ロージュの谷の魔術師
これは小さな小さな
ありきたりな恋物語の
ほんの最初の、一ページ
昔々のこと、没落しかけた田舎貴族の領土の村
その村から少し行ったところにある小さな丘の上に
不思議なほどに腕の良い医者が居た
死の床に居た病人すら此岸に連れ戻し
難病の患者をたった一つの薬で治し
心の臓が止まったけが人の息を吹き返させたことさえあった彼は
その腕前によって村の人々から
「ロージュの谷の魔術師」
と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた
「リシャール!リシャールってばぁ!!」
彼―リシャール・マンディアルグ(Richard・Mandiargues)は、
このロージュの谷では一目も二目も置かれている
凄腕の医者兼薬師|(兼もしかしたら魔術師)である。
「リーシャーアールー?」
この土地を治めるシャントルイユ(Chintreuil)子爵すらも
彼のことは位の高い貴族に対するかのように扱っている
「こら!私の言葉を無視しない!」
そう、まるで王侯貴族かのように
「この薬馬鹿!もう知らない!」
そう・・・彼に対して大きなことを言えるものは居ない
「はーやーく、返事なさーい!」
彼女以外は
「あーもう、聞こえてますからそんな大きな声出さないでくださいよ。」
「聞こえてるんだったら返事なさいよ!この薬馬鹿!」
「その罵り文句さっきも聞きましたよ。」
彼女の名は レティシア・シャントルイユ(Laetitia―)
そう、この土地を治めるシャントルイユ子爵の娘
放っておいたらいつの間にかたくましく育っていた、末の娘
そして
「何してるの?・・・うわっ。また薬草―?」
「薬草だけじゃありませんよ。」
「ふーん。これ・・・何?」
「イモリの黒焼きです。」
「本格的に黒魔術じゃない!どうしちゃったのよ!」
「どうにも治らない病に罹ってしまったので・・・」
彼の罹ったやっかいな難病
彼が今どうしても治したいその病
「貴方ぱっと見ピンピンしてるけど。」
「ははっ、そうですか?」
「症状はどんなものなのよ」
レティシアが他家に嫁ぐ16歳のその日までに
どうにか治してしまいたい病の
「そうですねー。まあ一般的な症状だとー」
「ふむふむ」
「動悸赤面四肢硬直摂食障害胸部の痛み、そして各種精神障害等々。」
「な、何だかよく分からないけど大変じゃない!」
「まあ僕はそこまで大変じゃないですよ。あくまで一般的な症状です。」
恋の病の、その原因。
「ん?一般的なってことは、結構皆罹る病気なの?」
「ええまあ。」
「・・・・・どの文献でも見たこと無いけれど・・・。」
「そうですか?レティシア様も何れ罹りますよ。」
「え、ちょ、怖いこと言わないでよ!」
「あー・・・でもレティシア様なら罹らないかもしれませんねー・・・なんていうか男らしいし。」
「え、男らしいと罹らないものなの!?というか何なのその病って!」
部屋に響く魔術師の笑い声と姫君の困惑声。
暖かい日の光が差し込むそこは、数多の文献と薬効のある不気味なものに囲まれて
とても物語の舞台となるような場所では無かったけれど
少なくとも彼にとっては
そこはとても大事な、恋の舞台
報われることが無い愚かな恋のためにあるような
ちっぽけな舞台だった。
これはよくある恋物語
時にしか治せない病に罹ってしまった魔術師と
時と永く歩むことが出来なかった少女の
ちっぽけな恋の物語
「ねえお兄さん。この本途中で終わってるよ。」
「どれどれ・・・・・・ああ、この本か。」
「何で冒頭文だけなの?続き読みたいよ。」
「ははっ、その本はまだ駄目だよ。」
「まだ?」
そうだね
この話を語るのは、もっと時間が経ってから
そうだ、丁度あの日のように
暖かくよく晴れた春の日に話そうか。
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とかまあなんやらかんやら言ってますが!
慣れないこと(恋愛系)した上にそろそろ飽きたので
この話はこれでおしまいっおしまいっ!
それでは皆々様、グッバーイ☆