01話-06 過去だって 思いは伝えなきゃね
「そうだねぇ・・・何から話そうか・・・」
宿のリビングにあるテーブルの席につき、ファルスはシグマに話しかける。
シグマは俯き呟く
「ロイでも気づいてたんだ・・・俺が鈍感だったってことだよな・・・・。」
「・・・ん?・・・」
ファルスがあいまいな相槌を打った。
「そうなのかねぇ・・・。スージーは皆が気付いてないって思ってたみたいだから、お互い様だろ・・・」
呆れた口調で言葉を追加する。
「ロイが気付いたのは、そうだねぇ・・・ちゃんと人としての距離感を持っていたからねぇ・・・」
シグマには意味が解らなかった。困ったような難しそうな表情をファルスに向ける。それに気づいたファルスが説明を加える。
「まぁ、いわゆる保護者の立場になる時があるのさ。この件に関しては、お前たちは仲が良すぎて、性別の疑問を持たなかったってことだと思ってるんだが・・・」
ファルスはさらりと述べた。
「俺が子供だってことなのか?」
小さな声で反論が聞こえた。
「そうとは言ってない。」
静かに否定の言葉が入る。
「お前たちは仲が良すぎて性別以外のことで充実してたんだよ。」
一拍置き、
「そして、違和感に悩み始めてきたんだろ。」
シグマは俯き加減にファルスを見た。そうだ、違和感というか、何かがだんだんと変わってきた・・・
「お前は体格も大きくなり、声も変わった。それに伴って力も強くなった。」
「対してスージーは、小柄なままで、華奢なところが目立ってきた。」
シグマが感じていた疑問がファルスによって、はっきりと言葉にされた。
「あいつは、お前の体格と力を羨ましがっていたぞ・・・」
そこまで言うとファルスは一息つきシグマに再度視線を合わせた。
シグマは黙っていた。
「まぁ、特に隠していたというわけでもないが、とりあえずいきさつを説明しようかねぇ・・・」
そこからファルスは初めてスージーと会ったところからの話をし始めた。
話の内容はこういう感じだった
ファルスが当時の仲間と別れ一人旅をし始めたころ、壊滅した村にて大雨にうたれ弱ったスージーと出会った。
そのあと回復したスージーと村から旅立つことになるのだが・・・
「まぁ・・・あの時は不本意だったのだが・・・」
ファルスが話の途中で、そう言った。
「・・・今でも・・・そうなのか・・・?」
シグマが質問した。ファルスは不敵な笑みを浮かべると
「そう思うかい?」
そう言った。
「安心したよ・・・」
シグマがそう呟いた。
話は続き
旅の途中で、少年と病弱な少女の旅人など格好のカモだ。
そこで・・・
スージーは髪を短く切り、少女の恰好をやめた。
また、
「足手まといは嫌だ!いいえ!むしろ、ファルスを守る!!」
と、剣の鍛錬を始め、今ではファルスですら勝てない程の剣士となった・・・
そういった話が続いた
「・・・まぁ・・・想像道理だった。」
シグマが話の顛末を聞きそう答えた。
「そう、悪気があって騙したわけじゃぁ無いからねぇ。」
しかも、騙していたというわけでなく、黙っていただけなんだが・・・ファルスはそう思ったが、後半は言うのをやめた。
「なんだか気になったのは、今の姿が合ってないということなんだろうなぁ・・・」
小さくシグマが呟いた。
「・・・ん・・・?」
呟くシグマが、穏やかに何か吹っ切れた笑顔を見せた。
「ファルス、気晴らしに買い物に付き合ってくれ!」
ファルスは唖然とした・・・が・・・
「スージーは甘いものでは釣れないぞ。」
まるで見透かされたことに驚いたシグマが
「・・・でも・・・いいだろ・・・」
少々くぐもった答えをすると
「ま、そうだね。」
ファルスはニカッとした笑顔を見せてそう言った。
「・・・う・・・ん・・・」
目の前に見える自分の手・・・・
”小さいなぁ・・・シグマなんてもっと大きいのに・・・”
ふわふわとした感覚の中でなぜかそんなことを感じた。
「ん・・・?」
ガバッと起き上がった。
スージーは今の自分がなぜここで寝ていたのか思い出せない。辺りは夕刻に近付いて少々赤みがかった光が差し込んでいた。
