初めてのお泊まり
私と司は近くのファミレスに歩いて行った。
私たちはハンバーグ定食とエビドリアを頼んで、シェアしたけれど、ほとんど司に食べてもらう形になった。
「よく食べるね」
「理緒は意外に食べないのな」
「……なんだか緊張して」
「そっか。まあ、初めてだし、怖い? 無理しなくてもいいよ? また抱き合って眠るだけでも俺は構わない」
「だ、大丈夫」
明日の朝食用にパンとコーヒー牛乳をコンビニで買い、私は下着も買った。
日は落ちたけれどまだ陽炎のように地平線は明るくて、辺りは薄暗いくらい。この時間になると風が冷やっとしてきて、秋になったと感じる。
私たちは並んで歩いていた。手が時々触れる。何度かそれを繰り返してると、小指と小指が絡んだ。それだけでドキドキする。
手を繋ぎたい。そう思うのは私だけだろうかと思っていると、手に司の手が重なって、恋人繋ぎになった。
「なんか、照れる。外で恋人同士らしいことするって」
私は俯きながら言う。
「繋ぐタイミングも難しいよな。俺は早く繋ぎたかったけど、理緒はどうなのかなって、それだけで心臓バクバク」
「でも、繋ぐとどきどきするのに、しっくりくるこの感じ。好きだからなのかな」
私たちは手を繋いだまま見つめ合って笑った。
司の部屋に入ると、繋いでいた手を引き寄せられ、深くて甘いキスをされた。
「シャワーかからせてってば」
腰砕けになりそうなのを我慢して、私は司の胸板を押し返した。
「一緒に入る?」
悪戯っぽく言われて、
「一人で入る」
と私は赤面しながら答えた。
「……あと、パジャマがないから、代わりになるもの貸してもらえない、かな?」
私のおずおずとした言葉に司の瞳が輝いた。
「もちろん! うわー、彼シャツってやつだよね? 理緒が俺のブカブカのシャツ……。ヤバイ。絶対イイ!」
司はそう言いながら白のシャツを持ってきた。
「タオルとバスタオルはこれ使って」
私は司に渡されたタオルを受け取ると、シャワールームに入った。
体の隅々を丁寧に洗う。司の使っているボディソープとシャンプー。同じ匂いになるんだと思うとなんだかくすぐったいような変な気分。
鏡に映る自分の裸を見て、少し怖くなる。今日、私は司の前で生まれたままの姿になるんだ。私は胸もお尻も平均より大きくてどちらかというと女らしい体型。今流行りの細いモデル体型ではない。司はどう思うかな。
シャワールームから出て、洗面所で全身を拭く。置いてあったドライヤーで髪を乾かした。
下着をつけて、司のシャツを着る。ボタンを留め終わって、鏡に映る自分を見た。
胸は少し窮屈。丈が膝小僧よりやや上。なんだか心もとない。しかも白なので下着がほんのり透けている。
「司、あの、色のついたTシャツはない?」
洗面所のドアを開けて、顔をのぞかせて言う。
「なんで? どうかしたの?」
司がやってきた。
「なんか、その、心もとないから」
「何? 見せて?」
司にドアを開けられる。私は全身がかっと熱くなるのを感じた。
「ヤダ、み、見ないで!」
隠そうとする手を優しくのけられる。
「……」
司の視線を感じて恥ずかしくて仕方ない。
「やべえ。なんかエロい。最高にイイ」
「へ、変態」
「男はみんな変態だよ? 俺もシャワーかかってくる。冷蔵庫から好きなの飲んでていいよ」
結局、色付きTシャツは貸してもらえず、私は仕方なくその格好で洗面所を出た。
喉が渇いていたので冷蔵庫を開けさせてもらうと、水と麦茶とそしてビールも入っていた。
私はビールを取り出した。
「理緒、ビール飲んだの? しかも三缶も……!」
「大丈夫。このくらいで酔ったりしないから」
少しだけふわふわする感じはあるけど。
「飲むなら一緒にが良かったなあ」
