残念系男子1
始業式が終わり、生徒達は各クラスへと向かう。
青心第二高校2年A組は和気藹々とした空気がただよっていた。
春休み中は友達とあう機会も少ないため、久しぶりの再開に話が弾むのである。
ガラガラッ!ピシャッ!
勢い良く教室のドアが開き、A組の担任の先生が入室し、先ほど以上に勢い良くドアを閉めた。
トコトコトコ・・・、ドンッ!
可愛らしい女性であるにも関らず、教卓まで早足で近づき、勢い良く手を教卓に打ち下ろす。
「・・・・・・・・・・・・・・転校生よ。」
生徒全員ぽかーんとしている。それもそのはずだ。
いつもの先生の感じならば、「はーい。ホームルーム始めるから席につきなさーい。」
って感じのテンプレ台詞を口にしながらのんびり入室してくるはず。
なのに物凄い勢いで入室し、いきなり「転校生よ。」って。
みんながぽかーんとしている中、1人の男子生徒が我に帰り、
「センセー。転校生って女の子?」
っと男子全員が気になるであろう質問を投げかけた。
「残念ながら男子よ・・・いえ、逆にそのおかげであなた達男子は助かったかも知れないわね。」
質問した男子生徒は「???」っと言う顔をしている。
「先生・・・どうしたの?」
心配したクラスの女子生徒が声をかけた。
「・・・・・・今から転校生に入ってきてもらいますが、」
女子生徒の質問には答えず、先生は一呼吸置いたのち、
「女子のみんな!心をしっかりと保つのよ、いいわね!」
とクラスの女子全員の目を1人1人見て確認して言った。
「・・・では入ってきてもらいます。」
先生は教室の入り口まで行き、ドアを少しあけて上半身を廊下に出して手招きしているようだった。
ガラガラガラッとドアがゆっくり開き、1人の男子生徒が教室に入ってきた。
そして、クラス中の女子生徒が全員声無き声を上げ、入室した男子生徒に視線が釘付けとなった。
身長は180cmはあろうか。モデルのようなスラッとした体型。
日本人特有のただの黒髪のはずなのに、1本1本が芸術品のように輝いている。
鼻筋はスッと通り、顎のラインは美しい曲線を描いている。
緊張しているのか喉仏動くが、それがセクシーさを際立たせ、怪しい魅力を醸し出す。
「鬼島 零です。よろしくお願いします。」
「はふゥ・・・。」数人の女子生徒が声無き声を上げ、机に突っ伏し昇天した。
たった一言。鬼島 零なる男子生徒が放った声が、透き通った清涼の如く吹き抜け、女子生徒達の耳を優しく包み込み、夢の世界へと誘ったのである。
昇天を免れた女子生徒達でさえ、顔を紅く染め、ぽーっとした表情で彼を見つめている。
一度職員室で対面し、教室の廊下までつれて来た先生でさえ、たった一言の声に聞き惚れ、放心状態になってしまっている。
その後、女性陣が意識を取り戻すのに10分程度時間が必要となった。
始業式から1週間程経過した、ある日の昼休み。
鬼島 零は1人読書に耽っていた。
左手に本を持ち、右手は机に肘をつき顎に添えられている。
行儀の悪い格好であるにも関わらず、彼の制止した姿は名画にも引けをとらない。
ページがめくられ、彼は時たまわずかに微笑む。
これが女性に向けられたものであったとしたら、微笑まれた女性は一生の思い出になるだろう。
彼の編入時の感じからすれば女性陣に取り囲まれていそうなものだが、
そのような事態には今まで1回も起こる事がなかった。
漫画やアニメでは、超絶美少年や美少女転校生がやってきた場合、休み時間のたびにクラスメイトが群がり質問の嵐を浴びせるのがテンプレであろう。
しかしながら、彼の容姿はそんなテンプレが通用するレベルのはるか先、まさに超越していた。
クラスの女子生徒達はおろか、噂をききつけた他学年、他クラスの女子生徒達でごったがえしている。
少しでもお近づきになるべく、行動を起こそうとした女性はもう数え切れない。
「どこから来たの?」「趣味はなに?」「好きな食べ物は?」「今、彼女いる?」
そんな質問をしようと、ある女性は席を立ち、ある女性は教室に足を踏み入れた。
しかし、椅子に座っているだけ、ただ立ち上がるだけ、ただ本を読んでいるだけ・・・ets、
本当になんでもない一挙手一投足のすべて完成された究極の美であった。
いざ彼に意識を向けた瞬間、脳に電流が走り、身体中が甘い痺れと疼きに支配される。
もしこんな状態で彼と視線が交わってしまったら、甘い声が耳元に絡みついたら、
そんな想像が一瞬で頭の中に広がり、彼女達は顔を紅色に染め俯くしかなかった。
そんな女子生徒達を眺める1人の男子生徒の姿があった。
彼の名前は「木之下修一郎」
鬼島とは小学校からの付き合いであり幼馴染である。
高校入学と同時に地元をはなれ青心第二高校学生寮で生活をしている。
春休み中に家族ともども引っ越す事と青心第二高校へ編入する事を鬼島からは聞かされていた。
まさか同じクラスになるとは。
剣道部副主将である彼は、剣道部の集まりを早々に切り上げたのち、鬼島と女子生徒達の観察をする事にした。
「ん?」
観察を開始して5分程経過した頃、本から一瞬顔を上げた鬼島と目があった。
どうも鬼島がじーっとこちらを見ている。
「(こっちに来いと言う事だろうか?)」
席を立ち、鬼島の下へ向かう。
席の横を通った時、女子生徒達が小さい声で「キャッw」と声を上げる。
この木之下修一郎なる男もかなりの美男子なのだ。
2年で剣道部副部長、つまり1年生から副部長を務める腕前を持ち、成績は常にトップクラス。
人当たりもよく、責任感も強い事から学級委員長にも選ばれている。
そんな美男子2人が一箇所に集まるものだから、女子生徒達のテンションも急上昇である。
「どうしたん?」
木之下が鬼島に声をかけた。
「木之下氏、小説版「魔法少女マジカル☆このみん」拙者的にはアリで御座るよ。(キリッ」
「・・・」
「原作アニメの路線を崩す事なく、かといってアニメでは表現できないエロい表現もふんだんで・・なによりチョコぽてと先生の美麗イラストが神!ミwナwギwッwテwキwタw」
「・・・ハァァ~~~~~・・・・」
「どうしたで御座るか木之下氏。・・・ははぁ~ん、さては深夜アニメ「妹みっくちゅ☆」の第3話の過激シーンに興奮して眠れなかったとみた!まさか地上波で白い靄がはずされたverが放送されるとは想定外でござったなwww3ちゃんねるでも「NMKが放送事故した件について」とういスレが乱立する程盛り上がりを見せて・・・」
完璧にして超絶な美を誇る男子生徒。
彼の容姿、漂うオーラは一瞬にしてすべての女子生徒と女性教諭の心を鷲づかみにした。
しかし彼女達は知らないのだ。
彼が、超ド級な程残念系男子だという事に。