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第5話 幼馴染の不安

 「カズちゃ~ん! こっち、こっち!」

 

 

 人通りの多い繁華街

 今日は休日ともあってか家族連れ、カップルの姿が至る所で視界に映り込む。

 そんな人並みの中で我が幼馴染である、あすかは小さな体全身を使って、こちらに手を振っていた。

 俺、伝馬和弥はそれに呼応するように手を軽く挙げ、幼馴染の元へと歩を進めていく。

 

 良い年の男と女が休日に待ち合わせ。

 まるでデートの様な、シチュエーション。

 彼女いない歴=年齢な俺からすれば、リア充爆発しろな展開。

 なのだが……


 「ふふっ、今日はカズちゃんとデートだぁ!」


 どうも俺は爆発しなければならないようだ。

 俺は今日、幼馴染とデート……するみたいです、はい。




 事のきっかけは、数日の前の話。

 俺は校長に荷物を運ぶことを頼まれていた。(第4話の内容)

 その際にあすかが荷物を持つのを手伝う代わりに、ある提案をしてきた。

 それが「デート」の約束である。

 

 あの時は重さに耐えるのでいっぱい、いっぱい。

 そのことに考えが回らなかったのだが、良く考えれば一大事である。

 先程も述べたが、俺は彼女いない歴=年齢な男。

 もちろんそんな人間にデートの経験などあるはずもない。

 今更ながら、俺は異常なくらい慌てていた。


 『いっ、いや! どうせあすかはただ遊ぼうって俺に誘っただけだろう。今の子は女の子同士で遊ぶ時にもデートって単語使うらしいし!』


 脳内を全開に働かせ、自分を落ち着かせていく。

 たかがデートに何を慌てているんだと思う方もいるだろう。

 でも、これがモテない男の現実。慣れないことには極端に恐れてしまうのだ。


 『だから普段通りで問題ナッシング! さっ、さすがに遅刻はヤバいから早めに寝るかな!』


 無理矢理自己完結して、昨日は床に就いたのだった。

 ちなみにベットに入った時間は、夜の8時。相当なチキン野郎。

 それも結局、緊張で一睡も出来なかったのはここだけの秘密である。


 

 「う~ん、カズちゃん。まずはどこに行く? わっ、私はカズちゃんが一緒ならどこでも良いよ!」


 繁華街を歩きながら、これからの行動についてあすかと話し合う。

 人が多いためか、隣にいるあすかが自然な雰囲気で腕を組んでくる。

 突然の行動にドキリとするも、ここは冷静に対処を


 「おっ、俺もどこでもいいにょ」

 「……にょ?」


 訝しげなあすかの視線が痛い。まさかあの台詞量で噛むとは……

 つうかこれは仕方がないだろう! デート素人の俺に腕組みは難易度が高すぎる。

 それにあすかもいくら幼馴染とはいえ、いきなり腕を組んだりとか。

 ガードが甘過ぎてお兄さん不安になってしまいますよ。


 「ゴホン、俺もどこでも良いよ。あすかが誘ったんだ、あすかの行きたい所に行こう」


 テイク2。言いなおして、次にはちゃんとした返事を返す。

 しかし、この回答にあすかは不満なのか


 「えぇ~、今日くらいはカズちゃんに決めてほしいなぁ」


 そんなことを言う。

 と言われても何度も執拗に言うが、デートなど俺はしたことがない。

 悲しい話だがデートらしい場所、女の子の喜ぶ場所など分かる訳がないのだ。

 なら、もうここはひとつ開き直って


 「じゃあ、アニ○イト」


 「却下」


 一瞬にして否定されました。

 

 「ちょっと、否定が早すぎやしませんか。それも少し食い気味だし」


 「そりゃ食い気味にもなるよぉ。デートでアニ○イトって、どうしたらそのチョイスになるんだか」


 「それならメ○ンブックスとか、とらの○なに変更するか?」


 「そういう問題じゃないよぉ!!」


 甲高い声を響かせながら、可愛らしく怒りを振りまく我が幼馴染。

 