司がそう言いながらビールを持ってくる。そのビールに手を伸ばそうとすると、
「もう理緒はダメ」
と水の入ったペットボトルを渡された。
「俺は一本で十分だな」
プシュっと蓋を開ける音と司が喉を鳴らす音。司の喉仏が上下するのが色っぽく見えた。
「ねえ、私も少し欲しい~」
「……そんな目で言いよるなよ」
司の目が熱を帯びた。私の唇を司が塞ぎ、ビールが口移しで流し込まれる。
「満足した?」
司が意地悪そうに言った。私は、
「まだ、足りないよ?」
「困ったお姫様だ」
司はもう一度口移しで私にビールを飲ませた。そして、私を抱きかかえて、ベッドの上に寝かせた。
「あの、明るすぎるから恥ずかしい。電気を消してくれない?」
私の言葉に司は電気を豆球にしてくれた。
そして、司はまた私の唇を塞ぐ。柔らかく唇を食まれて私はうっとりと目を閉じる。司の舌が口内に入り込んできた。
お互いの舌を堪能する。唾液が溢れた。
「初めてだから痛いと思う。なるべく痛くないようにしたいけど、俺も経験豊かな訳じゃないから」
司が私の目を見て言った。私は頷く。
「初めてで何も分からないから、司に任せる。あの、よろしくお願いします」
「了解しました、理緒姫様」
司がまた深い口付けをしてくる。私の身体から力が抜けていく。いつのまにかボタンが外されていた。
司は本当に優しく私を愛してくれた。
私のコンプレックスの身体を綺麗だと言ってくれた。
司は私の身体をまず解きほぐして気持ちよくさせてくれた。私は初めて女であることを意識し、幸せに思った。
司を受け入れる時は痛かったけれど、それだけではなかった。初めての感覚。二人の呼吸が一つになっていく。
「理緒、好きだよ」
「私、も……」
***
身体に残る甘い痺れ。私は全身に力が入らなくなってただ目で司を見た。
「理緒……」
司は私に優しく口づけをして、力尽きたように私に全体重をかけた。
「嬉しい……司。私、司と一つになれた」
涙が溢れる。
その涙を優しく手で拭い、司は私の瞼に頬に唇に口づけを落とした。
「俺も嬉しい」
私たちはしばらく抱き合ったままお互いの温もりを感じていた。
うとうとと幸せな微睡みに沈もうとしたとき、司が髪をすいてくれているのが分かった。重たい瞼を押し上げると、司が私の顔を見ていた。
「な、何?」
「可愛いなと思って」
「も、もう! ばか」
「ばかついでに言ってもいい?」
「なあに?」
「もう一度したい」
私は笑ってしまった。
「……いいよ」
私たちはもう一度愛し合って、一緒にシャワーを浴びた。そして、二人でベッドに入る。
司の腕を枕にして寝ている私の首元に、司が鼻を寄せる。
「理緒、甘い香りがする」
「鈴木のボディソープで洗ったのに?」
「うん。ほの甘いクッキーみたいな香り」
「ほんと?」
「この香り好き。理緒の香り」
私たちはもう一度キスをして、抱き合う。いつのまにか眠りに落ちた。
私は司の温もりの中で、愛されてるって幸せだなと改めて感じて、司をもっと愛したいと思った。
次の日も朝からベッドの上でイチャイチャして、そのまま何度も最後までして、シャワーを浴びてから私は帰った。
一人の部屋に帰ってこんなに寂しいと感じたのは初めて。
『理緒が帰っちゃったから部屋がなんか寂しい感じ』
司のメールを見て、同じこと思ってるんだ、と嬉しかった。二ヶ月前は友達だったのに、不思議。心が司でいっぱい。
でも、幸せ過ぎて少し怖い感じもした。
そっか。この幸せがいつまで続くか不安になるんだ。マリッジブルーってこんな感じなのかな?
まだ結婚なんて全然決まってないのにそんなことを考える自分に呆れる。でも司と結婚なら、いいかも。なんて思う自分がいた。




