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5. 解決編『豚箱という舞台で光を浴びる』

テリフィウス座の前に車で向かうとすでにその場は他の刑事たちに包囲されていた。レイド刑事は車を止め、私たちは外へ出た。


「ここがテリフィウス座だ。」


初めてきた場所。

いやそれだけじゃない。

この世界に転生してから初めてちゃんと外に出た。

すごく…変な感じ…

ボーッとしていると…


「エレナ、エレナ。」


「あ…どうしたの、ソーマ。」


どうやらソーマは私がボーッとしているのに気づき、声をかけたらしい。


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫。ごめんね。」


そうかと言って前を向いたソーマ。

これから事件の全てを明らかにするというのに…

私はたった一つのことで気を取られるなんて。

まだまだだね。


「じゃあ、今から中へ入るよ。」


「行きましょう。」


私とソーマはレイド刑事の後ろについてテリフィウス座の中へ入った。


テリフィウス座の中は静寂に包まれ、不気味な雰囲気が漂っている。中へ進めば舞台の上でセンターに立つ一人の男。そしてその男に当てられた照明。舞台の上に立つ男は、照明に照らされながら舞台の上で佇んでいる。そしてその手には、犯人しか使わないであろうものを手に持っている。


「初めまして、探偵のエレナ・ランベルトです。」


「助手のソーマ・エルドットです。」


ソーマも名乗るんだ…驚いた。

いやいや、そんなことはどうだっていい。

今は目の前のことだけに集中…


「二年前のリューレルフ座で起きた少女の殺人事件。そして今回、テリフィウス座で起きた少女の殺人事件。一連の犯行はあなたの犯行ですね、レイノル・マルコフさん。」


私がそう言えば、こちらを向いて不気味に微笑む。

その姿に背筋が凍るような感じがした。

やはり役者をしているからなのだろうか。

なにを考えているのかが全く読めない。


だけど、彼の雰囲気に飲み込まれてはいけない。


「探偵さん。君は…どこまで知ってる?」


なに…この感じ…

挑戦的な目…試すような口調…

本当に不気味だ…


「そうですね。あなたが犯人であることは確かです。二人目の被害者の遺体発見現場のすぐそばに残された舞台用の小道具の扇子。レイド刑事が調べたところ、その扇子はあなたがよく舞台で使っていたそうですね。それに、残されていた扇子に被害者の血とは違う人間の血液が付着していた。あなたのでしょ?指に怪我をして今は絆創膏を貼っているけれど、そのときはすぐに気づかなかったんでしょうね、被害者の遺体を運ぶのに必死で。誰にも見つからないように静かに。」


そう、この事件の謎はそこだ。

なぜ、犯人は誰にもバレずに遺体を運べたのか。

それは、注意を逸らす何かがあったから。


「レイド刑事、被害者の遺体が舞台上に運ばれるのを誰も見ていないのですよね。」


「ああ、誰一人として。」


「それは、どうしてですか。」


「スタッフの証言だと、舞台の小道具を置いてある小屋から大きな音が長く続いて、みんな一斉に外へ飛び出したと…結局その小屋で見つかったのは爆竹だったが…」


「一件目も二件目もですか?」


「ああ。」


「そういうことか。」


どうやらソーマは分かったらしい。


「犯人は、小屋に爆竹をいくつもセットし、マッチで火をつける。そして、劇場内にいたはずの人たちが外へ出たのを見計らって遺体を舞台上まで移動させた。二件とも同じ手口で…。エレナ、そうだろ?」


「うん。劇場にいた人たちの集中がそっちに行けば、犯人は自由に動ける。それに、被害者の二人はまだ舞台に立っていない無名の存在。彼女たちにはメイクも衣装係もマネージャーも誰もついていなかった。被害者が殺害されバレるとするならばそれは出番の5分ぐらい前にスタッフが来て呼びに来るときぐらい。だけど、それは犯人にとって避ければならないことだった。」


レイノルの表情は崩れることがない。


「犯人の狙いは彼女たちに光を浴びさせること。無名の彼女たちの夢である舞台に立って光を浴びるという夢。だけどそれは、違う意味で叶ってしまった。彼女たちが光を浴びたのは、事件の被害者として、可哀想な被害者として。」


そう言った時だった。


「…っは!あははははっ!はあ……」


「何がおかしいの。」


「いや、別に。そうだよ、探偵さん。俺が犯人だよ。探偵さんが言った動機は確かにあってるけど…足りないよ。」


レイノルは悪びれる様子もなく笑っている。

初めて悪魔というものを見た気がする。

彼はもう人の心を持っていない。

悪魔だ…


「あの子たち二人は無名だ。無名は無名で終わる。光を浴びることは一度もない。一生な。才能もない人間が舞台立って光を浴びる?笑わせるな。舞台はそんなに甘いもんじゃねえんだよ!!」


