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銀色ペルセウス  作者: 大和空人
第一章 銀色ペルセウス
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第二話 二つの提案

「はぁ……。ただいま、俺」


 大きな溜息をついて玄関の戸を閉める。そのまま誰もいない家の中に向って投げやり気味に帰宅を宣言。すぐに靴を脱いで自宅に上がる。廊下を抜けて居間に入った和真は、机の上にかばんを置いてソファに倒れ込んだ。


「あぁもう最悪だ……」


 先ほど助けてしまった少女達の姿を思い出し、和真は頭を抱える。なんて浅はかな行動を起こしたのだろうかと。俯せに倒れ込んだ身体を仰向けにし、天井で明るく光る蛍光を片手で遮る。

 そうして、自らの掌が震えてることに気づき、和真は自嘲した様に笑った。


「なんで知らんぷりできないかな、俺は……。怖いだけだろ、人助けなんて……」


 脳裏を霞む映像に和真は頭を振って体を起こす。時間は既に夕食時を過ぎており、和真は食事支度を済ませようとソファを立った。が、すぐに鳴り響くチャイムの音に和真は眉をしかめる。

 ここ最近しつこい新聞屋だろうかと頭を抱え、和真は居間を出て玄関へ向かう。そして、その扉を乱暴に開け、そこにいる訪問者に呆れた声をかけた。


「あぁ、はいはい。新聞の勧誘なら間に合って――」

「……新聞じゃない。正義の味方の勧誘」


 かすれたおじさんの声などではなく、どことなく気の強い小さな声に和真はあっけにとられる。

 そうして声の聞こえた先――自分の胸より低いところへ視線を向けた。半目だけ開いた面倒臭さそうな瞳。銀色のツインテール。白黒のゴスロリ。この場に全くもって似つかわしくない少女が、吐き捨てるように和真に向って宣言した。


「言ったはず。貴方は正義の味方になることが決まったって」

「……は? は、はぁ!?」


 突然のことに頭のまわらない和真は、なんと応えたものか言葉を探す。だが、そんな和真の様子を知ってか知らずか、ソフィの背後からもう一人の声が聞こえてきた。


「上がらせてもらってもいいかしら? 少し話をさせてもらいたいんだけどね」



 ◇◆◇◆



「博士、本当にこの人を選ぶの?」

「えぇそうよ。ここに来る前にもう何度も話したでしょう?」

「……納得できない」

「いや、納得できないの俺なんだけどね。てか、もういいよね、もうツッコんでもいいよね?」


 居間の扉の傍で立つ和真はすぅっと息を胸いっぱいに吸い込んだ。そして、


「なぁんで俺の憩いの我が家に上がりこんでんだ!? ソフィは分かるが、あんた誰!? なし崩し的に上がって来たけどあんた誰!?」


 ひとしきり大声で叫んだ和真の正面の食卓に二人の女性。一人は先ほど廃墟で出会った銀髪ツインテールのむっつり顔、ソフィ。もう一人は彼女と同じ銀色の髪の毛をした大人の女性。白衣に身を包んで笑顔を崩さない美人だ。齢は三十に届くかどうかという若さである。


「鋭いツッコミありがとう。お姉さん感激だわ。あ、自己紹介がまだだったわね。私は来栖桐子。ヒーロー協会の研究開発部門の所長よ。宜しくね」

「いや、そう言う問題じゃなくて!」


 丁寧に差し出された名刺を受取りながらも、和真はげんなりした気分で来栖桐子と名乗った女性を睨み付けた。だが、やんわりとした笑みは崩れることもなく、和真は自分の部の悪さを理解して項垂れてしまう。

すると、ソフィが頬を膨らませて桐子の白衣を引っ張った。


「博士、さっさと話を終わらせる」

「えぇそうね。御堂君、少しお話いいかしら?」


 さり気に勝手に自宅に入り込んでいることはスルーされてしまった。小一時間個人情報保護について問いただしたいが、桐子が全く崩さない笑みの前に和真は一言、話だけならとだけ伝えて食卓に座った。