”えっと・・・私、今日は、シグマと手合わせしていて・・・”
勝って・・・それから・・・なんか負けて・・・楽しくなって・・・水浴びして・・・それから・・・それから・・・
ずっと考え事をしていて・・・
スージーはいきなりびっくりしたように目を見開いた。
しばし硬直したかのように動きが固まる。
だんだんと紅くなる表情を隠すかのように勢いよくシーツの中に潜った。
恥ずかしかった。
とてつもない羞恥心を感じながらシーツの中で丸まった。
暫くの時間が過ぎた。少々寝てしまっていたみたいだ。
今日はいろいろあったので、少々体がだるく感じる、くるまったシーツの中で時間が過ぎるのを待っていると
「スージー、今日は適当に夕食を買ってきたぞ。」
早く来いよとロイがドアの外から声をかけてきた
"なんか・・・食事するきもおきないや・・・”
そう思っているとギューグルルーと大きくお腹の音が鳴った。
自分の意思とは関係なく返事をしたお腹になんだか恥ずかしさを感じたが、仕方なく起きることにした。
「んー--!」と背伸びをしながらくるんだシーツの中から脱皮した。
「ん?」
スージーは枕元に置いてあった水色の何かに気付き、それに手を伸ばし、それを確認した。
「・・・・・」
リビングで三人はスージーを待ちながら、購入してきた食事を並べていた。
奥の方から、
「もうちょっと遅れるからー!」
とスージーの声が聞こえた。
ファルス、ロイ、シグマの3人は、意外に元気のある声に目をぱちくりした。
「もう立ち直ったのかな?」
ロイが呟いた。
「どうだろうねぇ。」
「そうだと・・・うれしいかな・・・」
それぞれが呟いた。
暫くして、静かにリビングのドアを開ける音がした。スージーがやってきたのだ。
「!!」
3人が3人共驚いた眼差しをスージーに向けた。
そこには・・・
水色の袖なしロングスカートのワンピースを着たスージーの姿があった。
「えっ・・・なに・・・?」
想像よりもびっくりした3人の表情に、スージーはたじろいだ。
それを見てファルスが笑いながら、
「いや、あまりにも似合ってたから、視線を奪われたよ。」
とても楽しそうに答えた。
「ああ、そうだな・・・いつもの服よりそっちの方がいいな。」
ロイが珍しく自分の意見を言った。
シグマは・・・驚いた表情を崩さずにスージーを見つめた。
「あ・・・あら・・・シ・・・シグマは・・・どう・・・なん・・・なのよ!」
あまりにもじぃっとこちらを見つめてくるので、スージーは語尾を女の子っぽく修正しながらシグマに言った。
すると、シグマは我に返り、コホンと咳をして
「・・・似合ってる・・・」
と小さく言った、そしてもう一度咳をして
「スージー・・・もう男の振りをしなくても・・・好きな恰好してもいいんだよ。」
かしこまってそう言うと・・・
「お前のことは、俺達・・・いや、俺が守るから!」
そう言った。
その言葉を聞き、スージーは耳まで真っ赤にし、照れ笑いしながら静かに反論した
「生意気言っちゃって・・・」
彼女の目尻に涙が浮かんでいた。
食事の後に、ファルスから、
「この服は、シグマが選んで買ったものだよ。」
と教えてくれた。また、購入する前に
「女性らしく生きたいかどうかは、彼女に決めてもらうよ。」
という想いで選んだ事、そして・・・
「俺は自然に女性の恰好をしてくれたスージーにも会いたい・・・。」
と、ぼそりと呟いていたこともスージーに伝えた。
スージーは顔を両手で覆い再び顔を紅らめた、
「う・・・ん・・・」
スージーが目を覚ました。
自分の長い髪が右手に絡んでいた。
「あぁ・・・風邪ひいて寝込んでたんだったけ・・・。」
自分の境遇を思い出した。
内容は覚えていないけれどなんだか長い夢を見ていた気分だわ。と思いながら隣に視線を向ける・・・と、傍らに人の気配があった。気配の主はシグマだった。
自分が寝ているベッドに体を寄せ、突っ伏して寝ている彼の左手がスージーの左手をしっかりと握っていた。
スージーはその寝顔を覗き込み嬉しそうに微笑んだ。