司の部屋で
沢野先生と友人……なんだか不思議なことになってしまった。鈴木はしろのことも気にしていたし、あまり良く思わないかもしれない。小さなため息が出た。
地下鉄に乗る前にメールをしたので、駅を出ると鈴木が待ってくれていた。
「そのスーツ着て行ったんだね」
「他に着ていけるような服がなかったから」
「似合ってるけど、俺の両親に会うときはもっと可愛らしい格好がいいな」
鈴木の言葉にどきりとする。
「ま、まだ先のことだよね?」
「さて、どうでしょう? でも、俺の両親に会うより先に沢野先生の両親に会ってくるなんて、本当に理緒って変なやつだよな」
「それは、否定できません」
私は苦笑いをして頭を下げた。
「私、昼ごはん食べてきちゃったけど、鈴木は食べた?」
「うん。俺も食べたから大丈夫」
鈴木のアパートはあの初キスの日以来だ。付き合いだしてからは初めて。少し緊張する。
カチャリと鍵を開けて、鈴木がドアを開けてくれた。
「お邪魔します」
沢野先生のマンションはあまりにも広すぎて落ち着かなかったけれど、ワンルームの鈴木の部屋には親近感を覚える。部屋は私の部屋より綺麗にしてあった。
「さて、今日のこと聞かせてもらおうかな」
鈴木は麦茶を入れてくれて、テーブルに置いた。
私と鈴木はベッドを背にして二人で並んで座る。私は鈴木の胸に自分の頭をぴとりとくっつけた。
「どうかしたの?」
「……色々あって疲れた」
「色々?」
「うん」
私は麦茶を一口飲んで、今日の出来事を話し出す。
「へえ。沢野先生、両親に鈴木のことMRってちゃんと言ったんだね」
「うん。沢野先生のご両親はそれでかなり嫌そうだったけど」
「まあ、医者とMR。なくはないけど、親からすれば医者同士がいいのかもな」
「うん」
「でも、昼ごはんそこで食べなかったなら、沢野先生と食べたの?」
鈴木の質問に、私はふぅとため息が出た。話さなきゃ行けないけど、鈴木、怒るだろうなあ。
「それ、浮気だから」
沢野先生の部屋に行ったことを話すと、冷たい鈴木の言葉が私を叩いた。
「部屋に二人きりとか絶対駄目でしょ」
鈴木は本気で怒ってる。私は、
「ごめん。でも、さらにごめん」
と謝る。
「さらにって、何?」
鈴木の声がますます低くなる。
私は意を決して、あったことを話した。
鈴木はかなり複雑そうな顔をした。
「う~、沢野の奴! 未遂で良かった」
そう言って鈴木は私をぎゅーっと抱きしめた。
「ほんと、何もなかったから言えることだけど、沢野先生の気持ちも分からなくはない」
鈴木はそう言った。
「好きな人と部屋に二人きりなら期待するし、手は出したいよな」
「私が軽率だった。本当にごめん。沢野先生にも悪いことした」
「ほんと。もう、絶対男と二人きりにはならないで」
鈴木は私の目を真っ直ぐに見て言った。
「うん。営業のときは無理だけど」
私も鈴木の目を見つめて返事する。
鈴木は私をもう一度抱きしめて、
「はあ。まじで、理緒が無事でよかった」
とまた繰り返した。
「でも、それで鈴木とのことバレちゃったよ」
「沢野先生は他の人に言わないでしょ、多分。それに俺的にはバレて良かった。けん制になる」
「まあ、そうなのかな。沢野先生、もう諦めるって言ってくださったし」
私の言葉に鈴木は安堵のため息を漏らした。
「一つ俺の心配が減ったな」
「でもね」
「何、まだあんの?」
げんなりした鈴木に私は沢野先生と友人になったことを話した。
「うーん。なんか微妙だけど、会う時、俺も一緒でもいいって言ったんだよね?」
「うん。でもさ、沢野先生と話が弾んでるところ見るの、鈴木はきつくない? 私だったら、糸田先生と鈴木が話弾んでたら、凄く嫉妬しちゃう」
「いや、俺も嫉妬する。でも二人にするのはもっとやだ」
鈴木の言葉に私は赤面する。なんだろう。凄く嬉しい。顔がにやけるのを隠すために下を向いたのに、
「顔赤い、理緒」
と言われて、ますます恥ずかしくなる。
鈴木は私の顔を覗き込んだ。そして軽く触れるだけのキスをした。
私たちは互いに赤くなりながら見つめ合った。
「あのね、鈴木」
「うん?」
「私、今回とっさに鈴木の名前を呼んだことで、自分の気持ちがよく分かった」
