第六話 憂鬱の理由
「…………」
通りからもう随分と離れた。先ほどの現場付近は今もなお騒がしいらしく、和真のいる通りでもあちこちの人が噂話に花を咲かせている。現場に向おうとしている人も多く、和真は鬱々とした気分で彼らとすれ違っていく。街中で指名手配犯だった突然変異種が捕えられたということで、あの場にはおそらく大勢の野次馬が集まっているのだろう。
「はぁ……」
深い溜息をついてパーカーのチャックを開き、ズボンのポケットに手を突っ込んで赤くなり始めた通りを歩く。軽く裂けてしまった左腕と頬から滲んだ血に、周囲の人々は和真を不審に見つめる。
一人の時間は気楽だと、和真はそう思う。
嫌なこと全てを吐き出しても、誰も気にしないから。
「だから、いやだったんだよ、人助けなんて……」
こんな風に和真が愚痴を漏らしても、その理由を問う人間もいない。同情する人間もいない。
「……助けて、だってさ。はっ、助けてあんな顔されるんじゃ、一体何のために助けるんだか」
ふと瞳を閉じて思い出すのは、先ほどの少女の恐怖に歪んだ顔。まだ五歳かそこらの少女。そんな子にあんな顔をさせてしまうような人間――それが自分だと。
「だから言ってるだろうに。中途半端な気持ちで、俺に……助けを求めるなって」
近くにあった壁を思いっきり叩き付ける。ブロック塀に傷一つつけられない己の拳の弱さに、和真は小さく安堵した。
もう今の自分は、さっきまでの化け物とは違うと。
だが、周囲にいた人達の軽蔑の視線に気づき、和真はフードで顔を隠して足早にその場を去る。
「トラウマ、ね。知ってんのかね、あいつらは。自分達が突然変異種だって呼んで捕まえる化け物が、心に傷を持ってる人間なんだってこと。ま、好き勝手暴れるやつもいるけどな」
空を見上げた和真の脳裏に見えるのは、燃え上がる車の中で逃げろと叫ぶ両親の姿。
彼らに向って助けると叫んだ自分自身。
「あら、ようやく見つけたわよ御堂君」
「え、あ、来栖博士?」
脳裏に映った強烈な映像を、掛けられた声で和真はかき消した。ソフィと同じ銀色の髪を腰まで伸ばし、街中でスーツの上に白衣を着た桐子の様子に、和真は軽く苦笑いを返す。
「街中なんですし、その白衣脱いだらどうです?」
「あらやだ。私から白衣を取ったらイメージがぶれちゃうわ」
「いや、そんな目で見ないとわからないところでイメージ作られても……」
子供のように笑う桐子の姿に、和真は先ほどまでのいら立ちを押し込み、話を進めた。
「それで、どうかしたんですか、こんなところで。あっちじゃ指名手配犯の逮捕劇があったっていうのに。博士も一応、関係者ですよね?」
「知ってるわよ。コーヒー片手に遠巻きに見てたもの。危なかったわね、御堂君達も」
「あんた最低だな!?」
取り出した望遠鏡を片手に笑みを歪める桐子にツッコミを入れる。見ててなお放置するなど、ヒーロー協会の関係者としてどうなのかと問いたくなる。
「残念だけど、私が出て行っても何もできないわ。それに、現場に貴方達が来ていることも知ってたし、何より知りたかったの」
「へー。人助けまでほったらかして知りたいことって何ですか?」
皮肉を込めて尋ね返すと、桐子の細い指が和真の胸を突いた。
「貴方の力のひ、み、つ」
そのままぐいっと顔を近づけてきた桐子の視線に、興味本位という言葉を見出した和真はいら立ちを露わにする。
「ベルも貴方も、もっとはっきり言ったらどうなんですかね? 暴走しない俺みたいな『突然変異種』がそんなに珍しいですか?」
「えぇ珍しいわ。もう少し詳しく聞きたいのだけれど」
「答えなきゃダメですかね、それ?」
距離を取ろうとすると、すぐにその距離を詰められ、和真は俯く。
