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銀色ペルセウス  作者: 大和空人
第三章 蒼色ヘラクレス
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第十五話 英雄は空よりも蒼く

『なるほど。私の実験から同じことをしたというわけか。強制共鳴(シグナルコンタクト)で見た過去は如何だったかな、アリサ(、、、)

「貴方に名前なんて呼んでほしくありません。それに、生憎と私が見たものは過去ではなく――もっと都合のいいもの(、、、、、、、)だけですので!」


 受け止めていた鉤爪を捻りあげたアリサは、そのまま漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の腹に強烈な蹴りを決めた。しかし、


『君も学習しない。君では勝てなかったから、今の君がいるんだがな』

「……っ!?」

「アリサっ!」


 容易に蹴りを受け止められ、逆に足を取られた。そのままアリサは振り回され、投げ飛ばされる。これに反応した和真がすぐにその場を跳躍し、投げ飛ばされたアリサを受け止めた。しかし、足の踏ん張りがきかないままに、和真はアリサと共に地面を跳ね飛ばされてしまう。


『確かに、彼女の洗脳はあまりいい結果にはならなかったようだ。だが、状況に大して変わりはあるまい』


 痛みに顔を歪ませた和真は、敵の声に舌打ちをする。敵の言うように、正直言って状況はそれほど変わらない。アリサを助けたとはいえ、現状まともに戦えるリジィは先日よりはるかに強化されたアンドロイド六体を相手に戦闘中。むしろ六体同時に戦って渡り合っている状況がすでに桁外れだ。


「御堂さん、もう少しだけお待ちなさいな! すぐに私がそちらに……!」

『ご主人様、よそ見しちゃ駄目なのですよっ!』


 聞こえてくるリジィの声に、和真は霞む目をこする。闘志は微塵も衰えてはいない。だが、未だ流れる血の量は既に戦闘不能を刻一刻と近づける。


『マスター! 私が傷口を塞いでいるけれど、それでもこれ以上の無茶は命に関わる……!』

「わかってるよ、んなことは……!」


 震える膝に力を込めて立ち上がる。短期決戦しかない。長引くほど戦闘力は失われ、いずれ必ず負ける。


「御堂さん、ここは私に任せて逃――」

「時間差で突っ込むぞ、アリサ。アイツを空に逃がしちゃ駄目だ。俺達には空で戦う手段がないから、地上で決着をつける」

「人の話、ちゃんと聞いてるんですか!? もう、私は先行きます!」


 逃げ出してしまえばいいのかもしれない。

 だが、この噴水広場はアリサや虎彦の最後の拠り所だ。そんな大切な場所をこれ以上――傷つけさせるわけにはいかない。


「俺が先に突っ込む。アリサは俺の後ろからフォローを……って人の話聞けよ!?」

『マスター、人のこと言えない』

「あぁもう! すぐに助けるッ!」


 切れかかっている自身の能力補助の為、もう一度禁止語句を叫ぶ。全身を駆け巡る血液が握る拳に力を与え、出血の収まらなかった脇腹の怪我の痛みを誤魔化した。そうして和真はすぐに、ソフィの呆れた声を耳にしつつも、駆け出したアリサの後ろを追いかけて走る。


『真正面から向ってくるとは、舐められたものだ』


 先手を取って飛び込んだアリサを軽々と躱す。同時に、漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)にふさわしいほどの巨大な怪鳥の姿は一瞬で鋭い鉤爪を持った人の姿に変化する。記録の中で見た時と同じ、対地上戦特化した姿だ。

 同じ変異型の突然変異種である和真にはわかる。暴走もなく完全に変異を制御できる、これまでとは次元の違う敵。


「っつぁああ!」

「御堂さ――ちょっ!?」


 躱したアリサの背中に振り下ろされた鉤爪を蹴り飛ばす。そのまま体制を崩していたアリサの背中を蹴って宙に跳躍し、回し蹴りを敵の顔面に。だが、やすやすとしゃがみ込んで躱され、裏拳が顔面に迫る。