「ソフィの記録映像を見てびっくりしたわ。突然変異種を蹴り飛ばす人間なんて聞いたことないもの。貴方、すごくいい身体してるわ」

「はぁ……」


 興奮気味に語る桐子をよそに、その隣に座っているソフィに視線を移す。


「ぷぃっ」


 そっぽを向かれた。どうにも彼女はこちらに悪い印象を持っているらしい。別段何かした記憶など和真にはこれっぽっちもないのだが。


「それで御堂君。本題なんだけど」

「え、あぁはい。なんですか? 聞くだけ聞きます」


 名前を呼ばれ、慌てて和真は桐子に向き合った。すると、彼女は笑みを歪めて和真に問う。


「貴方、正義の味方にならないかしら?」

「いやです」


 想定の範囲だった答えに、間髪なく和真は断った。しかし、桐子はそれでも笑みを崩さない。それどころか、懐から雇用契約書を取り出したかと思うと、和真の目の前で重要事項に赤ペンを走らせていく。


「まずはここを見て。ヒーロー契約を結べば、三食昼寝までの保証が入るの」

「いやです」

「さらにさらに、今なら安心の各種生命保険付き。毎月千円札一枚で終身保険までつくわ」

「いや、です」

「まだ高校二年生って話だし、労働基準法に基づいて業務は深夜には入れないわ。それでも月給七十万の業績給付。将来の幹部候補にもなれるわよ」

「い、いや……です」

「あぁそれと、ここが重要ね。正義の味方になったら、女の子にもてもてよ。この統計を見てみて。これは二十代の男性ヒーローの平均交際人数なんだけど――」

「…………ゴクリ」

「今なら協会最新鋭の変身ベルト型アンドロイド、ここにいるソフィも付けるわ。これならどう?」

「いや、こいつはいらないかな。もう少しおしとやかなタイプなら――いっ!?」


 スマイルを見せると、桐子の隣に座っていたソフィの爪先が和真の脛を蹴り飛ばす。突然のことに椅子から転げ落ちた和真は足を抱えて床を転げまわった。


「失敬、失敬すぎる! 月給に目がくらんで、私を断る理由の説明が必要!」

「脛を蹴るな脛を! 俺の泣き所だぞ!?」

「あらあら。ソフィ、ステイ」

「う……イエス、博士」


 桐子の指示に唇を尖らせたソフィが従う。一度だけ和真を睨み付けたソフィは、席を立ってムッツリ顔でソファの前に座り込んだ。黙っていれば愛らしくて可愛い人形みたいな少女だ。

 黙っていれば。

 彼女の威嚇する視線を受け止めた和真は、痛む脛をさすりながら眉をしかめる。


「あの、桐子さん?」

「桐子さんなんて馴れ馴れしい。来栖博士って呼んで」

「馴れ馴れしいのお前の方なんだけどな」


 ソフィにツッコミを入れつつも、笑いを堪える桐子に向かい合った和真は再び問いかける。


「あの、来栖博士。その、こいつって……」


 和真の指差した先のソフィに視線を向けた桐子は、胸を張って応える。


「えぇそうよ。私の開発したヒーロー協会最先端技術の結晶。正義の味方の生命線であり、最強のパートナー。変身ベルト型アンドロイドのソフィよ。ソフィ、挨拶」


 桐子の指示に、ソフィがえっと言わんばかりに顔を顰めた。だが、彼女にとっては桐子の言葉は絶対なのか、ソフィは渋々ながらも和真を見つめて名乗り上げる。


「……変身ベルト型アンドロイドの、ソフィ。宜しくしなくていい」

「挨拶ってこんなにも人を傷つける言葉でしたっけ?」

「当然。私は最先端技術の塊。ふふん」

「アレだな。自分で最先端っていう技術ほど信じられるものはないな。はっはっは!」

「目からビーム」

「うぎゃああああ!?」


 突如としてソフィの眼から延びた光に和真は顔を押さえて叫び声をあげた。マズルフラッシュに目を焼かれた和真は床をのた打ち回る。


「あぁ、その子私の世話をお願いするのに何気に家事全般の機能も完璧よ。今のは目玉焼きを作るときに使うビームなの。他にも口から炎で洗濯物乾かしたり、胸で洗濯もできるわ」