「ダメね。分かってるとは思うけど私、ヒーロー協会の人間なの。私達には突然変異種の能力と事情を知る義務があるわ。ま、そう言う大人の力はなしに、貴方から語ってくれると助かるけれど」
興味を隠そうともしない桐子の様子に毒気を抜かれた和真は、仕方なく頷いた。そのまま桐子と並んで自宅への道に戻る。
「それで、何が聞きたいんですか? 割と投げやりに答えると思いますけど」
「そうね。トラウマになった理由は?」
「交通事故で両親をなくしたことです」
「あら、意外と普通ね。それで、ご両親はどうなったの?」
ピクリと、和真の眉間に皺が寄った。そのまま隣にいた桐子を軽く睨み付け、低い声で責める。
「あんた、全部知ってて聞いてるだろ?」
和真の問いに、桐子は髪の毛をかき上げてそっぽを向いた。
「何のことかしら、私には全然わからないわ」
コノヤロウと怒りを込めて拳を握る。誰にも話したことのないトラウマの話を、桐子は知っている。その詳細まで。そこまで分かってしまえば、隠す理由がなくなった。
和真は大きな溜息をついて話し始める。
「普通の交通事故ですよ。俺の両親の運転する車に、もう一つの車が突っ込んできた。車の外に投げ出された俺は運よく打撲程度で済んで。車に残されたままの両親に助けを求められて、助けに行きました」
「それで?」
「助けましたよ。えぇ助けました」
「で、両親に捨てられたのかしら?」
桐子の鋭い問いに、和真は瞳を閉じた。そのまま必死になって言葉を絞り出す。
「……たすけて。そう言われたから、必死になって助けた。でも、その時の俺は、自分が変異していたことになんて気付かなかった。自分が化け物になっていたことに気づかなかった。化け物だったことに気づかなかった」
かすれる声で答え、和真は瞳を閉じる。
鮮明に覚えている。
逃げ遅れた両親の姿に心が強く震え、自分自身を見失った。ただ、助けるという強い想いに突き動かされ、気づいた時には車一つを持ち上げ、中から二人を救い出していた。
助ける。そう言って二人を助け出した自分に向けられたのは、化け物を見るその瞳。
「っ……」
思わず肩を抱く。壊れてしまいそうになる恐怖に必死になって抗おうとすればするほど、和真の肩は震えを隠せなくなった。
そんな和真の様子を見て、桐子は納得いったように頷く。
「だから、人を助けるのが嫌いなのね、御堂君は。その件を境に君の両親は君を施設に捨て、消えていったから。一応こっちで貴方の両親の足取りを掴んでるけれど、聞きたい?」
「…………」
無言を決め込むと、桐子が一歩前に歩み出た。
「今ので御堂君の禁止語句も想像がついたわ。御堂君は一般的な変異型と違って、強化型の突然変異種みたいだし、協会側で逮捕する必要もなさそうでよかったわ」
「そいつはどうも。それじゃ、俺を勧誘するのも止めてもらえ――」
「嫌よそれは」
「え、なんで!? 今の聞いてなんでまだ俺を正義の味方に誘おうとするかな!?」
悪戯っぽく笑った桐子に慌てて詰め寄ると、唇に人差し指を突き付けられた。
「だって貴方、人を助けたじゃない」
「それは……!」
和真が言葉を詰まらせると、そのまま桐子が会話のペースを持っていく。
「助けを求められたから? 違うわよね。御堂君は自分から、ソフィと女の子を守るために飛び出したわよね?」
桐子の突きつける事実に、和真は言葉を返せない。
「はっきり言わないとわからないかしら。御堂君、貴方は自分の言ってることとやってることは、酷く矛盾してるの。人助けが嫌いなのに、人を助ける。貴方は本当は一体、誰を助けたいのかしら」
突き付けられた容赦のない言葉に、和真は顔を伏せて拳を握った。それ故、次の桐子の言葉に和真は思わず驚きを隠せなかった。
「でも、人っていうのはそう言うものよ」
「え?」
