表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色ペルセウス  作者: 大和空人
第四章 空色ヘルメス
65/69

第一話 無茶苦茶な企業

 連休の初日となる翌日の朝、眠れずに夜を明かした和真は、目の下にできた隈をこすりながらも起き上がった。炬燵の中から這い出た和真はそのまま、ベットの中から重力を無視してそびえたつ銀色のツインテールを冷ややかに見つめ、眉間を揉む。


「……参った。昨日のあれで興奮しすぎて眠れなかった」


 アレ。即ち、ヒーロー協会とアンチヒーローの最大スポンサーかつ飛ぶ鳥落とす大企業、ヴィランズカンパニー。授業でも頻繁に名前が挙がり、お子様ですら知らないものはない企業名。そんな企業の空中パーティに招待されるのだ。

 昨晩ベルイットに渡された招待客の名前のリストには、テレビで目にする有名人から政治家、はたまた外国の有名俳優などの名前が揃う。

 そして、そんな招待客の名前のリストの中に、場違いかな。自分達の名前がある。


「だめだ、手が震えてきた。ってか何着ていけばいいの? スーツなんて持ってないし、学生服着ていくか? いやでもなんか場違いすぎて空気読めない感が……朝飯作るか」


 服なんてなんでもいいや。そんなあきらめの境地に行きつき、和真は満面の笑みで眠るソフィを置いて自室を出た。




 ◆◇◆◇




「あら、御堂さん着替えないんですの?」

「むしろ、なんで君は既に真っ赤なドレスに身を包んでるのかな!?」


 朝食の時間になって居間に現れたブリジットの姿に、和真は驚きを隠せない。すらりと伸びる背筋に、背中が大きく空いた真紅のドレス。スリットに合わせた大きめのフリルと胸元に輝く白薔薇のコサージュ。普段の彼女の着るバトルドレスほど派手さはないが、はっきり言って似合ってる。

 というより、完全に着こなしていた。


「みどうさんみどうさん、ご主人様は美しいのですよ!」

「いや、まぁ否定はしないけど……。ってかドレスなんてなんで持ってるんだよ」


 駆け寄ってきてブリジットの姿を自慢するメリーは、いつもの赤と白を基調としたゴスロリ服に身を包んでいる。普段の私服と比較すれば浮いている彼女のゴスロリ服も、派手なドレスの前ではむしろバランスが取れる。

 和真の視線に気づいたブリジットは、伸びる金色の髪を後ろに纏めながら、挑戦的な視線を投げた。


「あら。私も最初は驚きましたけど、こういうのは慣れているんですの。小さい頃はお父様とお母様と一緒にダンスパーティにもいきましたし。ヒーロー協会が開催するパーティへも何度か顔を出していますもの。これくらいマナーですわ」

「マナーですか」

「マナーですわ。え、まさかその年でスーツの一つも持っていないんですの? 社交界デビューも無し? 遅れてますわね」

「この年でスーツ何着も持ってるやつがいてたまるか! それに社交界デビューって何!?」

「ごめんなさい、社交界デビューは御堂さんには早すぎましたの。そうですわよね、貧相な顔立ちですものね。ごめんなさい気が利かなくて。スーツが似合わないなんて思っていませんわ」

「スーツが似合わないのなんて俺だってシンキング! っていうか俺より年下よねお前!?」


 ここぞとばかりに弄ってくるブリジットに鼻を鳴らしながらそっぽを向き、和真は食卓に並べた白御飯をかきこむ。隣ではまだ寝ぼけているソフィが顔面から目玉焼きに突っ込んだまま寝ていのは気にしない。

 彼女の頭をひっぱたきながら、和真は妙に静かな食卓にようやく気付き、正面に座ったブリジットに問いかけた。


「で、俺達を無理やり空中パーティに呼び付けた当の本人はどこにいるの?」

「ベルイットさんでしたら、御堂さんが食事の準備をしている最中に出ていきましたわ。お願いしてた迎えが来たとかで」

「お迎えって、まだ朝の七時だろ? アイツのタイムスケジュールも一体どうなって――ん?」


 耳に聞こえてくるのは、ゴゴゴという爆音にも似た轟音。規則性のあるその音に気づき、和真は小首をかしげる。


「ヘリ、か? えらく近くを通るもんだな」

「……あー」

「どうかしたのか、リジィ」


 バツ悪そうに何かに気づいたブリジットが眉を顰めて半笑い。朝食もほどほどに、彼女はごちそうさまと一声残して食器を洗い場へ。そうして足早に部屋を去ろうとし、和真の肩をポンッと叩く。


