2. 二人目の被害者
私は一人目の被害者の情報を全て一つのホワイトボードに書き留め、もう一つのホワイトボードに新たな被害者の情報を書くことにした。レイド刑事は封筒から書類を取り出すと私に渡す。その書類には被害者の情報が書かれていた。
「被害者はリーナ・ストラティア、15歳。被害者の遺体は劇場【テリフィウス座】の舞台上で発見された。被害者はテリフィウス座で踊り子をしていた。だが、無名の被害者はまだ一度も舞台には上がっていなかったらしく、被害者はいつか劇場の舞台に立つことが夢だったらしい。」
生前の写真に写る被害者は、まだまだ幼く見えるが、優しく微笑んでいる姿は立派な女性のようだった。
レイド刑事に渡されるもう一枚の写真。
それは、被害者の遺体が写された写真。
そこには一人目の被害者と同じく両目をくり抜かれ、抵抗したのだろうか服が少しはだけ、真っ白な服は血で染まり、切り傷が鮮明に見えている変わり果てた被害者の姿だった。
二人目の被害者も一人目の被害者と同じ15歳。
同じく舞台に立つことが夢だった。
一人目の被害者との違いは、二人目の被害者は踊り子という点と、劇場の場所が違う点だ。
「被害者は殺害された日の夜、初めてステージに立つ日だった。だが、この被害者もステージに上がることなく殺害された。」
やっと掴めた舞台に上がる夢。
それが犯人によって永遠に閉ざされた。
「二人目の被害者も一人目の被害者と同様、被害者の楽屋には散乱したメイク道具や衣装が残され、廊下には被害者の血液が発見された。そこから犯人が被害者の遺体を運び、舞台上に遺体を置いた。」
またも被害者の夢を違った形で叶えた犯人。
なんて人間なんだ。
なんのためにそんなことをするのか。
私には到底理解できそうにない。
「楽屋にはかなり血溜まりが出来ていた。被害者は犯人と楽屋で揉み合いになり、抵抗するも殺害された。犯人は遺体を舞台上まで運んだ後、もう一度被害者を刺した。一番の致命傷は喉に一突きされた刺し傷。複数の切り傷は軽傷だが、最後に刺されたであろう心臓への傷は深く突いていた。そして、最後に両目をくり抜いた。」
「一人目の被害者と全く同じ犯行ですね。」
「それだけじゃないんだ。二人目の被害者の壁にも血の文字でこう書かれていた。」
──『これで彼女もまた光を浴びる。』
写真に写った壁にはっきりとそう書かれていた。
「舞台に立って光を浴びたいと今回の被害者も周りによく話していたらしい。」
二人目の被害者の少女もまた、一人目の被害者と同じく被害者の夢である舞台に立つこと、そして被害者の望んだ光を浴びること。それを犯人は皮肉な形で叶えた…
残忍で狂気的な犯人。
15歳という二人の被害者の尊い命。
苦しみながら亡くなった被害者を思うと胸が痛い。
「レイド刑事。この事件、調べてみます。」
「君ならそう言ってくれると思っていたよ。ところで僕からも君に聞きたいことがあるんだ。」
「なんでしょう。」
「クリスはこの事件のことで何か言っていなかったか?」
何か…
私はエレナという少女に転生した身。
エレナの記憶を辿ってみるがこの事件に関して話しているなんてことは一度もなかった。それにどうやら、エレナの両親は解決している事件のことについてあまり話していないらしい。全てはノートに残された事件記録のみだ。
そういえば、一人目の被害者の写真が挟まれていたページの中にノートに書かれていた筆跡と同じ文字で一つの付箋が貼られていたエレナの父、クリスのメッセージ。あれはもしかすると、クリスが残した大事な一言なのかもしれない。
「レイド刑事がご存知かどうかは分かりませんが、一人目の被害者の写真を見つけた時、父の字で書かれたメモが書いてある付箋が貼られていました。」
「付箋?」
「はい。これです。」
ノートには色々な事件の記録が書かれていることもあり、守秘義務というものがある。私は付箋だけを剥がしてレイド刑事とソーマに見せた。
「この事件は、これだけでは終わらない…か。あいつは何か予感していたのかもな。」
連続殺人が起こるいう予感。
それがクリスには分かっていたということだろう。
だけど、なぜだろう。
なぜ二年もの月日を経て、今になって同じ事件が起こるのだろうか。
「レイド刑事、どうして二年もの月日を経て新たに同じ犯行手口の事件が起きたのでしょうか。」
「まだ分かっていないのだが、この事件には重要参考人が三人いる。」
三人の重要参考人…
「その三人の中に犯人がいると?」
「ああ。他のスタッフたちや舞台役者たちにはアリバイがあったが、その三人にはアリバイがなかった。三人の重要参考人は一人目の被害者の殺害された劇場リューレルフ座で働いていた。そして、二人目の被害者が殺害される二ヶ月ほど前に三人揃ってテリフィウス座に雇われた。」
一人目の被害者が亡くなってから二年近く経ち、偶然にも三人が同じ時期に二人目の被害者が殺害された劇場に雇われたんだ。
「重要参考人の三人は劇場の人間に金を借りたり、ギャンブルに依存したり、トラブルを起こしたりして問題ばかりだったらしい。我慢していた劇場のオーナーだが、そろそろ我慢の限界が来たらしく、解雇したらしい。」
「そして、拾ってもらったのが二人目の被害者が働いていたテリフィウス座ということですね。」
「そういうことだ。三人の情報はまた明日の朝にでも持ってくるよ。もう夜も遅い。今日はゆっくり休んでくれ、新たな探偵さん。」
レイド刑事は微笑んだ。
新たな探偵。
そうだ、私はエレナとして探偵をしなければならない。エレナの両親が残した探偵事務所で。
「また、明日の朝にお待ちしています。」
「朝の10時に来るよ。おやすみ。」
「はい。おやすみなさい。」
レイド刑事の後ろ姿を見送り、扉を閉めた。
探偵事務所兼自宅というのはなんとも楽なものだ。
元の世界は探偵事務所から自宅は少し離れていた。
そう考えると快適だ。
部屋に残っているソーマ。
しかも未だに黙っている。
一体、何を考えているんだ。
「なあ、エレナ。」
「どうしたの?」
「…お前は一体誰だ。」
え…?