顔をあげると、桐子の微笑みがそこにあった。
「好きなのに、嫌い。嫌いなのに好き。怒りたいのに笑ったり、笑いたいのに泣いたり。だからきっと、御堂君のその行動も、人間らしい行動なのよね」
「俺はただ……」
桐子の言葉に和真は困惑する。一度だって和真はそんな風に考えたことはなかった。
「貴方は、化け物なんかじゃない。人として、やりたいことをやっただけ」
「俺のやりたいことが……人助けだとでも言うんですか?」
「認めないと、辛いわよ。ホントは貴方が一番よく知ってるはず。自分は、助けずにはいられない側の人間なんだって。認めちゃいなさい。それが君自身のトラウマを克服する方法なんだもの」
桐子の言葉を胸にとどめ、和真は小さく頷いた。
「……考えときます」
「あ、じゃあここにサインでも貰おうかしら。本人の言質を取ったってことで」
「はいはい、ここに名前を――ちょっと待て。ねぇこれ何?」
差し出された紙に書いてあるのは、『ヒーロー協会雇用契約書』の文字。日付はさり気に昨日。
「何って、契約書よ。昨日から君、正義の味方。アンダスタン?」
「ノーアンダスタぁン! 今の話の流れでなんでいきなり契約書出てくるの、出てくるの!?」
受け取った紙を丸めてポイ。だが華麗に桐子にキャッチされて再び広げて差し出される。
「意外とガード堅いわね、御堂君。今のちょっといい話でさり気なく正義の味方へのやる気出してくれるかと思ったけれど」
「そう言う意図かよ! 人の心の傷抉りながら勧誘ってどんな勧誘!?」
可愛らしく小首を傾げる桐子の姿を見て、和真は深く項垂れた。
だがそんな空気の壊れたこの場に、さらに空気を悪化させる存在が空から落ちてくる。
「かーずぅーまぁあああ!」
「ぐほっ!?」
パラシュートダイビングと共に空からベルイットが脳天に落ち、和真はそのまま地面に猛烈キッス。慌てて痛む鼻頭を押さえて立ち上がり、いそいそとパラシュートを取り外しているベルイットに詰め寄る。
「どんなタイミングの登場だ!?」
「これでも出るタイミングを見計らっておったのじゃ」
「出るタイミング?」
ふと感じた視線に慌てて周囲を見渡すと、さっと視線を逸らす不審な影複数。一般人に紛れ込んだつもりなのだろうが、そのあまりに特殊な姿は隠せるはずもない。
「ほれ、いうじゃろ? 木を隠すなら森とな!」
「森の中にビルおいて隠れるわけねぇだろうが! 丸出しだよ! 怪人丸出しだろ!? つか気付かなかった俺もなんなの!?」
「それよりお主、一人で帰ろうとするとは何事か! 恋人たるワシをなんじゃと思っておる!」
「いつからお前と俺が恋人になったって、何度同じこと言わせるつもりだ!? つか、もう少し落ち着いて登場しろ! 毎回毎回お前にツッコむ俺の身にもなれ!」
「つ、ツッコむだなんてそんな……わ、わし、照れちゃうのじゃ。ぽっ」
「そんなツッコミじゃねぇよ!?」
腰を前後に振りながら抱き着いてくるベルイットの額を小突き、和真は盛大に溜息をつく。
だが、
「あーれー」
「ん?」
空から聞こえてくる面倒そうな声に和真は顔を上げた。目の前に広がった何やら白黒のストライプに小首をかしげると同時に、強い衝撃が顔面を襲う。
「おデブッ!?」
酷い声を上げて和真はそのまま仰向けに倒れ込む。
「し、失敬! おデブはない! 私はおデブじゃない!」
「ぶっへあぁ! そ、ソフィ! なんでお前まで空から落ちてくる!? なにこれ、二段構えだったの!?」
地面に押し倒される形となった和真の腹の上に、ちょうどソフィが馬乗りになっていた。スカートの裾を押さえてほんのり顔を赤らめるソフィが、唇を尖らせて和真を睨み、怪我をしている左腕と頬を指差した。
「……その怪我、私を庇って出来た。ちゃんと治療する必要がある」
