司の存在
「それで?」
週末、司の部屋に行くと、司は紅茶をテーブルに置き、座って言った。その目はやさしく私を見つめている。
隣に座っている私は少し緊張していた。夏目さんには悪いけれど、司には全て話そうと思っていた。
「ゆっくり、話せることからでいいよ」
司の言葉に勇気をもらって私は話し出した。
夏目さんのことを話し終わると、司は憤慨していた。
「谷口先生って、そんな人だったんだな。俺、かなり幻滅したよ。夏目さんが可哀想だ」
「うん……」
「なんか理緒の気持ちが見えてきた。それを聞いて許せなかったんだろ?」
「そうなの。でも、谷口先生に言うときは迷ったの。営業には絶対悪い影響しか出ないのは分かったから」
私の言葉に、
「それはそうだろ。自分の立場が悪くなるかもと思えば誰だって迷う」
と司は声を和らげて言った。
「でもね、やっぱり人間的に許せなくて。言ってもどうなるかまでは分からなかったけれど、夏目さんの出入り禁止を解いて欲しくて、言ってしまった。二人がホテルから出てきたところを見たって」
「……うん」
私は目を伏せた。
「司は私、馬鹿なことしたと思う? たぶん、以前の私なら考えられない行動。母や兄はこんなことした私を罵るだろうから。でもね、私言ったこと後悔してないの。谷口先生がここまでしてくるとは思ってなかったけど」
司は私の頭を抱き寄せた。
「理緒は馬鹿なんかじゃないさ。夏目さんのために頑張ったんだろ? 俺は誇りに思うよ」
司の言葉にうるりとしてしまう。
「ありがとう。司が私を変えてくれたんだね」
「俺が?」
「うん。私、司にいっぱい愛してもらうことで段々自信がついてきたんだと思う。母や兄にけなされることより、司ならきっと私を応援してくれるって思えるの」
司は一瞬驚いた顔をして、次の瞬間嬉しそうに笑った。
「そっか」
私たちはお互い見つめ合って微笑んだ。
「俺が理緒の苦しみを少しでも減らせてるなら嬉しい」
司は言ってまた私を抱きしめた。
「だいぶん減らしてるよ。前はもっと母や兄に言われたことばかり思い出してた。でも今は司の言ってくれた言葉を思い出すようにしてるの。そしたら落ち着くし、強くなれる」
司は私を抱きしめる力を強めた。
「でも、まあ、今回のことは自分も窮地に追い込んじゃったけど」
私の言葉に司は抱きしめる腕を解いた。
「理緒。俺、今の理緒に何ができるか分からないけど、でも、俺のできることならなんでもするから」
司はまっすぐな目で私を見つめて言った。
「うん。司の存在だけでありがたいから大丈夫」
「ほんとか?」
「うん。だから、何があっても司には私のそばにいてほしい」
私はこんなわがまま言っていいのだろうかと少しだけ不安もあったが言った。司はそんな私に優しく目を細めた。
「それなら簡単だ。ずっとそばにいたいのは俺だから」
私はまた泣きそうになった。いつの間にこんなに司を好きになったんだろう。
「ありがとう、司。……大好き」
「そんな可愛い目で言うなよな。抱き潰したくなるだろ」
「いいよ?」
司は私の唇に触れるだけのキスをして、私をぎゅうっと抱きしめた。そして今度は深いキスをした。私は目を閉じ、司の温かい体温を感じ続けた。