「それって別に機能じゃなくてこいつの胸がただの洗濯板――いや、なんでもないからもうそのビーム止めてお願い」


 真っ赤な顔したソフィの無言の瞳が、絶対零度に妖しく輝き、彼女に平謝りした和真は立ち上がった。焼けた目をこすりながらも和真は再び桐子の前の椅子に座り直し、荒れた息を整える。


「じ、事情は分かりました」

「それはよかったわ。なら、いい返事も一緒にもらえるかしら?」

「いや、はっきりと断らせていただきます」

「あら」


 意外と言わんばかりに驚きを露わにした桐子に、和真は頭を下げて断りを入れる。


「別に、ヒーロー協会とか正義の味方をどうっていうつもりはなくて。ただ、俺、誰かを助けるとかってのが苦手で。だから……」

「正義の味方にはなれない、かしら?」

「……はい」


 そう、とだけ告げて桐子が黙ってしまう。息の詰まりそうになる空気に、和真は言葉を探した。

 すると、そんな和真の前で桐子が和真に頭を下げる。


「わかったわ。私達もちょっと話を急にし過ぎたみたい」

「あ、い、いや……こちらこそすみません、なんか」

「ううん。なら、次は別の仕事の話でもしようかしら。そうねぇ、うちの研究室で変身ベルト型アンドロイドの装着被験者を見繕ってるんだけど。他にはスーツ着用時の耐衝撃実験の人体実験被験者とかとか。あ、新薬研究なんかでもいいわよぉ。御堂君って頑丈そうだし。ちょっとぐらい無茶な薬でも平気そうだもの」

「え? あ、あの……」


 ふと、和真の胸の内を不安なものがよぎる。桐子の微笑が、実は今からが本番ですと言わんばかりに輝いている。


「あ、いや俺……!」


 慌ててもう結構ですと告げようとした和真だったが、


「ワシの嫁御堂和真よ! さぁワシと共にアンチヒーローの活動に行くのじゃ!」

「まず俺に教えて。どこから飛び出したのか三文字以内で答えて!」

「あ、そ、こ。にょほ」


 唐突にソファの下から飛び出してきた亜麻色髪の少女。満面の笑顔に自信たっぷりの仁王立ちで登場した彼女は、先ほどソフィと一緒にいたアンチヒーローの自称幹部、ベルイットだ。

 彼女の指差す先――ソファの中を確かめると、床に大きな穴が空いていた。そこから覗くのは愛らしいモグラの顔をした怪人。つぶらな瞳がとってもキュート。


「…………」

「むきゅっ」

「ど、ども」


 大きな爪を振り上げて挨拶をしてくれたモグラ怪人に和真も挨拶を交わす。床下にできた穴をその大きな爪を器用に使い、モグラ怪人は懐から取り出した板で塞いでいく。言葉を無くす和真の目の前で、出来上がっていた巨大な穴は開き戸式の綺麗な床へと変わり、モグラ怪人さんの姿は床にできた扉の奥へと消えていった。

 呆然とする和真の背を、近くにいたソフィが物知り顔で叩く。

 不思議と、熱い何かが和真の頬を伝った。


「おぅおぅおぅ、ヒーロー協会の女狐め! アンチヒーロー作戦参謀のこのワシ、ベルちゃんがここに来たからには、ワシの嫁を奪おう何ぞ、百年早いのじゃ!」

「あらあら、久しぶりねベルちゃん。ソフィとは仲良くしてくれてる?」

「あ、もちろんなのじゃ――ではなく、ではなく! ずるいではないか桐子! 和真はワシのほうが先に目を付けたのじゃ! それを大人の色香でたぶらかそう何ぞ、ワシらアンチヒーローに負けず劣らず卑怯なのじゃぞ!」