「いや、別にいいよこんなの。大した怪我じゃないし」
「博士、私、もう少しこの人と一緒にいる。この怪我が治るまでは少なくとも」
「えぇいいわよソフィ。それに、彼はヒーロー協会に何としても連れ込みたいもの。最高の素材だからね、うふふふ」
「そういうこと。理解できた、ロリコン?」
「話しかけてきたのお前だよね? なんでスルーされてんの俺?」
未だに馬乗りになったままのソフィの脇の下に手を入れ、彼女を持ち上げる。わひゃっという驚く声も聞こえるが、無視して彼女を傍の地面に移し、和真はようやく立ち上がった。
「ロリコン! お、女の子の脇の下にいきなり触るなんて最低!」
「別にいいだろ。黙ってたらお前何時までたっても降りないし、それに、何度も言うけど俺は疲れてるの。早く家に帰って寝たいのロリコンじゃないの」
騒がしくなり女性陣三人を一瞥し、和真は一人、踵を返して自宅へ向かって再び歩きはじめる。だが、直ぐに彼女達は和真を取り囲むようにしてついて来る。
「さっきも言った。その怪我が治るまでは、私もいる」
「いや、だからこんな怪我別に大したことないっての」
そう言って和真はソフィの言葉を否定するが、彼女は和真の服を引き、眉を顰めて不満げに宣言する。
「私も、いる」
「わしも、いる」
「いや、なんでお前までついてくるんだよ!?」
まっすぐな視線で自分を見つめるソフィの様子と、にへっと言わんばかりに笑うベルイットの姿に和真は頭をかく。どれだけ言葉で伝えても彼女達は納得してくれそうになく、大きな溜息をついて和真は頷いた。
「分かった。けど、怪我が治るまでだからな? それと、面倒事は一切起こさないこと。これが約束できるなら――」
「和真、ワシもお腹が減ったのじゃ。今日はざるそばが食べたい気分じゃのぅ」
「あ、私もお腹すいた。私はナポリタンを所望する」
「あら、私もご随伴にあずかろうかしら。そうねぇ、私は麻婆豆腐にしようかしら」
「俺の話どこ行った!? つか何さり気に和洋中揃ってんだよ! あーもうわかったよ! みんなで帰ればいいんだろ帰れば! 帰りにスーパーよって帰るぞ!」
右腕に抱き着いてきたベルイットと、左腕の袖を優しく掴むソフィ。背後からは年甲斐もなく抱き着いてくる桐子を連れ、和真は再びにぎやかになった通りを自宅に向って歩く。
不思議と、陰惨としていた心が晴れやかになった気がして、和真は三人にばれないように小さく笑った。
◇◆◇◆
夕食を四人で取った後、用事があるということで桐子はすぐに和真の自宅を去った。
帰り際にみたび正義の味方にならないかと誘われたが、無視を決め込んで家から追い出した。
食事をしていると夜も遅い時間になり、ソフィ達を仕方なく自宅に泊めることに決めた和真は、ベルイットとソフィにそれぞれ両親が使っていた部屋をあてがった。騒がしい二人を部屋に押し込み、ようやく和真は一人、静かな時間を得る。
昼間のことを思い出しかけた頭を冷やすため、和真は自室のベランダに出て夜風に当たった。
肌寒さで体を震わせ、ベランダの手すりに顎を乗せた和真は投げやりに呟く。
「あー、明日から学校か。はぁ、憂鬱……」
「何が憂鬱?」
「お前さ、なんでここにいるの?」
呟きと同時に隣に現れたソフィの姿に、和真は慌てて自室の扉に視線を移す。鍵穴から何やら小さな煙と焦げた匂い。ちらりと怪訝な瞳をソフィに向けると、彼女のやる気のない半目がきらりと光った。
「ふふん」
「なんでドヤ顔してんの!?」
だが、そんな彼女のドヤ顔もすぐに真剣な表情に変わる。
「冗談。怪我の看病のつもりで来た。……痛くない?」
消え入るような小さな声で、ソフィの心配する言葉が届き、和真は彼女の頭を軽く撫でた。