「っぐ!」


 両腕をガードに回すが、今度は背中を引っ張られた。倒れ込んでいたアリサが和真のスーツを引っ張ったのだ。だが、彼女はそのまま和真を後ろに引っ張り倒しながら敵に向う。


『ちょっと、マスターもアリサももっと協力して戦って!』

「分かってるっての……! けど、アリサ!」

「二人は下がっててくださいって言ったじゃないですか! この人の相手は私が……!」


 倒れ込んだ和真を無視して、再びアリサは敵に拳を向けた。




 敵の攻撃を躱しながらの近接戦闘(インファイト)。その洗練された動きは漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の動きについていってはいるが、決定的なチャンスは作れない。それどころか、完全に遊ばれている。


(当たらない……っ!)


 立ちあがった和真もまた、アリサと並び立って敵に飛びかかる。だが、霞む視線が動きの精彩を欠き、敵に一発当てることも出来やしない。

 しかし、怪我のことよりもなお、和真が集中できない理由は――、


「私が、私が助けるんです……!」


 隣で戦うアリサの姿だ。彼女の姿は既にボロボロ。敵の鉤爪を避けはしても完全に躱せているわけではない。近接で戦い続ければ続けるほどに、彼女の白い身体には無数の切り傷が出来上がってしまう。


『マスター、アリサは……!』

「分かってるよ!」


 彼女はまだ、間違っている。助ける。その気持ちに間違いはないだろうが、今のアリサの戦い方は、助ける事よりもなお――別の物に支配されてしまっていると。

 倒れ込んでいた身体を起こした和真は、攻めあぐねているアリサのもとに駆け出した。


『全く、鬱陶しい』


 ふっと。拳を構えて飛び込んだ和真とアリサの目の前から敵が消えた。


『マスター、上ッ!』

「くそッ!」


 ソフィの声に慌てて反応するが、宙を舞った漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)はそのまま、一直線に反応が遅れたアリサを狙った。

 間に合わない。そう直感した直後、アリサの胴を貫こうと迫った漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の横っ面を、乱入者の拳が捕えた。


『グッ!?』

「そう好き勝手やらせっか!」


 不意を突いた虎彦の拳が漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の顔面にめり込む。だが、唯の人の拳はしょせんその程度。敵の不意こそ突いたが、ダメージにはならない。飛び込んできた虎彦の腹に、鉤爪が叩き付けられた。


「ぬっ!?」


 くの字に虎彦の身体が折れ、ガクリと膝をつく。幸い面で叩かれたのか、虎彦は血のにじむ口元を拭って痛みに耐えていた。腹を抱えて痛みを堪える虎彦を一瞥し、敵はなお向ってきたアリサを虎彦のもとに蹴り飛ばす。もつれ込むようにして倒れ込んだ二人にとどめを刺すべく、漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の身体が膨張した。

 その鉤爪が急速に伸び、虎彦とアリサを貫こうと伸び――、


「うぐっ……!」

『マスター!?』


 間一髪、間に飛び込んだ和真の右肩を深く抉った。白銀のスーツごと抉られ、純白は赤く染まる。それでもなお、和真は伸びきった鉤爪の根元を左手で掴み取り、敵を捕らえた。


『……君は本当に、自己犠牲が好きと見える。君のいる世界は理想だが、君の見ている世界は到底――理想には遠いな』

「お、生憎……! あんた、なんかにゃ、俺のいる、世界は……っ、くっだらないもんばっかだよ……ッ!」


 アリサと虎彦の鼻の先で止まった鉤爪に、和真の血が滴る。その血はアリサの頬に落ち、彼女の頬を濡らしていった。


「なん、で、なんでなんでなんで!? 私が、私が助けるって……!」

「坊主! すぐにそいつから――っ!」

「御堂さん!?」


 鉤爪に引き寄せられるように、和真の身体は漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)に引き寄せられた。そのまま乱暴に傷口の閉じきっていない脇腹を掴まれ、ひね上げられる。