「なんにせよ、ご愁傷様ですの。現地でまた会いましょう」

「いや、現地で会いましょうって。一緒に行くんじゃないの?」

「一緒に行けると思います?」


 にこっと言わんばかりの笑みを見せたブリジットの姿を見て、和真は本能的に唾を飲み込む。そしてそれは、近づいてきていたヘリの音が、自宅の真上で明らかに止まったことで確定的になった。


「ヴィランズカンパニー。飛ぶ鳥落とす勢いの世界有数の大企業。その会長様のやりたい放題っぷりはよく耳にしますの。曰く、財界の著名人をパーティと称して山籠もりさせる。曰く、国民的レジャー施設を誕生日のために貸切る。曰く、気に入らない男は太平洋のド名真ん中にゴムなしバンジーで叩き落とす。そして――」

「……そして?」


 ごくりと、もう一度喉が為る。そしてもったいぶったブリジットは和真に満面の笑みを見せ、


「本当に仲のいい友人からのお願いは、是が非でも叶える」



『突入ゥッ!』



 次の瞬間、パリンっという窓の砕ける音と、扉の蹴破られる音が家中から響いた。同時にけたたましく聞こえてくる、複数人の乱暴な足音。廊下の奥から聞こえてくる爆発音。嫌な予感どころじゃない。

 大変な状況発生。


「な、なななななにごとっ!?」

「では、巻き込まれる前に私はこの辺で。お元気に」

「ちょ、ちょちょちょっとまって!? 事情、事情全然聴いてないから俺――って、うおお!?」

『ベルイット様と冬獅郎様からの指示通り、目標を発見! 突入、突入ッ!』


 居間からするりと抜けだしたブリジットと、入れ替わりで突入してきたのは暗視スコープ付完全武装の兵士。隙なく手にした銃をこちらに構えたまま、ハンドサインで仲間たちの突入を促していく。突然の来訪者に、食卓でくつろいでいた和真は転げるようにして椅子から落ちた。


「ちょちょちょ、ちょっと待って! 事態が判らない、何が起きてるかこっち分かってない、少なくとも俺何もしてないよ!?」

『第一優先目標発見! 続いてその横の座席にて第二目標発見! 構え!』

「ひぃ!?」


 突入してきた入口から突入してきた四名の兵士と、背後のお風呂場から突撃してきたさらに二名に囲まれる形で銃が突き付けられ、思わず悲鳴とと共に諸手を上げて降伏アピール。しかし、後からやってきた一名が構えたロケットランチャーが和真に向って照準完了。


『ベルイット様からの指示通り、対御堂和真用特殊弾、てぇッ!』

「撃たないで、マジ撃たないで!?」


 思わず両腕で顔を覆ってしゃがみ込む。そして、突入してきた隊長らしき男の指示通りに特殊弾が放たれ――、





「……おい」





 和真の目の前に山なりで落下したその弾は、ぼふんという音と共に割れ、中から黒のフリル付チェック柄の布きれが現れた。布きれにはご丁寧に、『和真ご用達』と書かれたベルイットの写真が添えられている。

 どう見ても――パンツ以外の何物でもなかった。


「おいお前ら、本当にこれ対御堂和真用特殊弾で用意したの!? ねぇこれ本当に俺に効果があると思ったのかな!?」

『隊長! 標的に効果ありません!』

『なんと!? えぇい、次弾装填、てぇ!』


 再び和真の目の前でランチャーが放たれる。放たれた円形の弾は和真の前に落ちることなく、傍で俯せるように寝ていたソフィの脳天に直撃。見た目より重かったのか、ゴンッと言う鈍い音を立てたその弾は、ころころと和真の前に転げ落ち、割れた。

 中から出てきたのは亜麻色とピンク色で装飾されたスマートフォン。ご丁寧にハートマークのシールがちりばめられ、カバーには『御堂和真専用はーと』と書かれている。

 電源を入れてみると、背景は和真とベルイットのツーショット写真。と言うかいつ撮った?