 「でも、あすか。お前だって俺と同じ立派な」


 「今はそういう話じゃないの! デートなんだから、デートらしい所行こうよぉ!」


 「デートらしい……所ね。逆に聞くけど、あすかのデートらしい場所ってどこなんだ?」


 俺はあすかへと質問をぶつける。

 突然のことに少し驚いた表情を見せるも、数秒の間の沈黙。

 その後


 「水族館……とか? とき○モでそんなイベントあったし」


 「ゲームの話かよ!」


 ツッコミを入れずにはいられない。

 

 「だっ、だってぇ! 私、デートなんかしたことないし」


 そんなあすかの弱音も聞こえてくる。

 どうやら俺ら幼馴染コンビは、不幸にもデート未経験なコンビだったようだ。

 こんな二人が世間一般のリア充達のようなデートをするとか……

 トム・○ルーズも真っ青なミッションである。


 どうしたものか……

 そう思って周りを見渡していると、視線には馴染み深い場所

 ゲームセンターが視界に映り込んできて


 「なぁ、あすか」


 「どうしたの? カズちゃん」


 「ゲームセンターって、立派なデートスポットだよな?」

 

 そんなことをあすかに向けて言ってみる。

 すると少し戸惑いながらも


 「そっ、そうだね! 確か、とき○モの選択肢の中にもゲームセンターってあったよ」

 

 またゲームかよと思わなくもないが、少なくともコ○ミのスタッフさんはゲームセンターをデートスポットと認識しているみたいだ。


 「なら、あすか。行くか、ゲームセンターに」


 「だね! よぉし、久しぶりに格ゲー……じゃなくて、プリクラでも撮ろうっかな!」


 ギクシャクした雰囲気でゲームセンターへ入店していく俺達二人。

 こうして、俺達のデートは波乱の幕開けとなったのだった。



 結果から言おう。

 デートらしいデートはまぁ、綺麗に失敗をした。

 最初に選んだ場所がゲームセンターってのが良くなかったのだろう。

 初めはデートと言うことを念頭に置き、行動をしていたのだが

 あすかが言った「少し格ゲーやってみない?」の一言が全てを崩壊させていった。


 気付いたら、デートと言う名のバカ騒ぎへと変化。

 思う存分にゲームセンターを楽しんでいたのだった。



 「カズちゃん。結局、デートらしいこと出来なかったね」


 「まさか夕方までゲーセンで入り浸ることになるとはな」


 ゲームセンターを出て、公園へと立ち寄った俺達はベンチに座りながら今日の一日を振り返っていた。

 もう時間は18時。空を眺めれば、夕焼けが目にしみる時間帯だ。


 「でもぉ、なんか楽しかったね。本当に楽しかったよ、カズちゃん」


 しみじみとあすかが言葉を紡いでいく。

 先程までのゲーセンでの様子とは一変して、少し哀愁のある姿だ。


 「どうしたんだよ、あすか。さっきまでバカ騒ぎしてたあすからしくないな」


 少し冗談交じりに言葉を返す。

 するとあすかは少しの間黙り込み、その後ゆっくりとこちらへと視線を向ける。


 「だって、またこうやってカズちゃんと遊ぶことが出来るなんて……思えなかったから」


 俺に向けて柔らかな笑みを浮かべる。


 「私、寂しかったんだ。カズちゃんがあっちに行っちゃってから。手紙は貰うけど、何年も姿を見れなかったし」


 あすかは視線を下に向ける。肩が震えているのが嫌でも分かった。


 「やっと再会出来たと思ったら、今度はカズちゃんが私の先生だよ? もう本当にびっくりしたよぉ」


 地面に水の粒が落ちているのが見える。涙の痕が広がっていく。


 「そんなカズちゃんの姿見てたらね、カズちゃんがもの凄く遠い人になったみたいで……やっとカズちゃんと一緒に……そばにいれるのに……私」


 もうこれ以上の言葉をあすかは紡げなかった。

 そして、ようやく俺は理解した。なぜあすかがデートを誘ったのかを。     

 

