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銀色ペルセウス  作者: 大和空人
第一章 銀色ペルセウス
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プロローグ "助けて"

以前連載していたものの誤字脱字を少し修正したものになります。

他話数ものんびり修正して掲載していきます。

「ふわっ……あ……」


 腕に顎を乗せたやる気のない体勢。明かりの消された教室。

 クラスメイト達が欠伸をかみ殺して見つめる先には、プロジェクターに映し出された変身ヒーローの姿。割とそう、日曜の朝八時ぐらいからあってそうな服装と仮面を被った正義の味方の映像。

 そんな正義の味方と別に映し出される映像には、変身ヒーローに劣らず千差万別の姿をした怪人達。愛らしい狸だったり凛々しい虎だったりとどこか剽軽な姿の怪人達は、正義の味方と共に街の人々を守っている。

 そして、正義の味方と怪人がともに戦っているのは、吐き気を催す程悍ましい化け物だった。


「えーであるからして、私たちの国日本では突然変異種に対抗する手段として、正義の味方有するヒーロー協会と、怪人部隊を率いるアンチヒーローの二つの組織がいるわけです。この辺りテストに出ますからね」


 女性教師の鞭撻と共に、プロジェクターから映し出された映像が止まる。ようやく灯った教室の明かりに生徒たちは一瞬だけ瞳を閉じ、気のない返事を返した。

 彼らと同じように授業を受ける一人の青年、御堂和真もまた、女性教師の授業を軽く聞き流しながら凝り固まった肩をほぐす。和真の様子に気づいた隣の席に座る友人が、小声で話しかけてきた。


「なぁ御堂?」

「どうかした?」

「お前ってさ、突然変異種のことどう思う?」

「別に何とも。俺はその言葉自体好きじゃないし、関わり合いにならなきゃどうってことないだろ」


 ニヤリと笑ってきた友人の顔を見て、和真は愛想笑いを返した。


 ――突然変異種。


 人は誰しもトラウマを持つ。中でも、精神に異常をきたすようなトラウマを持ち、それを連想させる『禁止語句』と『環境』を向けられることによって特殊な能力を発揮する人間のことを、人は突然変異種と呼ぶ。

 先ほどの映像で、怪人と正義の味方が共に戦っていた相手が突然変異種である。

 遥か昔から人の手の及ばない力を発揮する突然変異種を取り締まる組織として、日本には二つの巨大な組織が存在していた。


「じゃあアレだ。ヒーロー協会とアンチヒーロー。お前ならどっちの組織がいいよ?」


 友人の言葉にもある二つの組織。

 一つが、特撮ヒーローを現実のものとしたヒーロー協会。変身ベルトによって一騎当千を為す正義の味方の力で突然変異種の無力化を主として貢献する組織。

 そしてもう一つが、戦闘用アンドロイド――通称怪人を有する組織的行動力で人々の救助に重みを置くアンチヒーロー。

 どちらも、互いの動きを牽制しつつも突然変異種の犯罪取締りを政府から請け負う組織だ。


「さぁね。俺はどっちも嫌いだし。関わりたくないじゃん、そう言う厄介事」

「あ、出たよ出た。気のない発言」


 和真の返答を聴いた友人は苦笑いしながら首を振った。友人は教師が黒板に向うのを確認して、和真の耳元に口を寄せてくる。


「せっかく日本には本物の正義の味方と秘密結社があるんだし、どっちか応援するだろ普通。どっちも政府から認められた組織なんだからさ」

「……ま、そりゃそうなんだけど」


 教師がこちらに視線を向けたのを確認し、慌てて友人が離れていく。舌を出しておちゃめに笑った友人に、和真は軽く溜息を返して教師に視線を戻した。

 十分ほどして、教室の黒板上に備え付けられた時計で時間を確認。


(そろそろ授業も終わりだな)


 そのまま和真は窓の外に視線を移す。

 本日は土曜日。午前中で授業も終了。退屈な時間を過ごした後の和真に待っているのは、唯一の趣味――散歩。


「はい、それでは本日の授業を終了します。皆さん、気を付けて帰ってくださいね」


 鳴り響くチャイムと共に、和真は手早く机の上の勉強道具を鞄に仕舞い込み席を立った。落ち着く時間すら無視して教室を出ようとする和真に、友人が慌てて声をかけてくる。


「あ、御堂。今日隣町の女子高の子と合コンあるんだけど、一緒に――」

「悪いパス。だって今日天気良いからな。それに、お前の選ぶ子ってロリっぽい子ばっかりだし」


 すぐさま手を振って友人の誘いを断った。友人はそんな和真に呆れたように頬を掻く。


「あー……、お前ってそうだもんなぁ。天気のいい日はいっつも一人で散歩だっけ? 楽しいか、それ?」

「楽しいってのとはちょっと違うかな。気楽なんだよ、散歩するのが」

「……おっけ。お疲れ御堂!」

「それじゃあ、また来週な」


 呆れ顔の友人と別れ、和真は鞄を肩に預けて学園を出た。



◇◆◇◆



 御堂和真、十七歳。中肉中背で散髪に行き忘れた髪は多少伸びてしまっている。学園でも割と影の薄い普通の高校生。両親を早くに事故で失い、一軒家に独り暮らし。

 そんな御堂和真の趣味は散歩。空高く上がる太陽の日を浴びて人気のない場所を一人で歩く。和真にとって一番心安らぐ大好きな時間である。

 この日、和真は学園が終わった後、一人になれる場所を探して街を出た。土曜ということもあって普段の散歩コースにも人が多く、和真は少し遠出をすることを決めた。

 人気の少ない通りを選んで抜け、廃れた山道を歩き、和真はふと影を落とし始めた空を見上げる。

 物思いにふけりながらの散歩道。この上なく幸せなひと時。

 だが、そんな和真の耳に届く小さな悲鳴。


 ――助けて。


 この小さな悲鳴が、日差しを受けて項垂れた御堂和真の物語のプロローグを飾った。

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