「相変わらず変なところでなんでこう行動的なんだあのバカは……あ」

『隊長! 対象にわずかながらに効果あり!』

『続いて第三弾、装――ンゴッ!?』

『隊長ッ!?』


 次は何が出てくるのか少しワクワクし始めた和真の視線の先で、隊長と呼ばれていた兵士がもんどりうって床に倒れた。その背後に立つのは、巨大なたんこぶを携えた銀色の悪魔。夢見心地のまま叩き起こされたソフィだ。


「……人がいい気分で夢気分。そんな時に騒がしいのは誰?」

『ひっ……!』


 寝起き最悪のソフィが、ゆらゆらと揺れながら周囲の隊員たちを一瞥する。それだけで彼らの間には緊張が走り――、


「今日は折角ヒーローショーの夢見てたのに……。次にやられたいのは、誰?」


 ぎろりと、近くにいたランチャーを構えた兵士をソフィが睨み付けた。彼女が兵士に向って飛び出そうとした瞬間、倒れていた隊長が和真を指差し、叫ぶ。


『対アンドロイド鎮圧用特殊弾、てぇ……ッ!』 

「え、あ、俺のほう!?」


 隊長の一声に、兵士はすぐさま和真に照準を合わせてランチャーを発射。照準を向けられた和真は慌てて両腕で顔を覆うが、それよりも早く、発射された弾に気づいたソフィがぎろりと眼つきを鋭くした。ソフィの鋭い視線は、弧を描いて飛ぶプラスチック製の半透明弾の中身を目聡く捉えた。


「――ッ!? ヒーロー大集合ショーのプレミアムチケット……ッ!? 定価八万円!」

「ちょっ!」


 発射された弾を追うようにしてソフィが和真に向ってダイブ。さながらフリスビーを追いかけるわんこの如く。ぎらつく視線のまま飛び込んできたソフィは、和真の顔面に突撃するような形で放たれた弾をキャッチ。が、当然全力で飛び込んできたソフィの脳天が和真の顔面に直撃。んごっ、と言う情けない悲鳴と共に、二人はもんどりうって床に倒れる。


『効果あり! 確保ッ!』


 もつれるようにして倒れ込んだ和真とソフィを、手際よく兵士たちが一瞬で麻袋を被せて取り押さえる。暴れる和真とソフィだが、狭い麻袋に詰められた二人は抱き着くような形になってまともに抜け出すことができなかった。


『ちょっと、マスター変なところ触らないで!』

『お前こそ変なところ蹴るな! 痛い、超痛い!?』

『それ、なんでマスターがパンツ握りしめてるの! そ、そそそそそれ、それ私の……!?』

『握りしめてない! 一緒に放り込まれただけだ――ってかこれお前のか、どおりでまったく興奮しな――おぶっ!?』


 モゴモゴと動く麻袋を、兵士たちは三人がかりで抱えあげた。そして、もんどりうって倒れていた隊長がのそのそと立ちあがり、部屋の入り口で様子を見守っていたブリジットに敬礼。


『ヒーロー協会所属の金色の英雄――ブリジット様ですね。冬獅郎様とベルイット様より、手厚くお迎えするように言われております。外にヘリを待たせてありますので、どうぞ』


 かけられた声に、傍にいたメリーの頭を撫でながら、ブリジットは髪の毛をかき上げ問いかける。


「そこで袋に詰められた方は?」

『こちらの方は冬獅郎様とベルイット様の要望で、会場へ行く前に屋敷に招待されるとのことですので。あと、ベルイット様たっての要望で、拉致しろと』

「……どおりで」


 ちらりと見つめると、四人小隊ではなく六人。うち二人が取ってつけた様な撮影器具を抱えているのに気づいていたブリジットは、笑うような溜息をつき、頷いた。


「ではご一緒しますの。私も拉致されたくありませんもの」

『決してそのような! こちらのお二方は特別だと伺っておりますので!』

「あら、では私は特別ではないのかしら?」

『め、滅相も……ッ!』

「冗談ですの、周りの住民に迷惑を掛けてしまいますし、いきましょう」

『その点は心配御座いません。この住宅一帯の全宅に睡眠ガスによる制圧を済ませていますので』

「……いきましょう」



 改めて、自分が今から向おうとしている大企業の無茶苦茶度合を知り、ブリジットは兵士たちに気づかれない程度の小さな溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