「ぐっ!?」

『痛いか? なるほど。スーツを纏ったところで、肉体そのものに受けた大きなダメージを誤魔化すことはそう長くはできないということか。いい実験結果をくれて助かるよ』

『マスター、マスター……っ!』


 鉤爪はまだ右肩を抉ったまま脇腹の傷も抉られ、和真はもがき苦しむ。そんな和真の様子を見て、すぐにアリサが跳ねるように和真達のもとに駆け出した。だが、敵は和真を連れてそのまま空高くへと飛び上がってしまう。


「御堂さんっ!」

『そう何度も邪魔されちゃ困るんだよ』


 アリサの伸ばした掌は、和真に届かない。為す術もなく和真は数十メートルの上空に連れて行かれてしまった。





 ◆◇◆◇





「すぐに私が……っ」

「よせ、アリサ嬢!」


 空に連れて行かれた和真を追いかけるべく、アリサが跳躍しようとする。それを傍にいた虎彦が掴み、彼女を引き留めた。


「はな、してください! あの人を助けないと! あの人達は私を助けてくれたんです! 今度は私が必ず……!」


 なおも暴れるアリサを、近寄ってきた怪人とベルイットがさらに引き留めた。四人がかりでようやく押さえつけられるようなアリサの様子に、ベルイットは顔を顰めながら、アリサに声をかける。


「今のお主が行ったところでどうにもならんのじゃ」

「じゃあ、ベルちゃんはあの人達を見捨ててここで見てろっていうんですか!?」

「そんなことを言っておるのではない!」

「言ってるじゃないですか! 御堂さんはさっきの傷が酷いんです、あのままじゃ絶対……。私が行かないと――」



 パァンっと。乾いた音が辺りに響く。



「……はぁ」


 深い溜息をつくベルイットの前で、自分の頬を平手打ちした虎彦をアリサは呆然と見つめた。


「アリサ嬢、いい加減目ぇ覚ませ。坊主たちは、お前を死に急がせる(、、、、、、)ために助けたわけじゃねぇんだぞ」

「……っ、でも、でもこれしかあの人達に返せるものなんて……!」

「確かに、坊主は無茶苦茶だ。助けるためなら手段はえらばねぇのも分かる。けどな――」


 虎彦が、視線をベルイットに投げた。虎彦の視線を受け止めたベルイットは大きく頷き、空に連れて行かれた和真を見つめてアリサに語る。


「あ奴は、自分が死のうと思って助ける事なんぞ、絶対ないのじゃ。助ける。その言葉の意味を、和真は今のお主と違う場所に見ておるからの。死んでしまってからでは、絶対に助けられんのじゃよ」

「意味が、私にはわかりません……!」


 アリサの腕を掴んだままの虎彦が、一瞬だけ噴水広場に視線を移す。その視線の先で笑っていた記憶はもう――過去の物。それでも虎彦にとっての答えはまだここに残っていた。


「坊主も、息子と同じってこった。助けるっていうことは――一緒に笑うことなんだろうよ」


 そう言って、虎彦はアリサに笑顔を向ける。美しさも無ければ、愛らしさもない。どこにでもあるような、ふざけきった笑顔。年老いた癖に、なお若さを見せる笑顔。

 だが、その笑顔の奥にアリサは思い出す。

 自分のご主人様――近藤達彦(、、、、)もまた、最後に自分に笑顔を残してくれたことを。


「――――」


 そうしてようやくアリサは気付く。自分が本当にやりたかったことに。


 失った記憶を取り戻したい――違う。

 ご主人様はどんな人だったか知りたい――違う。

 幸せだったか聞きたかった――違う。

 人を助けたい――違う。



 もう一度、心の底から笑いたい――だ。



 あの時の達彦が見せてくれた笑顔に、自分が笑顔を返せなかったから。達彦に助けてもらえていないから。達彦の助けに向き合っていなかったから。たった一瞬前に、あの二人が見せつけてくれた過去の記憶の中でさえも。


