01話-01 過去だって、思い出よね
湖の近くにある小さな草むらで、カン!カン!!と乾いた音が響いていた。
「ほら、シグマ!そんな動きでは、また負けるぞ!!」
ウェーブのかかった長く黒い髪の小柄な少年と、同じくウェーブのかかった少々長めの銀髪の青年が木剣を使い試合をしている。シグマと呼ばれる青年が教えを請うているのだろう、完全に少年に押され気味だ。
「負けるのは嫌だが、勝てないものはしょうがないだろ」
シグマはそう少年に答えた。
案の定、その試合は少年の勝利に終わった。
軽く小突いたような剣戟に、シグマは自分の意思とは関係なく木剣を落としてしまったのだ。
「・・あぁ・・・こんな馬鹿にされるような一撃で・・・」
まるで大根役者が棒読みにセリフを言うようにシグマは呟いた
「・・・なに?・・・その言い方・・・」
不可解な表情を向け少年は、苦笑いを込めそう言った。
「スージーは、いつもこんな勝ち方するよね。」
今度は淡々としたセリフにジトッとした目つきが乗ってきた。
「うーん、力任せの剣術なら、ロイに教えてもらった方がいい・・・だろ!」
なぜか一瞬くぐもった声を発してスージーは返答する。
「・・・うーん・・・そりゃそうだ・・・」
一瞬考える素ぶりを見せそう答えた。
「うーん・・・」
夜も更けてきた頃、宿の中庭で満月に近い月を見上げスージーが両膝を抱え込むように座り、小さく唸った。
「どうかしたのかい?」
後ろからシグマとは違う男の声が聞こえた。
「ん・・・・ファルス・・・」
そこには短い銀髪で長身の男性・・・ファルスが立っていた。スージーは彼しかいない事を確認し、ちょっと長めのため息をつくと
「そうねぇ・・・最近女の子の口調に戻してきてるんだけど、2人の前だと躊躇しちゃってねぇ・・・」
スージーがそう答えた。ファルスは小さいため息をつき
「ロイとシグマには俺から伝えておこうか?」
スージーはもう一度月に目線を直し、少しの時間沈黙すると
「・・・ていうか、気づいてよ!!」
と毒付いた。
「だいたい、私、性別の話なんか彼らに一回も言ってないし!!」
スージーの虚しい声が聞こえた。
かつて盗賊に襲われた村の生き残りとして、ファルスに拾われたスージー、
ファルスは近くの村に保護してもらうことを考えたが、どうしてもついて行くというスージーの強い意志に負け、2人で旅人となった。しかし、旅人が女として過ごすには世間の治安はあまり良いことは起こらないので、約3年の間、男の振りをして旅をしてきたのだ。
約2年前に仲間となったロイとシグマ。
そのころは慣れてしまった男の仕草にあまり疑いはなかったみたいで、性別の話などなに一つしていないが、男として認識されてしまったみたいだ。スージー自身もあまり性別の必要性がなかったので、特に気にせずに過ごしていた。まぁ、トイレや水浴びなどは別々にしていたので、2人の認識としては“恥ずかしがり屋の男の子“という認識だったのだろう。
しかし小柄で病弱な彼女に遅くめぐってきた成長期によって、男と言い続けるには無理が生じてきたのだ。
甲高いままの声、小さな胸の膨らみ、約30日に一度訪れるようになった体の不調など・・・
「悔しいかな、シグマに初めて会った時は、そんなに体格変わらなかったのに、今では背も高くなっちゃって、力なんか全然かなわないもんねぇ・・・」
自身の細い腕をさすりながらそう呟くと、いつも無表情なシグマの顔が頭に浮かんだ・・・
いきなり浮かんだ そのいつもの表情にスージーは顔を赤らめた。そして・・・
「気付けよ!・・・バカ!!」
小さな声で、素早く呟くと両膝を抱える腕に顔を埋めた。
“青春だねぇ・・・下手な口出しはしない方が良いみたいだねぇ・・・”
そんなスージーをファルスは微笑ましく見守った
このお話は、私がまだ小学生の頃にノートに書いていた漫画が元になっています。あの頃は結構はちゃめちゃな内容だったので、かなり修正しての内容になっております(笑)それでいても、性別の偽造のエピソードを消しづらかったので、思い出に集約した・・・という結果にしました。一緒に暮らしていて性別が分からないなんてそんなこと皆無ですから・・・・結構強引に過去話を盛り込んでみました。
なお、このお話はストック無いので結構ゆっくり書いていくことになると思います。