ビクッと震える肩。

怯えてる。

犯人の叫びに。


「だから、才能のない一生無名止まりのあの二人に夢を見させてやったんだよ。叶えてやったんだよ。あいつらが望んだ舞台に立って光を浴びるっていう夢を死体でな!!」


「なぜ二年もの月日が経って、また同じ事件を犯したのですか。」


「そんなの、馬鹿な女が二年もの月日が経ってまた現れたからに決まってんだろ!!ろくな才能もない奴が舞台に立って光を浴びたいって言い出して、俺に相談するんだぜ?馬鹿だろ!あははっ!!現実を知れって話だよ!」


そんな理由でまた一人の命を奪ったの…

…っ。ふざけるな…


「ふざけるな!!レイノル・マルコフ。お前のせいで、未来ある二人の尊い命が奪われた。夢を見させてやった?叶えてやった?ふざけるな。私からすれば、あんたの方がよっぽど舞台に立って光を浴びる資格がないわ!私には彼女たちがどれほど努力したかなんて分からない。だけど、彼女たちはあんたと違って、リューレルフ座でもテリフィウス座でもみんなに愛されてたわ!」


私を睨みつけているレイノル。

怯えて隙を見せてはダメ。

これで終わりだ。


「なぜ、彼女たちの両目をくり抜いた!」


「あいつらは光を浴びるだけで十分だ。その姿を見る必要も、誰が自分を見ているのかも確認する必要がない。だから両目をくり抜いてやったんだよ!!」


「…このクソ野郎が!!!」


ソーマ…

そんな風に怒りを露わにするなんて。

まあでも、ソーマが言ってくれてスッキリした。


「無名…それは、今だけだったはず。彼女たちが生きていたら必ずいつか芽が出ていた。平気な顔をして人を殺すあんたが才能ないだの、一生無名だの語るな!終わりだ、レイノル・マルコフ。」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」


「…っ!」


ナイフ。

隠し持っていたんだ。

レイノルの右手に握られたナイフ。

こちらに叫びながら突進してくるレイノルに、レイド刑事が左太ももを銃で撃った。


「…っ!クソッ…クソッ!!!!俺の舞台が…俺は、俺は…誰よりも光を浴びる役者だ!!!」


この期に及んでまだそんな発言をするレイノル。

そのままレイノルは取り押さえられる。

だから私は一言言い放った。


「確かに、そうだね。あなたは誰よりも光を浴びるはずだよ。だって……最低最悪な残忍で凶悪な殺人鬼として、そして一生、豚箱という舞台で光を浴びるんだから。」


レイノルは私を睨みながらも、他に現場へ来ていた刑事によって連行された。


これで…これで事件が終わった…

そう思うと足の力が抜ける。


「…っと。危ないだろ…」


「ソーマ…。ごめん、ありがとう。」


受け止めてくれたソーマから離れる。


「ありがとう、エレナ。クリスが解決できずに残してしまった難事件を解決してくれて。」


「いえいえ。私一人の力では絶対に解けなかったと思います。お役に立てて良かったです。」


「俺はこれから署に戻るけど、二人はどうする?途中まで送って行こうか?」


「いえ、大丈夫です。歩いて帰りますから。」


「結構遠いけど…大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。」


「あ…そうか。分かった。また困ったときは知恵を借りることになるだろう。そのときは頼んだ。」


「はい。お待ちしています。」


レイド刑事は走って劇場を出て行った。


「私たちも帰ろうか。」


「そうだな。」


私とソーマも劇場を出て帰り道をゆっくりと歩く。

何かを話すこともなく、ゆっくり静かに。

そんなとき、沈黙を破ったのはソーマだった。


「あんな風に感情を出すんだな。」


「え!?あぁ…あれはほら、なんか腹が立って、、、」


「…っふ。ふはっ…!あははっ!」


「な、何よ!」


「やっぱり、エレナとは違うな。エレナは怒ったりしてもそんな風に口に出したりしないからな。」


なるほどね…

エレナは怒りの感情はあるけど口には出さないっと…


「だけど、俺は今の方がいいな。」


「…?どうして…?」


「お前なぁ…自分の姿を見たら分かるだろ…」


エレナの姿を見たら分かる?

何が?


「はあ…エレナはその見た目だし、優しすぎる性格だ。外に出れば確実に舐められる。だから、今のお前の方がエレナのためだ。」


舐められる…か。

確かに、転生した自分で言うのもなんだが、エレナは天使のような見た目をしている。いかにも舐められそう…心配になるぐらいにね。


まあ、でも…


「エレナはエレナ。私は私だから。安心してよ。私がエレナの身体にいる間は、私がなんとかしてあげるから。」


「なんとかってなんだよ…」


「うーん…なんとかはなんとか!」


「なんだそれ。」


「「あはははははっ!!」」


二人で顔を見合わせて笑い合った。

これはまだ、私たちの始まりにすぎない。

これから先、難事件が訪れることもあるだろう。

だけど、私とソーマなら大丈夫な気がする。


──神様、この世界に転生させてくれてありがとう。

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