「私は……」


 瞳を閉じたアリサを見つめ、虎彦は傍にいたベルイットに声をかける。

 

「ベル嬢。ここはもう大丈夫だ。ベル嬢はブリジット嬢を助けに行ってくれ」

「うむ。だが、あえて言うのじゃ。皆で笑う(、、、、)のじゃぞ!」


 そう言い残し、ベルイットはその場をブリジットの戦う戦場に向って走り出した。

 後に残された虎彦は、顔を伏せていたアリサの隣に並び立つ。頭一つ分の身長差は不思議と、まったく気にならない。アリサの震える肩に気づき、それでも虎彦は空を見上げて不敵に笑った。


「アリサ嬢、お前さんはまだ笑ってねぇ。だからこそ、息子はきっとまだ、お前さんを死なせたくねぇンだよ」

「…………」

「で、おっさんもそうだ。おっさんもまだ笑えてねぇ。だから、行くぞ(、、、)


 虎彦の声掛けに、アリサは一度だけ服の裾で目元を拭い、顔を上げた。真っ暗な空だ。この空の先に、自分を救ってくれた人達がいる。一緒に笑いたい人達がいる。

 だから、


「私は、貴方が嫌いです。貴方のおちゃらけた姿が――達彦に似ていて大嫌いです」

「そいつはちげぇぞ。達彦の野郎がおっさんに似ただけだ」


 虎彦の軽口にアリサは瞳を細めて不満を露わにする。だが、直ぐに空の先に見えた銀色に口を開いた。


「私を纏う(、、)んです。無様は許しませんし、ブランクなんて敗北の理由にさせません」

「そいつはおっさんのセリフだ。二十年程度のブランクで、そこらの化けもんに遅れはとらねぇよ」


 虎彦とアリサは、互いを睨み付ける勢いで視線を交わす。できるかどうかなど、頭の片隅にもない。虎彦もアリサも確信している。

 遥か空の彼方。連れて行かれた仲間を助けるために、二人は互いの拳を空に掲げた。過去から逃げ続けた二つの拳は、もう一度だけ今を掴む。

 そうして二人は、失っていた聖句をもう一度謳う。戦う為でも、復讐の為でもなく。



 ただ――助けるために。



「シグナル、コンタクトォオオッ!」



 高々と重なった聖句が、真っ暗な夜空に響いた。


 


 ◆◇◆◇




『さて、少し話をしようか。こうでもしなければ、君は私の声に耳を傾けはしないだろう』

「なん、のつもりだ……っ!?」


 変異していた頭部が人のそれに戻る。黒いフードで顔を隠した、底知れぬ顔。そこから覗いたのは、薄暗く染まった唇だけだった。


『もう一度言おう。私達は君のいる世界に居たいのだよ。だから聞かせてほしい。君はどうやって禁止語句(トラウマ)を制御した?』

「制御、だって? そんなもん、制御なんて俺は……!」

『制御せずにこうして変身できるものではないのだがな。それとも、君の着ているそのスーツがよほど特殊なのか』

『……っ、貴方なんかに……!』


 和真の襟元を掴み取り、漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)が笑みを歪めた。その悍ましい笑みの下に狂気を感じた和真は、動く左腕で男の首を掴む。


『悪あがきを。どれほど足掻こうと、ここから先の結果は変わらんよ』

「変わる、さ……!」

『なに?』


 和真の一言に、漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)が初めて問い返す。敵の首を掴み返す左腕の力は弱く、拘束を引きはがせるようなものではない。だが、それでも和真の中には直感があった。

