02話-01 旅には、先立つものも必要よね
「あの雲、パンみたいだねぇ・・・」
ロッドがふいに空を見上げて呟いた。
「でも、あんなに空高くっちゃ食べれないの・・・」
ランがしみじみと呟いた。
ここは馬車の中。幌の一番後ろの開口部から見える景色がとても清々しかった。
その二人をなんとなく見る人の姿があった。
タキシードを身にまとった男性と、中世のフランス貴族を思わせる白主体のドレスを着た女性
そして、ロイとシグマ、馬を操作しているのはファルス、その隣にはスージー。
いわゆる護衛をしているのである。
「ダリス卿、そろそろホーリアの街へ着きますよ。」
スージーが馬車の中へ声をかけた。
今回の護衛は楽勝だった。こういう護衛は酷い時には山賊に襲われたり、野生の熊に出くわしたりと散々だが、それも稀で、今回も何も起こらなかった。
馬車は豪華ではないが、運賃にちょっと付け足したかのような金額設定にしてあるので、よく依頼される。(同業者に目くじら立てられぬように、気持ち高めに設定しているのだが・・・)
「また、帰りの護衛も頼むよ。」
男性はそう言って町役場へと入っていった。
「あの人たち、どういう立場の人なのかねぇ・・・」
ロッドが呟いた。
「お客の詮索はしないのが成功の秘訣だよ・・・」
ファルスがそう言った。一応ファルスは客がどのような境遇の人間かはある程度把握しているのだが・・・
旅の資金集めにこの付近に滞在して1か月ほどが経過していた。
今回のような護衛から、家の掃除など、いろいろな種類の仕事を受け、それぞれはそれほど高くない報酬をもらってきた。
「まぁ、ある程度資金繰りができたので、そろそろ次の旅をしようかねぇ・・・」
お金は多くてもよいが、あまり多すぎても何かしら狙われるので、適量を正当に稼ぐというスタイルになっている。
「ここからだと・・・次の目的地には・・・モルディアって村が近いねぇ・・・」
スージーはピクリと反応した。
「街じゃなくて村なんだねぇ。」
ロッドが疑問を呈してきた。
「そうだねぇ、そこは3つの村からなる小さな自治区なんだ。」
ロッドはキョトンとした。
「・・・じ・・・ち・・・く・・・?」
よくわからない単語を耳にしたロッドは聞き返した。
「ああ、自分たちでその土地を管理する、いわば小さな国家ってわけだ。」
「ふーん。そりゃ統治してる人たちは大変だねぇ・・・」
ロッドがそう答えた
「3つの村は、モルディア、グラハド、カデラっていう名前で、そうだなぁ・・・昔スージーと二人の時に立ち寄ったことがあるなぁ・・・」
ファルスはそう言った。もうかなり前だから、昔とは違うだろうなぁとも言った。
「スージー様は、行ったことあるの?」
ランが質問を投げかける。スージーは微笑みながら
「そうね・・・剣の稽古を一緒にしてた子がいたわよ。」
そう答えた。
「わたし・・・剣士になって、お父さんとお母さんが守ってきたこの村を守る。」
その強い意思のある言葉をスージーの前で言う少女がいたことを思い出した。
「ミュイ・・・元気かなぁ・・・」
スージーは昔を懐かしんだ。