カワタイサムさんを探しています
「カワタイサムさんを探しています」
A4の白紙にでかでかと乱暴に大きく書き殴られた文字。
その奇妙な紙が玄関ポストに投函されていたのに気付いたのは出勤時だった。
探し人の特徴も、探している人物の連絡先も書いていない奇妙な紙。
気持ち悪いと思い、丸めてエレベーターホールのゴミ箱に捨てた。
顔を上げた俺の目に飛び込んで来たのは集合ポスト全てに投函された紙だった。
「カワタイサムさんを探しています」
通勤途中、目についた電柱、掲示板、一軒家やマンションのポスト、ありとあらゆる場所に投函または貼られていた。
「カワタイサムさんを探しています」
その夜、仕事を終えて軽く飲み、終電で帰った。
駅に着くなり尿意を催した俺はトイレへ駆け込む。
ほろ酔い気分の中、用を済ませ、目線をあげると壁には
「カワタイサムさんを探しています」
俺は酔いも覚め、叫んだ。
駅員が何事かと駆け込んでくる。
震える手で貼り紙を指差すと駅員がため息を吐きながら貼り紙を剥がす。
今日だけで何十回も剥がしているがいつの間にか貼られているとのこと。
見渡すとトイレのあちこちに貼り紙は貼られていた。
「カワタイサムさんを探しています」
帰り道。
どの家のポストにも電柱にも掲示板にもまた投函されている、貼られている。
自分のマンションの集合ポスト、玄関ポストも例外ではなかった。
半狂乱になりながら俺はそれを丸めて捨てた。
数日間に渡りそんな騒動が続き、町はどこか暗い雰囲気になっていた。
とある日の昼休み。
ふらっと入った食堂で俺は定食をつつきながら、聞こえてきたテレビの音声に耳を疑い画面を見た。
アナウンサーが淡々と原稿を読み上げる後ろで燃え盛る民家の映像が映し出されている。
『昨夜未明、○県×市の民家が全焼する火事があり焼け跡から身元不明の一人の遺体が発見されました。警察は連絡が取れないこの家の持ち主、カワタイサムさんとみて捜査を進めています。』
家に帰ると玄関の集合ポストに入っているA4用紙。
そこにはとても丁寧な字で
「カワタイサムさんがみつかりました。ご協力ありがとうございました。」
遠くで何かが笑った気がした。