 騒ぎ立てるベルイットを大人の余裕でいなす桐子の姿を見て、和真は再び強い決意と共に立ち上がる。


「おいお前ら! もう本当にいい加減にしろ! 俺は正義の味方になんてならないし――」

「そうじゃ! 和真はアンチヒーローに入ってワシの嫁になることに決まっておる!」

「そうだ、俺はアンチヒーローに入――入らねぇよ!? いつから俺がお前の嫁になった!?」

「いつもも何もさっきお主が助けてくれたではないか。そんなお主にワシぞっこん。こう見えてもワシは一途じゃぞ。きゃっ、言っちゃったのじゃ!」

「なんなの、なんで俺の周りってこんなに人の話聞かない女ばっかりなの!?」


 腰元に抱き着いてきたベルイットの顔面を必死になって押し返す。だが、身体が柔らかいのかエビぞりになっても離れようとしない。軽くくの字を超えているのだが。


「あらあら、御堂君。私達正義の味方であるヒーロー協会の誘いは断っても、アンチヒーローの誘いは断らないのかしら?」

「いや、だかどっちも断ってます!」


 何とかベルイットを引きはがした和真は荒れる息を整えながら、ベルイットの首根っこをひょいっと掴み上げた。そのままきっと眼つきを強くし、桐子とソフィを睨み付ける。


「とにかく、これ以上はもう勘弁してください! 何度も言うけど、俺は人助けなんてしたくないし、正義の味方にもなるつもりなんてありません。人助けなんてしたって……、最悪な気分になるだけですよ」


 胸の奥から絞り出した和真の言葉に、ソフィはムッと顔を顰めて和真の正面に立った。そのまま彼女は和真を睨み付けるように見上げて、静かに尋ねる。


「人を助けるのに、見返りがいるの?」

「……っ」

「ソフィ、止めなさい」


 彼女の問いかけに、和真は思わず胸を掴む。二回りも背丈が違うというのに、彼女は全く臆することなく自分を見つめ、心の底から答えを求めてくる。桐子が彼女を止めようとするが、ソフィはその指示に従うことなく、和真を見上げ続けた。


「私達は、人助けに見返りなんて求めない。そんなの、正義の味方じゃない」


 真剣な瞳に射抜かれ、和真は彼女の問いに答えを返すことはできない。


「貴方が人助けを嫌いだっていうのは、別に構わない。でも、その行為を否定なんてさせない。人助けは私の誇り」

「なんで、そこまで自信を持って言えるんだよ?」


 ソフィの物言いに、和真は痛む胸の奥から問いかけを彼女に投げた。すると、ソフィは自身の胸の前で両手を組み、自信を持って答える。まるで自分がそうであることを疑うこともなく。


「私は人を助けるために生まれたから」


 ソフィの言葉に、和真は息を飲んだ。人を助けるために生まれた。そう答える彼女の姿は、不思議と和真の目に焼付いてしまう。眩しいほどに疑わない力強さだ。

 だからこそ、自分は彼女の視線を受け止めることなどできはしない。


「……さっきの言葉だけは訂正しとく。でも、それでも俺は人助けなんてしたくない」

「…………」

 

 もはや睨みあう勢いで、和真はソフィに言い返した。ポケットに突っ込んで隠した拳は震え、彼女達にそれをばれないよう、和真は必死になって記憶の底から這いあがろうとする恐怖を隠す。

