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3. お前は誰だ

「何を言ってるの…私はエレナだよ?」


私がそう言ってもソーマは信じそうになかった。

ただただ首を横に振り私を睨んでいる。


「お前はエレナじゃない。あいつの話し方、表情、癖。幼馴染の俺が一番よく分かっている。だけど、お前にはエレナの話し方、表情、癖も何もない。」


ソーマが無表情だったのはずっと、私を観察していたから。彼が眉間に皺を寄せたのも事件のこともあるだろうが、私が偽物だと分かったからというのもあるだろう。


「お前は一体誰で、何者なんだ。」


鋭いその目。

もう分かっているんだぞと言われているみたい。

これ以上隠すことも、嘘をつくことも彼には通用しないんだ。


「今から言うことは、信じてもらえないかもしれない。嘘だと思われるかもしれない。だけど、正直に全てを話すよ。」


私は正直にソーマに話した。

元の世界、2025年から私はこの世界にそして、エレナというこの身体の少女に転生したこと。元の世界で事故で車に轢かれ死んだと思っていたはずが、目が覚めるとなぜかここにいたこと。エレナと私の共通点である両親が探偵であり、すでに亡くなっていて、私自身も探偵を継いだこと。全てを包み隠さず話した。


「なら、お前は死んだはずが、なぜかエレナの中に入ってしまった新たな魂ということか。」


「簡単に言えばそうなのかも。」


表情は崩さないソーマ。

本当に何を考えているのか分からない。


「エレナは病弱だった。よく風邪をひき、学校に行くこともできなかった。ここ何日間はずっと寝たきりの状態だ。」


ポツリポツリとエレナのことを話し始めた。


「エレナのことを知っているのは両親が亡くなった今、俺だけだ。レイド刑事もエレナのことは名前以外何も知らない。エレナは両親が病弱なエレナのために俺以外の人間は近寄らせなかったから。」


ソーマにとってエレナは大事な存在なのだとすぐに分かった。そして、エレナの両親がどれほど自分の娘を愛していたのかも…


私がエレナという少女の身体に転生したのは間違いだったのではないか。だけどその考えはソーマの言葉によって覆された。


「ありがとう。エレナに転生してくれて。」


どうしてそんなことを言えるのか…

エレナに転生したのは見ず知らずの人間。

それなのにどうしてそんな風に言えるのか…


「俺には転生とかそんなことはよく分からない。本の中の世界でしか知らないものだ。だけど、エレナが苦しんでいる姿はもう見たくないんだ。だからお願いだ、そのままエレナとして生きてくれないか。」


辛そうに話すソーマを見れば、どれほどエレナという少女が病弱だったのかを嫌でも理解してしまう。

エレナとして生きてほしい。

それはソーマがエレナに元気でいてほしい、そしてエレナと同い年の少女たちのように普通に生きてほしい。私はソーマのその言葉をそう捉えた。


「いいの…?私は本物のエレナじゃないんだよ。」


「それでも、俺の目の前にいるその姿はエレナだ。中身が違ってもそれだけは変わらない。」


姿はエレナのまま。

中身が違うだけ。


「それほど言うなら私はエレナとして生きる。そして、今回の依頼の事件を解決する。」


ソーマは笑った。

初めて見た。

彼が笑った顔を。

優しく微笑むその姿を私は目に焼き付けた。


「俺も手伝うよ。一人じゃ大変だろうから。」


「ありがとう。」


「ところで、どうして俺の名前を知っていたんだ?」


「エレナの記憶が残ってる。私の元の世界での記憶もね。」


なるほどと言ったソーマはどうやら疑問が全て解けたようで、スッキリとした顔をしていた。


「お前の本当の名前は?」


「高橋瑞穂。エレナと呼びにくかったら瑞穂って呼んで。」


首を横に振るソーマ。


「それだと変に思われるだろ。お前はエレナなんだから。それに別に違和感も、嫌なこともない。中身は違えどエレナはエレナだから。本物のエレナに似てるのはその姿と声ぐらいだな。だからといって何かを変える必要はない。お前はお前だ。それに時間が経てば俺はお前の仕草とかに慣れてしまうだろうからな。それが人間って言うものだろ?」


確かに。

慣れてしまえば記憶も慣れた方に書き換えられていく。人間というものはそういう生き物だ。

ソーマもエレナと同じ18歳だけど、かなり大人な考えを持っていると思う。彼はかなり頭がいいのだと改めて分かった。


「俺は一度家に帰る。明日の朝…そうだな、大体9時50分頃にはここに来るよ。俺の家はこの家の隣だからな。」


「分かった。明日の朝、待ってるね。」


「うん。それと、安心してくれ。誰にもお前が転生してきた人間だとは言わないから。それに、そんなことを言っても信じる奴は居ないだろうから。」


確かに、“私は転生してきました”なんていう話を信じる人間は居ないだろう。そんなものを信じるのはこの世界ではただ一人。目の前にいるソーマぐらいだろう。それは、自分の一番よく知ってる身近な人間の行動の異変に気づいたから信じられたのだ。


だけど、エレナことを知らない人たちに言っても信じられない。でも、それは当たり前のことだ。私がもし、他人に転生してきたと言われても信じなかったはず。だけど、ソーマと同じく、幼馴染や親友の行動の異変に気づき、転生してきたと言われたら信じるかもしれない。


それはやはり、関係値があるから。


「ありがとう、信じてくれて。また明日ね、ソーマ。」


「うん。また明日、エレナ。」


ソーマが隣の家に入るのを見た後、私は扉を閉めた。

正体はバレてしまったけれど、大変なのはこれからだ。事件の解決。これをなんとかしなければならない。


とりあえず、明日も朝からレイド刑事が来る。

今日は早く寝るとしよう。


私はこの世界に転生したときに目覚めたベッドの上に寝転んだ。脳裏に焼きつく被害者二人の変わり果てた姿。被害者たちのために、そして新たな被害者を出さないために早くこの事件を解決しなければ…

私は決意を胸に眠りについた。

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