 遥か彼方。先ほどまで自分達がいた場所で確かに見えた、透き通るような蒼の光。誰よりもその光の意味を知る以上、絶望など微塵もない。

 それに、触れて(、、、)しまっているのならば、見せつけてやる。コツはもう、掴んだ。


「ソフィッ!」

『っ、イエスマスター!』


 和真の掛け声に、ソフィもまた一瞬で思惑を理解してくれる。一体となった互いの心が繋がるように、笑みが不敵に染まる。そんな和真の表情を見た漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)の顔が吃驚に歪んだ。この左手が掴む意味をようやく敵が知ったのだ。だが、それでももう遅い。


「シグナル、コンタクトォオオッ!」

『よせ、や――があああッ!?』


 掴み取った左腕を通じて、ソフィの中のトラウマを目の前の敵に流し込む。できる限り悍ましい記憶だけを鮮明に。自分の脳裏にすら焼き付けられる絶望を、目の前の絶望にも妬きつけていく。


『き、ッさまぁああアアアアッ!』

「ぐ、あああっ!?」


 両肩に鉤爪が深く突き刺さる。だが、直ぐに自分の身を包むソフィが抉られかけた肩のスーツの密度を上げ、自分を庇ってくれる。


『御堂、和真ぁアアッ!』

「どう、したよ……! 余裕な表情が、消えてるぞ……っ!」

『良い、だろう! そんなに死に急ぎたいというのなら……! 私を、見ろッ(、、、、、)!!』


 ぐにゃりと、男の顔が膨れ上がった。顔だけではない。和真を掴む鉤爪が、目の前の男の身体が膨張し、引き締まり、和真の背の倍はあろうかと言う巨大な化け物へと姿を変える。

 先ほど見た時と同じ、まさに漆黒の怪鳥(ドンキホーテ)のソレに変異したのだ。


「……ッ!?」


 その鋭い嘴が大きく開く。人一人の頭など軽く食いちぎるような強靭な嘴が。鉤爪で両腕を抑え込まれていたままの和真の頭を狙って、嘴が伸び――、




 ――グンッ、と。



 和真の目の前に迫った嘴が、何かに押さえつけられた。否、縛り付けられたのだ。


『んうッ!?』


 遥か下方。届くはずのない距離から延びてきた、燃え上がるような赤。和真の顔を食わんとした嘴が、伸びてきた赤い帯(、、、、、、、、)に押さえつけられたのだ。ピンッと張っていたその赤い帯が、次の瞬間には一気に和真達を地上へと引き寄せていく。

 それはまるで、伸びきったゴムを引き戻すように。


「うおっ!?」

『マスター、受け身!』


 ソフィの声に気づき、和真は締め付けの弱った鉤爪を押し返し、拘束から抜け出す。そのまま敵の巨体を蹴りつけ、落下する中で一気に距離を取った。だが、そこまでだ。痛む両肩と脇腹が和真にそれ以上の力を奪い、為す術もなく落下し――受け止められた。


「よぉ、坊主。助けるのが遅れちまってすまねぇな」

『ちゃんと生きてますよね、御堂さん!? 虎彦、ちょっと頬抓ってください! こう、思いっきり捻りあげる感じで!』

「しっかたねぇなぁ。おっさん、面倒事嫌いなんだが」

「いってててて!? だからそこでなんで俺の頬を抓るの!?」


 頬に走った痛みに、和真は暴れながら地面に落ちた。ゴンッと言う音と共に頭をしたたかに打ち付け、自分を受け止めてくれた彼の姿を見て息を飲む。


 空色よりも蒼いバトルスーツ。一片の曇りもなく、一遍の迷いもない蒼。背広の上からだけじゃわからなかった虎彦の強靭な肉体がそこにはあった。右腕には白金に染まる無骨な鉄腕が。左半身だけで揺れる蒼の外套。膝丈までの黒のブーツ。首元に戻ってきた――真紅のマフラー。

 デザインは和真やブリジットと同じ、貴公子然とした派手なスーツ。



 ――まぎれもない、正義の味方の姿。



 ボリボリと蒼く染まった短い髪の毛を弄る虎彦は、不敵に笑った。



「さぁ坊主。この戦場をさっさと終わらせんぞ」


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