「ふーん? 自分の気持ちって?」
鈴木は私に言わせたいみたいだ。私はちゃんと告げるのはやっぱり恥ずかしくて、
「そ、そんな顔で見られたら、言いづらい」
と言ってしまう。
「じゃあどうすればいいの? あっち向く?」
「うう~」
私はいっぱいいっぱいになる。でも、こういう言葉はちゃんと鈴木の目を見て言わなきゃ駄目だと思った。
「私、鈴木のこと、司のこと、好き」
私は司の目を見つめて言った。
司の白い肌がみるみる赤くなっていく。それを愛おしく思った。
司は何も言わない。照れてるのは分かる。でも、何も言われないと、こっちも困る。
「あの、司?」
「いや、えっと、ごめん。なんかめちゃくちゃ嬉しくて、感動してるっていうか……」
司は赤い顔のまま私をまた抱きしめた。
そんな司がますます愛おしくなって、私も司の背に手を回す。お互いの温もりを確かめ合うように抱き合った。
「司、好き」
「俺も理緒が好き。今まで好きになった中で一番好きだよ」
「……嬉しい」
私たちは触れるだけの口付けを何度か交わした。でもそれだけじゃ足りなくて。キスは段々と深くなった。
「んんっ」
司のキスは私を欲張りにする。もっと。もっとしてほしい。
力が抜けて、ずるずると床に身体が沈んでいく。
司が一度唇を離して、
「大丈夫? 頭打ってない?」
と心配そうに訊いてきた。
「大丈夫。だから、もっと、キスして?」
司は私の言葉に、私に覆いかぶさって再び口付けをしてきた。
互いの舌を貪るような口付け。唇が離れた時は無くなった酸素を補給するように息をした。
「理緒。目がとろんとしてる。可愛いよ」
司の言葉に答えられないほど私の意識はぼんやりとして、ただ司を求めた。
司の手が私の胸の膨らみに触れてきて、私はピクリと反応する。始めは優しく、そのうち強く揉みしだかれて私の口からは甘い吐息が漏れた。
「理緒」
司が私の名前を呼んでくれると、少しだけ自分が好きになれる気がする。
「司。もっと名前呼んでほしい」
「理緒」
司が私の耳元で囁くように名前を呼ぶ。私は泣きたいほどの幸福感に包まれる。
「司、大好き」
私の言葉に答えるように司はまた深く口付けた。その唇が段々と下がっていく。首に口付けられると、
「あっ」
と私の口から声が漏れた。恥ずかしくて慌てて口を閉じるけれど、司はそんな私を見逃さない。
「理緒、首弱いの?」
司が舌を首筋に這わせる。
「んん~」
執拗に首に口付けられ、くすぐったいような、ゾクゾクするような快感に下腹が疼いた。
いつのまにかブラウスのボタンが外されていて、司の唇は首から肩に、肩から胸の方に下がっていった。
ブラジャーのホックを外され、胸が露わになったのかひやりとした空気を感じた。司の視線を感じる。
「や、やだっ。まだ明るいのにっ! 見ないで」
とっさに胸を隠そうとした手をやんわりとどけられた。
「見せて理緒。色白い。綺麗な胸」
司の温かい手が直接胸に触れた。
「ひあっ」
ゆっくりと揉まれる。司の指が胸の頂き付近を滑る度に、疼くような、焦らされてるような変な気分になる。
「理緒」
司の指が先端に触れて、私は痺れるような快感に、
「あぁ」
と喘いだ。その声に答えるように司は固くなった頂きを弄った。さらに、もう一方の頂きを口に含んだ。
「はぁ……っ」
舌で転がされ甘噛みされて、私の口からは喘ぎと吐息が漏れた。
「理緒。今日、帰したくないな」
司の掠れた声に、
「……私も帰りたくない」
と答えていた。
「で、でも、私、シャワー浴びてからがいい」
慌てて付け加える。司は笑って、わざと胸の谷間に鼻をくっつけ、匂いを嗅いだ。
「いい香りだよ?」
「そういう問題じゃなくて……」
私の言葉に、司は上体を起こした。
「そうだね。まだ夕方だし、晩ご飯食べてからゆっくり理緒を味わいたい」
司の言葉に私は頬が熱くなる。片方の手で胸を隠し、取り去られたブラジャーをもう一方の手で探す。
「もう少し見ていたかったなあ」
と司が言った。
私はブラウスのボタンを閉める。
「……もう少し可愛い下着を着てくればよかった」
呟いた私に、
「大丈夫。下着は脱がせるだけだから」
と司は言って笑う。私は赤くなって俯いた。