 簡単に言えば、あすかは不安だったのだろう。

 何しろようやく帰ってきた幼馴染が、自分の先生になっていたのだから。

 昔のように気楽には話をしずらい立場。

 実際、こっちに帰って来てからあすかと話す時間はそれほど取れていなかったことに気づく。

 前とは違う環境にあすかは戸惑い、怯えていた。

 だからデートという名目で、俺と遊びたかった。昔のような関係に戻りたかった。

 そうあすかは思っていたのかもしれない。


 俺は目の前で涙を流し続ける幼馴染を眺めながら


 「……ふぅ、バカかよ」


 軽めに頭を叩いた。


 「いっ、痛いよ、カズちゃん。いきなり叩くなんて」


 「アホみたいなことで悩んでいるからだ」


 「あっ、アホみたいって……私はぁ、真剣に悩んで」


 ブツブツ何か言い始める。また変なネガティブスイッチが入ってしまったようだ。

 俺はその様子に呆れながら、一つ深呼吸し


 「いいか、あすか。一回しか言わないからな」


 力づくでこちらへと視線を向けさせる。

 その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、可愛い顔は台無しだ。


 「俺が教師になろうが何になろうがお前には関係ない。何があってもあすか、お前はお前だろうが。いつもみたいに慣れ慣れしく俺に話しかけて来い。俺が嫌になるほど困らせて見ろ。それが俺の知っている茅原あすかだろう。いつまでも泣いてんじゃねぇ。お前はいつもみたいに笑顔でいろよ」


 俺はまくし立てる様に、あすかに言葉をぶつける。

 すると、涙を流していたあすかはキョトンとした表情に。

 しかし、時間が経つごとに言葉の意味を認識してきたのか


 「……カズちゃん、その言葉はクサイよぉ。キャラに合ってなさすぎ」


 そんなことを笑いながら言う。

 俺自身も柄じゃないなと分かっているので、恥ずかしさMAX。

 今度は俺があすかの顔を見ることが出来ない。


 「だけど、凄く嬉しい」


 ポツリとあすかが言葉をもらす。


 「カズちゃんは変わってなかった。昔と一緒。相変わらず寒い台詞は平気で言うし、決まってないし」


 心にズサリと刺さる言葉だ。


 「少し格好悪いんだけど、最高に素敵な私の大切な人……カズちゃん!」


 あすかが俺の体に抱きついてくる。


 「大好きだよっ!」


 「ちょっ、人前で何言ってんだか。それに抱きついてくるなよ」


 「良いでしょ~。今はデート中だし、問題無いよぉ!」


 ふらふらしながら、なんとかあすかを支える。

 いきなりのことで驚きはしたが、なんとかバランスを保つことが出来たようだ。

 とはいえ、抱きつかれている状況は依然続いており


 「あのぉ、あすかさん。離れてくれな」


 「やだぁ! それにさっき言ってたでしょ? 俺を嫌というほど困らせてみろって。だから離れないっ!」


 自分の言った台詞に後悔する。

 しかし、さっきまでの暗い顔のあすかはもういなく、いつもの明るい笑顔の幼馴染がそこにいる。

 まぁ、この笑顔のためなら仕方がないのかな?

 そう思わずにはいられない。


 「なら暗くなって来たし、飯でも食べに行くか」


 「私もお腹ペコペコぉ~。もちろんカズちゃんの奢りだよね?」


 「……えっ、マジで?」


 そんな会話が繰り広げられていく。

 

 夕焼けに染まる公園


 今日は決してデートと言える一日ではなかったけど


 楽しい一日だったな、そう思える時間を過ごしたのだった。


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