「だから、別に大した怪我じゃないって。お前が気に病むことなんてない。俺が勝手にやって勝手に怪我しただけなんだから」
「……ん」
和真がそうしていたように、ベランダの塀に顔を乗せてソフィは空を見上げた。その隣で和真は塀に背を預け、ソフィとは違う星空を見上げる。
しばらくそうして黙っていた二人だったが、唐突にソフィが和真に訊ねた。
「一つ聞いていい、ロリコン」
憎まれ口を叩く気になれず、彼女の言葉に和真は素直に頷く。
「いいぞ。なんだ?」
「……やっぱりいい。貴方が素直に『いいぞ』なんて言うのはおかしい。気持ち悪い。吐き気がする」
「おいちょっと待て! 珍しく素直に人が話を聞こうとしたら何その言い草!? 天邪鬼かお前は!?」
なんだよもうと和真が口を尖らせると、ソフィがまっすぐに自分を見つめているのに気付いた。
「なんで、助けたの? あの子と私を。昨日もそう。人助けを嫌いだっていう貴方が、私と悪の幹部を助ける理由が私にはわからない」
彼女の問いに、和真は答えを探す。だが、
「なんで、だろうな。俺にもよくわかんねぇよ。助ければ、こんな風に気持ち悪くなるってわかってたんだけどな」
「…………意味、わかんない」
和真の問いが気に食わなかったのか、ソフィはぷいっとそっぽを向いて和真に背を向けてしまう。
彼女の問いを聞いて、思わず和真も彼女の背に問いかけた。
「お前はさ……」
「何?」
「なんであの子を助けようと思った? なんで、正義の味方でいたい? なんで、誰かを守りたいと、助けたいと思う? 助けたってなんにもいいことないぞ。ただの自己満足だそんなもの。後で結局、自分が傷つくだけだ」
和真の問いに、ソフィは振り返りもせずに答えた。
「私が、正義の味方の変身ベルト型アンドロイドとして生まれたから。私は、誰かを守って、誰かを助けるために生まれた。だから、助けるの。それが私の誇りで、それが私の中の正義の味方の姿だから」
「助けるために生まれたから、か。俺もお前と同じなら、こんな風にならなかったのかもな」
そう答えてふと、その答えに和真は違和感を持ってしまった。本当に小さな違和感だ。だが、そんな和真の様子を意にも介さず、再びソフィが和真に訊ねた。
「もう一度聞く。そんな風に思ってる貴方は、どうして私達を助けたの?」
彼女の問いを反芻し、和真は大きく息を吸いこみ、吐き出す。
「そうだな。理由があるとすればきっと、助けを求められたから、だな。助けを求めてくれたから――助けられた」
「……それが、貴方の正義の味方の在り方?」
「ん? 何か言ったか、ソフィ?」
「な、なんでもない」
顔を覗き込むと、何やら真っ赤になってそっぽを向かれてしまい、和真は頭をかいた。
こうして近くにいて改めて、彼女の体の小ささを知る。自分の胸までしかない身長。細い腕、白い肌。小さな顔。まるで妹が出来たみたいな気分である。
だからだろう。先ほどの違和感がようやく形になった。
「あぁ、そういうことか」
言葉にして、勝手に体が動く。気付けば和真の左腕はソフィの頭を撫でまわしており、あり得ないほどに眉を寄せてガンを飛ばしてくるソフィと目が合う。
「……なんで、人の頭を撫でるの?」
低い声で問うソフィに、その答えを教える気になれず、和真は笑ってごまかす。
「いや、ジャストフィット。撫でやすい位置にあったから。おーうよしよしよし、よーしよしよしよし!」
「失敬! 私は正義の味方の変身ベルト! 子ども扱いしないでほしい! ら、乱暴に髪の毛を触らないで! 変態! ロリコン! 犯罪者!」
腕を振り払って暴れ回るソフィを追いかけ、和真も自室に戻る。
このちっさい意地っ張りな少女は、人を助けるために生まれた。
だとすれば、彼女は一体誰が助けてくれるのだろうと、そんなことを考えながら。