 だが、そんな重い空気さえ見せるソフィと和真の間に、ひょいっと亜麻色髪の少女が割って入った。


「残念じゃが、ソフィ。こやつは既にわしの嫁。お主になど渡さんのじゃ!」

「いや、別に俺はお前の嫁じゃないんだけど」

「ほれほれ、桐子。そろそろお暇するタイミングじゃぞぃ」

「そうね。これ以上迷惑掛けちゃってもなんだし、また日を改めさせてもらうわね、御堂君」


 ベルイットの提案に、桐子が和真を見つめたままのソフィの腕を引く。ソフィは一瞬だけ迷うような表情を見せるが、直ぐに、


「……ぷいっ」


 と言ってそっぽを向き、和真に背を向けた。すたすたとそのまま無言で部屋を出ていこうとするソフィの様子に、桐子は苦笑いを見せて和真に頭を下げる。


「今日会ったばかりだもの。できればあの子のこと、嫌いにならないでくれると嬉しいわ」

「……嫌いになるも何も、それこそ今日会ったばかりですよ」

「えぇ、そうね」


 和真の答えにふっと笑みを残す桐子は、居間を出て行ったソフィを追いかけて和真の自宅を去っていく。彼女達の背を見送った和真は、大きな溜息をついてソファに倒れ込んだ。


「はぁ、ったく、一体なんだってんだよ」

「なんなんじゃろうのぅ?」

「いや、何とぼけた顔して人の膝の上に座り込んでんだ」

「にょほっ!? こ、こりゃ和真! 脇の下に手を入れるでな――うひゃひゃひゃ!?」


 何食わぬ顔で自分の膝の上に座ったベルイットの両脇を抱えて持ち上げ、和真は立ち上がる。何とも色気のない下品な笑い声にげんなりしながらも、和真はベルイットを抱えたまま玄関へ向かい、足で扉を開いた。

 ひょいっと門前に彼女を下ろした和真は、座り込んだベルイットの前にしゃがみ込んで視線を合わせる。


「お主! 嫁の扱い方がなっておらんのじゃぞ! 脇に触るなど、わし、照れちゃう。ぽっ」

「ぽっ、じゃねぇよ。そんな心にもないテレが俺に通じるもんか」


 ツッコむ和真にもにへっと言わんばかりの笑みを見せるベルイットの様子に、和真は毒気を抜かれてしまう。見渡せばあたりは暗くなっているし、このまま彼女を一人で帰らせるというのも、目覚めが悪い。

 軽く項垂れる和真は、ベルイットの手を引いて立ち上がらせ、辺りを見回した。


「もう遅いからな、送っていくよ。で、どっちに行けばいい?」

「うぬ? お主からの提案は嬉しいのじゃが、心配いらんのじゃよ。わしには頼りになる護衛たちがおるからの」


 そう言ってベルイットが腕を振り上げて指を鳴らす。パチンという小気味良い音が鳴ると同時に、和真の立っていた地面が膨れ上がり、さらには周囲の建物の屋根から人の形を為した影がベルイットと和真の間に飛び込んできた。


「ふふん。わしもアンチヒーローの幹部。いつどこじゃろうと、その気になればこうして怪人達を呼ぶことだって造作ないのじゃ!」


 そう言って胸を張った彼女の目の前に、折り重なりあうようにして着地に失敗した怪人が三体。屋根から飛び降りてきた虎顔の怪人と鶏顔の怪人が、地面から穴を掘って登場した先ほどのモグラ怪人の真上に着地しこけたのだ。

 頼りない事この上ないが、人助けが嫌いな自分に比べれば比較するのももったいないほどの護衛だろう。


「分かった。なら、気を付けて帰れよ」

「うむ。最後まで心配かけたの、和真。わしはお主のそう言うところ好きじゃぞ。ぽっ」

「い、いちいち危ういところに抱き着こうとするな! キスも迫るな! と、とにかくじゃあな!」

 

 抱き着いてくるベルイットを引っぺがし、和真は彼女に背を向けて別れの言葉と共に手を振って家の中へと戻っていく。そして、扉を閉じる和真の背に、彼女の嬉しそうな声が届いた。


「うぬ。また明日なのじゃ、和真」

「冗談じゃない、これっきりだよ」


 彼女の言葉に不吉なものを覚えながらも、和真はようやく静かになった我が家の鍵をかけ、疲れ切った心身を休ませるべく、ベッドの中に潜り込んだ。

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