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迎えた朝


「う、あああー?!」


 鈴木の叫び声で私は目を覚ました。鈴木の下になっていたから身体が痛い。


「痛た」


 私は起き上がり、肩をさする。


「な、な、何? なんで鈴木がここにいるの?」


 鈴木はパニクって頭を抱えてる。


「頭痛て~! う、気持ち悪い」


 慌ててトイレに駆け込む鈴木。


「大丈夫? だいぶん酔ってたみたいだからね。水も飲んだら?」


 私は欠伸をしながら言った。


「な、なんであんた、そんなに落ち着いてるの?!」

「私は記憶あるし。……何もなかったし」

「だよな? 何もないよな?」

「ないない」

「でも、俺、鈴木の上に……」


 と言った鈴木の顔がみるみる赤くなる。


「あー、鈴木を運んだはいいけどバランス崩してね」

「そうなの? ……なんか、悪かったな」


 バツが悪そうに、鈴木はそっぽを向いてそう言った。鈴木が耳まで赤くなってるのを見ると、私も正直恥ずかしい。


「これに懲りて酒飲み過ぎないことね」

「だな~。ああー、本当、ごめん!」

「じゃ、私帰るから」


 自分の鞄を手に取り、スカートをはたく。


「帰り道分かる?」

「分からないけど、タクシーで帰るからいいよ」


 と言った私のお腹がぐぅと鳴った。


「腹、減ってんの?」

「ま、まあ少し」


 そう答えると、


「冷蔵庫にあるもんでよければ何か食べてく?」


 と鈴木が言った。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 鈴木は部屋の中央にある真四角のテーブルに、フランスパンとチーズ、牛乳を置いた。


「鈴木は……食べられそうにないみたいね」

「うん、無理」

「じゃあ、遠慮なく。頂きます」


 私はフランスパンを口に入れる。塩味が美味しい。硬いのでよく噛んでるのだが、鈴木が食べる私を見ているのでなんだか恥ずかしかった。


「な、何?」


 牛乳で飲み込んで鈴木を見返す。


「なんか、鈴木がここにいるって不思議だな~と思って」


 辺りはすっかり明るくなって、鳥のさえずりが平和な朝を告げている。


「ほんとね」


 言ってまたパンを口にする。美味しいのだけれど、やっぱり漂う空気が恥ずかしい。さすがに彼氏でもない鈴木の部屋で朝ごはんなんて、おかしいと私でも思う。橘先生に、部屋に行ったりするなって言われたし。すぐ帰ればよかったかな。


「なんか、鈴木が食べてると美味しそう」

「やめた方がいいよ。また吐くよ? お水。お水飲んで」


 鈴木の目はまだどこかトロンとしている。


「鈴木がこんなにお酒弱いなんて思わなかった」

「逆に鈴木は強いな」

「まあね。お酒好きだし」


 もぐもぐ。流石にフランスパンを何切れか食べると顎が疲れてきた。


「なんか、スーツから鈴木の匂いがする」


 鈴木の言葉に私の頬が熱くなる。色々マズイのでは? と思う。


「ごめん。香水の匂いついちゃった? クリーニングに出してね。彼女さんを不安にさせちゃダメ。何もなかったんだから」


 ……唇は奪われたけど。


「彼女、ね……」


 鈴木は複雑な目でぼんやりと牛乳の入ったグラスを見て言った。


「鈴木?」

「あ〜、彼女とは……」


 鈴木はやっぱり焦点の合わない目で、何かを考えている風だった。


「一人で抱えきれないなら、相談しなよ?」

「もう、半分ケリはついてるから」


 煮え切らない様子でそう言って鈴木は水を飲んだ。

 長居をしてしまった。そろそろ帰ろう。


「鈴木は二日酔いだから、大人しくしときなよ。私は帰るね」


 私が立ち上がると鈴木も立ち上がり、お決まりのようによろけた。

 ドサッ。

 二人でベッドに倒れこむ。私は慌てて鈴木の身体を横に押した。

 男に免疫ないんだから、こういうの本当に困る!


「鈴木の身体、柔らかい」


 と呟いた鈴木の頭を叩く。


「そういうこと軽く口に出さないで! まだ酒が抜けてないみたいね。私は行くから、あんたは寝てなさい」


 私はベッドから起き上がると、バッグを手に一目散にドアを目指す。


「鈴木~」


 ベッドに倒れたままの鈴木の声に、


「何?」


 と無愛想に返す。


「ごめん。昨夜は介抱してくれてありがとう」


 その言葉に私は息を吐いた。こういうところが憎めないと思う。


「はいはい。クリーニングしてね? じゃあね!」


 私は鈴木の部屋を出てドアを閉めた。


 私は自分のアパートに着くと、スーツも脱がずにベッドにダイブした。

 昨日のスーツ。かすかに残る酒の匂いと鈴木の香り。

 ああ。

 早く脱いでシャワーを浴びたいのに、硬い床で鈴木の下敷になって寝たことで身体が痛くて、動きたくない。

 それに。


 私のファーストキス……。


 この年まで大切にとっておいたのだ。好きな人と思い出に残るようなキスをするんだとばかり思っていた。それが、友達の鈴木とで、酒の味で、ディープキスまで。しかも鈴木は彼女持ち。まるで理想とはかけ離れてる。

 私は唇を触る。

 鈴木の唇は温かくて柔らかくて。でも不思議だ。気持ち悪いとは思わなかった。酒臭かったけど。

 私、鈴木以外にファーストキスを奪われてたらどうだっただろう。

 ……それはもっと嫌かも? うん?

 誰かに話してスッキリしたい。でも、こんな情けない話、誰にできるというのだ。

 ああ。無かったことにできるならば。

 ただ一つの救いは、鈴木が酔っていて覚えていないということだ。

 そう。鈴木が覚えてないんだから、私が忘れれば無かったことになる。


 月曜日は普通に挨拶しよう。別に鈴木との関係が変わることはないのだから。


「シャワーかかろう」


 私はやっと起き上がってスーツを脱ぐと熱いシャワーを浴びた。


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