夏目さんの叱責
人目があるからと、夏目さんは営業後にタワー駐車場で待ち合わせしようと言ってきた。
今私は夏目さんの車の助手席に座っている。
「鈴木さん。谷口先生に何か言ったのね?」
質問というより確認をするように夏目さんは言った。
「……すみません。谷口先生があまりにも普通だったのが許せなくて」
夏目さんはふぅと息を吐いた。
「……私なら言わない。そりゃあ、気になるでしょうけれど、それで営業成績が下がるのは目に見えているもの。鈴木さんは今野さんと二人で回っているけれど、私は一人だしね。MRとしての自覚があるならしないことよ。呆れるわ」
私は夏目さんの言葉はもっともだと無言で頷いた。
「それでも、そこまでしてくれた貴女には感謝はしている。私のために……。でも、それで鈴木さん、腎臓内科の医局に行けなくなったんでしょう? 一体どんなことを言ったの?」
「ホテルから二人が出てきたのを見たと」
私の言葉に夏目さんは目を見開いて、二度目のため息をついた。
「私は鈴木さんを困らせてしまったのかしら。谷口とのことは話すんじゃなかったわ」
「私は夏目さんから聞いたことを後悔していません。その後の自分の行動は軽率だったとは思っていますが……」
私は夏目さんの目をしっかり見て言った。夏目さんは呆れたように息を吐く。
「本当ね。軽率過ぎるわよこれからどうするつもり?」
「谷口先生の無視には慣れました。腎臓内科の医局には行けなくなりましたが、他の科があるので他の科で頑張るしかないです」
私は努めて明るく言った。
「私と同じ状況ね」
夏目さんはもう何度目かのため息をつく。
「貴女がこんな目にあう必要なんてなかったのに……」
「馬鹿なことをしたとは思いますが、後悔はしてないので大丈夫です」
私はしっかり夏目さんの目を見て言った。
そんな私を見て夏目さんは思案するようにハンドルに目線を移した。
「何か困ったことがあったら言って。私のせいなのだから、協力できることはするわ。今の私にできることなんて限られてるかもしれないけどね」
「ありがとうございます」
私は夏目さんの車を降りて、夏目さんが帰っていくのを見送り、自分も車に乗り込んだ。




