと面白う。」
というような経緯があり、現在にいたるのである。説明終わり。
ちなみに、鬼島の妹だけあり超絶美少女である。
「つーか、芸能人がこんな事してて大丈夫なのか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。私のファンって特殊な人ばっかりだから、一般人は知らないって」
鬼島と違い、自分が可愛い部類に入ると自覚がある綾香は、
妹系アイドルとして絶賛売出し中であり、今、赤丸急上昇中株である。
全国の大きいお友達をブヒらせ、熱狂の渦に叩き込んでいたりするのだ。
「あっ・・・お兄ちゃんがトイレに向かった。っとなるとお兄ちゃんが次に起こすアクションはこれできまりね。」
綾香は3ちゃんねるを開くと、そこには、例の鬼島のスレが立ち上がっていた。
「やっぱりね。でも・・・はぁ・・・」
予想通りでもありながらも、兄の情けなさにガックリする綾香であった。
「ははは。まぁ鬼島らしいっちゃらしいわな。」
笑いながら木之下も3ちゃんねるのサイトを開く。
「とりあえずアドバイスでも書き込んでやろうぜ」
そう言って『流離の剣士』名義で早速書き込みを始めた。
「あっ私も私もっ」
綾香は『出来る妹ちゃん』名義で、木之下の後に同じく書き込む。
しばらくすると、トイレから戻ってきた鬼島は多少の落ち着きを取り戻していた。
観察を継続していると、鬼島がまたしてもおろおろし始めていた。
「あー・・・メニュー選びたいけど、白河さんが持ってるから俺どーしたらいいんだ、って感じの状況みたいだな」
ほんの少しの機微で状況が分かってしまう木之下君は流石である。
まるで作者の都合に合わせて、お話を進行してくれる人みたい。
「店員さんからもう一冊メニューもらうとか、相手の方に見せてもらうとかすればいいのに・・・。お兄ちゃんコミュ障だからなぁ」
綾香ちゃんは兄をぼろカスに言う妹ちゃんである。
それもそのはずで、綾香はファンに対して毒を吐くキャラとしても有名であり、
「私のファンってキモい人ばっかりだから、握手会とか絶対イヤですね (⌒-⌒)ニッコリ」
とかいっちゃう系なのである。
にも関わらずファンからは、『むしろ我々の業界ではご褒美なのだが(キリッ』とますます熱狂的に応援されたりしているのだ。
「とりあえず、助け舟を出してやるか」
手厳しい綾香を横目に見つつ、手を差し伸べる優しき男、木之下なのであった。
メニュー後は、特に問題もなくスムーズに進行していた。
「あ~・・・俺も腹減った。2件隣りがマックだし、軽くなんか食わない?」
「そーだね。私もお腹空いちゃった。ぱっと行ってぱっと食べちゃおう」
白河嬢がカチコチと緊張しつつも、いけない妄想をしている間、
木之下と綾香はのん気にマックでお昼をしていた。
お昼を済ませた木之下と綾香は、鬼島のいるファミレスにもどる合間に、
さらなる助言文を入力していた。
「鬼島のやつ、変な知識とかはありそうだからなぁ。飯は男が必ず奢るもんだとかさ」
「あ~・・・それありそう。あーゆーの嫌なんだよね」
ムスっとした顔になる綾香。
「もう下心丸見えっていうか、自分がイニシアチブ取りましたって感じの空気を出すというか、まず自分が食べた物の代金ぐらい自分で出すっつーの!」
ムキーっと腹を立て始める綾香。
超絶美少女であり、アイドルでもある綾香は、芸能界でも日常生活でも色々と苦労しているのである。
「・・・そう言いつつ、マック代は俺が全部出したような」
ボソッと発言した木之下に対し、
「マック代割り勘とかは、さすがにえっ?って思っちゃうかも」
「どっちだよ!はぁ・・・女って難しいわ~・・・」
女の機微の難しさに頭を悩ます木之下だったが、綾香はそんな木之下の腕に抱きつき、
「ごめんごめんって。さっきはご馳走さまでした。ありがとう、修クン。大好き(*≧∀≦*)」
「ご馳走しました。・・・俺も好きだよ」
・・・あーくっさ、くさっ!ギップ○ャ!(某謎の妖精出現)
失敬失敬。ちなみに、鬼島同様に木之下と綾香も当然幼馴染であり、
前から半分付き合っているみたいな状態であったのだが、
鬼島家引越しで、また同じ地域で住む事が確定したため、この春から正式に付き合いだした次第である。
別に幼馴染の美少女と付き合ってるとか、全然羨ましくないけどね(作者震え声
ファミレスに到着し、店内を覗き込むと『やっちまったZE☆』みたいな顔をした鬼島がそこにいた。
「ちょっと助言が遅かったみたいだね。」
「だな。しかも、この後どうしようって顔もしてるな」
「はぁ・・・お兄ちゃんったら、仕方ないんだから」
綾香はため息をついた後、木之下の方に向き直り、
「お兄ちゃん達と合流して、ダブルデートしちゃおう」
「綾香がそれでいいなら、俺はかまわないよ」
同意して頷く。
「それでは合流しましょう。れっつごー!」
元気よく手をかざした綾香の後を木之下はついて行くのであった。
続く!